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[G02-01] 「逃げる,隠れる」行動を学ぶための噴石実験教材: 御嶽山2014年噴火を教訓として
キーワード:噴火, 噴石, 水蒸気噴火, 避難, アナログ実験
<御嶽山噴火の教訓>
2014年9月27日午前11時52分,御嶽山はほとんど前兆もなく静かに噴火を始めた。まもなく激しい爆発音とともに多数の噴石が飛んできた(おそらく11時55分くらい:『ドキュメント御嶽山大噴火』,ヤマケイ新書)。山頂小屋の屋根をつきやぶった噴石は60センチメートルもの大きさがあった(火山噴火予知連絡会御嶽山総合観測班地質チーム,2014)。火口から400?500mの地点では,4m×4mの範囲に噴石落下による穴が10個以上分布するほど高密度だった(金子ほか,2014)。この爆発は高圧の水蒸気によるものであるが,その爆発のエネルギーはTNT火薬数トンに相当する(谷口・植木,2014)。この爆発により吹き飛ばされた爆発点周辺の石の初速度は約100m/秒と推定されている(金子ほか,2014)。このような高速の噴石を視認してかわすのはほぼ不可能であり,頭部にあたれば小さなものでも致命傷となっただろう。爆発当時山頂部分には数百人の登山者がいたと推定される。このうち,57名の方が犠牲になった。また,いまだに6名の行方不明者の方がいる。犠牲者の多くは噴石が頭部に当たることにより命を落としている(マスコミの報道による)。
<「逃げる,隠れる」行動の有効性>
御嶽山からの生還者の手記には,とっさに取った噴石回避行動が書かれている。例えば,ザックを頭の上に載せ,座ったまま斜面をずりさがって避難する,近くの山小屋に逃げこむ,岩の陰に身を隠すなどである(山と渓谷社編『ドキュメント御嶽山大噴火』,ヤマケイ新書,2014)。このような行動は生存率を高める効果があったろう。
火山学者の意見も同様である。2014年11月の秋の火山学会(福岡)では,御嶽山の噴火を受けて数々の会合が行われた。その一つに火山防災委員会の緊急セッションがあった。その緊急セッションで提案され,会期中に行われた臨時セッションで,噴石から身を守るためにはどうするべきか議論が行われた。岩陰に隠れるという意見と,遠くに逃げるという意見の両方があった。火山学者も「逃げる,隠れる」行動を推奨しているのである。
<実験のシステム>
講演者らは,御嶽山の2014年噴火のような突然の水蒸気噴火に遭遇した時にも,あわてずに「逃げる,隠れる」行動がとれるように教育するための,「噴石から身を守るための実験教材」を開発し,小学校から大人までのさまざまな層を対象に出前授業などの教育実践をおこなった。
実験装置は,火山模型の部分と空気を送り込む部分からなっている。火山模型は火山の形をしており,頂上部分に火口がある。側面のパイプから導入した空気が火口からぬけるようになっている。火口の底の部分には台所用ネットが張ってあり,噴石のかわりの紙粘土のかけらを支持する構造になっている。パイプは塩化ビニル製,火口部分はペットボトルの口,火山本体は紙粘土でできている。一方,空気を送り込む部分は自転車のチューブ(タイヤの中に入っているゴム製のチューブ)と空気入れからなっている。チューブをカットし,片方を塞いである。
この模型の火口部分に噴石がわりの紙粘土(軽いタイプ)の乾燥したカケラを数十個いれ,チューブにためこんだ空気を模型に導入すると,空気とともに噴石(紙粘土)が飛び出す。およそ半径2mの範囲に紙粘土の噴石は落下する。なお,開発した実験教材はほぼ2000円の材料費でつくることが可能であり,材料はホームセンターなどで調達可能である。
学校の授業で使う場合にはあらかじめ岩のかわりになる大きな紙粘土の固まりを置いておく。一度実験で噴石を飛ばしたあと,「どのような所にいれば噴石から身を守れると思いますか?」とこどもたちに発問し,回避行動について考えさせる。子どもたちには,自分の身体のかわりにゴルフのピンを逆さまにしたものを渡し,安全と思う場所においてもらった。ゴルフのピンは逆さまに立てることができるが,紙粘土の噴石がぶつかるとすぐに倒れてしまうので,紙粘土が当たったかどうか判定するのが容易である。
<実験の効果>
小学校高学年のこどもたちからは,正しく判断してピンをおくことができた。多くの子どもは岩の陰にピンを隠した。これは「隠れる」行動であり,もちろん正解である。中には隣のテーブルにピンを置いた子どももいる。これは「逃げる」行動であり,すばらしい正解である。このように本実験は噴石からの回避方法を学ぶための良い教材となりうる。
