11:45 〜 12:00
[MIS03-07] 7300年前のアカホヤ火山灰堆積後に降水量と気温が屋久島の土壌―植生系の形成に与えた影響
キーワード:リン, 火山灰, 栄養塩利用効率, 気候, 土壌生成過程, 栄養塩循環
屋久島では現在、標高傾度に沿って植生の垂直分布が見られる。7300年前に屋久島の北西20kmに位置する鬼界カルデラの噴火により噴出したアカホヤ火山灰がほぼ全域に堆積し、当時の植生は壊滅的な影響を受けたと言われる。従って、現在の屋久島の植生は7300年間の土壌生成とともに垂直的に分化、成立したものと考えられる。陸上生態系(土壌-植生系)の形成には、気候、地形、生物、母材、時間という5つの独立した要因が関わる。屋久島では母材や時間が一定であり、現在の植生垂直分布には気候が大きな影響を及ぼすと考えられるが、気温と降水量のどちらがより強く関わっているのかは明らかではない。そのため、7300年前に火山灰が堆積した後、気温と降水量が土壌-植生系の成立に与えてきた影響について、土壌栄養塩とリターの栄養塩利用効率との関係を通して検証することを本研究の目的とした。
異なる標高に設定した7つの永久調査地から表層土壌(0-10、10-20cm)を採取し、これらの土壌の化学分析を行った。Tiessen & Moir(1996)のリン連続抽出法に従いリンを分画し、画分毎のリン濃度を決定した。また、土壌から1.5NのKCl溶液を用いて交換態陽イオンと無機態窒素を抽出し、それらの濃度を決定した。これらの森林から新鮮なリターを採集し、リター中のリンと窒素の濃度を測定した。リター生産におけるリンと窒素の栄養塩利用効率として、リターのリンと窒素の濃度の逆数を使用した。得られた値と、降水量と気温との関係を調べた。降水量と気温は、国土交通省国土政策局が公表している国土数値情報平年値メッシュデータを各森林のGPS情報と照合して入手した。
土壌の全リン濃度と無機態窒素濃度は、それぞれ降水量よりも気温と強い相関があった(リン:R=0.77 p<0.05、 窒素:R=0.72 p=0.07 (10-20cm深 気温との相関))。リンの画分の中で、特に吸蔵態リンは温度と有意な正の相関が見られた(R=0.76 p<0.05(10-20cm深))。一方、土壌中の交換態カルシウムとマグネシウムの濃度は、気温よりも降水量との相関が強かった(カルシウム:R=-0.88 p<0.01、マグネシウム:R=-0.86 p<0.05 (10-20cm深 降水量との相関))。また、土壌全リン濃度と無機態窒素濃度にはそれぞれの栄養塩利用効率と負の相関があった(リン:R=-0.82 p<0.05、窒素:R=-0.68 p=0.09)
リンは森林生態系では閉鎖的に循環し、系外からの加入は少ない。屋久島は土壌生成年代が7300年と新しく、現在の表層土壌中に含まれるリンのほとんどが火山灰由来だと考えられる。Walker & Syers (1976)の土壌生成に伴うリンの形態変化のモデルによれば、土壌生成とともに、土壌中の全リン濃度や一次鉱物由来のカルシウム態リンは減少し、植物の利用しにくい吸蔵態リンは増加する。本研究では、土壌風化がより進むと思われる低標高ほど吸蔵態リンが増加したが、全リンは増加するという結果が得られた。さらに、火山灰供給時の形態として最も多いカルシウム態リンは土壌風化が進むと思われる低標高ほど多かった。これらの結果はWalker & Syers (1976)の示したモデルと異なり、温度と降水量が、風化と栄養塩の溶脱に複雑に影響し、現在の土壌リンの標高パターンが形成されている可能性が示唆された。
本研究の調査地における降水量は年間3700-4800mmで標高との間に相関関係はなかった(R=-0.21 p=0.66)。高標高では降水が蒸発散量を上回り、土壌有機物の分解とともに酸素が消費されるため、より還元的な環境となる。さらに高標高では土壌pHが低いために、酸性で可溶化する一次鉱物のリン酸カルシウムが溶脱し、鉄やアルミニウム、さらにそれらに結合するリンの溶脱が促進されたと思われる。その結果、全リンも高標高ほど低下したのであろう。一方、ある程度の蒸発散量が見込まれる酸化的な低地では、全リンが維持されるとともに吸蔵態リンの生成が進んだと考えられる。従って、温度と降水量の効果には複雑な関係が想定されるが、植物にとって可給性の高い無機態リン画分や土壌無機態窒素濃度は低標高ほど高かった。これには温度の窒素無機化に対する直接的な影響と、リン可給性を介在した間接的な影響の2つが考えられる。今回はこれらの影響の分離はできなかった。
このように土壌中のリンと無機態窒素は、降水量よりも標高の影響を強く受けた結果、温度に応じて濃度勾配が形成されたと考えられる。これがリンと窒素の可給性を支配するために、森林のリン利用効率と窒素利用効率に大きな影響を及ぼす結果が得られたのであろう。このような土壌の影響が、植物への温度の直接的影響に加わり、屋久島の植生垂直分布が形成された可能性が示唆された。
異なる標高に設定した7つの永久調査地から表層土壌(0-10、10-20cm)を採取し、これらの土壌の化学分析を行った。Tiessen & Moir(1996)のリン連続抽出法に従いリンを分画し、画分毎のリン濃度を決定した。また、土壌から1.5NのKCl溶液を用いて交換態陽イオンと無機態窒素を抽出し、それらの濃度を決定した。これらの森林から新鮮なリターを採集し、リター中のリンと窒素の濃度を測定した。リター生産におけるリンと窒素の栄養塩利用効率として、リターのリンと窒素の濃度の逆数を使用した。得られた値と、降水量と気温との関係を調べた。降水量と気温は、国土交通省国土政策局が公表している国土数値情報平年値メッシュデータを各森林のGPS情報と照合して入手した。
土壌の全リン濃度と無機態窒素濃度は、それぞれ降水量よりも気温と強い相関があった(リン:R=0.77 p<0.05、 窒素:R=0.72 p=0.07 (10-20cm深 気温との相関))。リンの画分の中で、特に吸蔵態リンは温度と有意な正の相関が見られた(R=0.76 p<0.05(10-20cm深))。一方、土壌中の交換態カルシウムとマグネシウムの濃度は、気温よりも降水量との相関が強かった(カルシウム:R=-0.88 p<0.01、マグネシウム:R=-0.86 p<0.05 (10-20cm深 降水量との相関))。また、土壌全リン濃度と無機態窒素濃度にはそれぞれの栄養塩利用効率と負の相関があった(リン:R=-0.82 p<0.05、窒素:R=-0.68 p=0.09)
リンは森林生態系では閉鎖的に循環し、系外からの加入は少ない。屋久島は土壌生成年代が7300年と新しく、現在の表層土壌中に含まれるリンのほとんどが火山灰由来だと考えられる。Walker & Syers (1976)の土壌生成に伴うリンの形態変化のモデルによれば、土壌生成とともに、土壌中の全リン濃度や一次鉱物由来のカルシウム態リンは減少し、植物の利用しにくい吸蔵態リンは増加する。本研究では、土壌風化がより進むと思われる低標高ほど吸蔵態リンが増加したが、全リンは増加するという結果が得られた。さらに、火山灰供給時の形態として最も多いカルシウム態リンは土壌風化が進むと思われる低標高ほど多かった。これらの結果はWalker & Syers (1976)の示したモデルと異なり、温度と降水量が、風化と栄養塩の溶脱に複雑に影響し、現在の土壌リンの標高パターンが形成されている可能性が示唆された。
本研究の調査地における降水量は年間3700-4800mmで標高との間に相関関係はなかった(R=-0.21 p=0.66)。高標高では降水が蒸発散量を上回り、土壌有機物の分解とともに酸素が消費されるため、より還元的な環境となる。さらに高標高では土壌pHが低いために、酸性で可溶化する一次鉱物のリン酸カルシウムが溶脱し、鉄やアルミニウム、さらにそれらに結合するリンの溶脱が促進されたと思われる。その結果、全リンも高標高ほど低下したのであろう。一方、ある程度の蒸発散量が見込まれる酸化的な低地では、全リンが維持されるとともに吸蔵態リンの生成が進んだと考えられる。従って、温度と降水量の効果には複雑な関係が想定されるが、植物にとって可給性の高い無機態リン画分や土壌無機態窒素濃度は低標高ほど高かった。これには温度の窒素無機化に対する直接的な影響と、リン可給性を介在した間接的な影響の2つが考えられる。今回はこれらの影響の分離はできなかった。
このように土壌中のリンと無機態窒素は、降水量よりも標高の影響を強く受けた結果、温度に応じて濃度勾配が形成されたと考えられる。これがリンと窒素の可給性を支配するために、森林のリン利用効率と窒素利用効率に大きな影響を及ぼす結果が得られたのであろう。このような土壌の影響が、植物への温度の直接的影響に加わり、屋久島の植生垂直分布が形成された可能性が示唆された。