2014年9月27日午前11時52分,御嶽山はほとんど前兆もなく静かに噴火を始めた。まもなく激しい爆発音とともに多数の噴石が飛んできた(おそらく11時55分くらい:『ドキュメント御嶽山大噴火』,ヤマケイ新書)。山頂小屋の屋根をつきやぶった噴石は60センチメートルもの大きさがあった(火山噴火予知連絡会御嶽山総合観測班地質チーム,2014)。火口から400?500mの地点では,4m×4mの範囲に噴石落下による穴が10個以上分布するほど高密度だった(金子ほか,2014)。この爆発は高圧の水蒸気によるものであるが,その爆発のエネルギーはTNT火薬数トンに相当する(谷口・植木,2014)。この爆発により吹き飛ばされた爆発点周辺の石の初速度は約100m/秒と推定されている(金子ほか,2014)。このような高速の噴石を視認してかわすのはほぼ不可能であり,頭部にあたれば小さなものでも致命傷となっただろう。爆発当時山頂部分には数百人の登山者がいたと推定される。このうち,57名の方が犠牲になった。また,いまだに6名の行方不明者の方がいる。犠牲者の多くは噴石が頭部に当たることにより命を落としている(マスコミの報道による)。
<「逃げる,隠れる」行動の有効性>
御嶽山からの生還者の手記には,とっさに取った噴石回避行動が書かれている。例えば,ザックを頭の上に載せ,座ったまま斜面をずりさがって避難する,近くの山小屋に逃げこむ,岩の陰に身を隠すなどである(山と渓谷社編『ドキュメント御嶽山大噴火』,ヤマケイ新書,2014)。このような行動は生存率を高める効果があったろう。
火山学者の意見も同様である。2014年11月の秋の火山学会(福岡)では,御嶽山の噴火を受けて数々の会合が行われた。その一つに火山防災委員会の緊急セッションがあった。その緊急セッションで提案され,会期中に行われた臨時セッションで,噴石から身を守るためにはどうするべきか議論が行われた。岩陰に隠れるという意見と,遠くに逃げるという意見の両方があった。火山学者も「逃げる,隠れる」行動を推奨しているのである。
<実験のシステム>
講演者らは,御嶽山の2014年噴火のような突然の水蒸気噴火に遭遇した時にも,あわてずに「逃げる,隠れる」行動がとれるように教育するための,「噴石から身を守るための実験教材」を開発し,小学校から大人までのさまざまな層を対象に出前授業などの教育実践をおこなった。
実験装置は,火山模型の部分と空気を送り込む部分からなっている。火山模型は火山の形をしており,頂上部分に火口がある。側面のパイプから導入した空気が火口からぬけるようになっている。火口の底の部分には台所用ネットが張ってあり,噴石のかわりの紙粘土のかけらを支持する構造になっている。パイプは塩化ビニル製,火口部分はペットボトルの口,火山本体は紙粘土でできている。一方,空気を送り込む部分は自転車のチューブ(タイヤの中に入っているゴム製のチューブ)と空気入れからなっている。チューブをカットし,片方を塞いである。
この模型の火口部分に噴石がわりの紙粘土(軽いタイプ)の乾燥したカケラを数十個いれ,チューブにためこんだ空気を模型に導入すると,空気とともに噴石(紙粘土)が飛び出す。およそ半径2mの範囲に紙粘土の噴石は落下する。なお,開発した実験教材はほぼ2000円の材料費でつくることが可能であり,材料はホームセンターなどで調達可能である。
学校の授業で使う場合にはあらかじめ岩のかわりになる大きな紙粘土の固まりを置いておく。一度実験で噴石を飛ばしたあと,「どのような所にいれば噴石から身を守れると思いますか?」とこどもたちに発問し,回避行動について考えさせる。子どもたちには,自分の身体のかわりにゴルフのピンを逆さまにしたものを渡し,安全と思う場所においてもらった。ゴルフのピンは逆さまに立てることができるが,紙粘土の噴石がぶつかるとすぐに倒れてしまうので,紙粘土が当たったかどうか判定するのが容易である。
<実験の効果>
小学校高学年のこどもたちからは,正しく判断してピンをおくことができた。多くの子どもは岩の陰にピンを隠した。これは「隠れる」行動であり,もちろん正解である。中には隣のテーブルにピンを置いた子どももいる。これは「逃げる」行動であり,すばらしい正解である。このように本実験は噴石からの回避方法を学ぶための良い教材となりうる。