日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] Natural hazards impacts on the society, economics and technological systems

2015年5月25日(月) 11:00 〜 11:45 203 (2F)

コンビーナ:*ELENA PETROVA(Lomonosov Moscow State University, Faculty of Geography)、Hajime Matsushima(Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University)、座長:松島 肇(北海道大学大学院農学研究院)

11:18 〜 11:21

[HDS07-P02] 震災により作られた俳句の理解に対する知識の影響

ポスター講演3分口頭発表枠

*青木 陽二1藤田 均2熊谷 圭介3ジャンボール 絹子4 (1.放送大学、2.青森大学、3.長野大学、4.国際俳句交流協会)

キーワード:知識の影響, 俳句の理解, 震災俳句

1. はじめに
日本人が生み出した俳句という詩は、日本の自然が季節変化に富んでいたので、季節を愛でる文学と見られた。このような詩は、自然から受ける情感を表現するのに向いていたが、もっと大きく強烈な自然の変化である、自然災害では、何を伝えかれるか不明である。そこで、自然災害が、人の心にどのような影響を与えるのか、俳句を通して調べた。これは、世界中に広まりつつある俳句の新たな効用を見出し、世界に共感を伝える手段を見出す作業である。
この可能性を直ぐに証明することは難しいが、俳句が現在、日本の中で、どの位意味が分り、作者の共感が伝わるのかを調べることは可能である。本研究では、被災地の青森とその他の地域の人々に俳句を読ませて、理解できる句の違いについて調べた。
2. 調査の方法
インターネットで公開された震災についての俳句を収集し、アンケート調査票を作成し、回答者に、理解できる俳句に丸印を、共感したものに二重丸をつけてもらった。回答者には被災地青森県から20名、その他の人々20名から回答を得た。
3.集計結果
234句に対して4678句の回答が得られ、一人平均で177句であった。理解できるという回答は3956句であり、共感した回答は722句であった。
全ての俳句が2人以上の人に理解された。平均値は20人だった。共感した人数が増えるに従、句の数は少なくなった。誰も共感しない句は40で17%であった。
回答を青森とそれ以外に分けて集計すると、図のように差が見られる。百分率検定で5%有意のものは以下の2句である。
①大勢のグスコーブドリ稲の花 太田土男
②汝知るや蟇のつぶやく半減期 小原啄葉
前者は青森の方が高く、後者は青森の方が低い。前者は北日本で有名な宮沢賢治の童話にある人名を含むので、青森で知られていたことを示す。後者は東工大の関係者が多いので、半減期が出来たことを示す。
4.主成分分析
回答結果を主成分分析すると、第一軸には、回答の多寡が表れ、第二軸には、青森とそれ以外の地区が現れた。理解度の分析でも見られた青森とそれ以外の人々の差が確認された。これは青森が被災地でもあるので、特別に良く理解されたり、共感が大きくなったことがあると考えられる。被災地とそれ以外の場所では俳句の受け止め方に違いがあると言える。
5.総合点の計算
理解した句に1点、共感した句に2点を与えて、合計得点を計算した。最高点は46点であり、15点から30点にかけて多く分布し、最低点は2点で有った。この点数を基に、上位5句を示すと、以下のようであった。
46点:逝きし子の花飾りある夏帽子(佐々木妙)
45点:淡雪や瓦礫めくりて母探す(柏原眠雨)
44点:三歳で「セシウム」覚え春しぐれ(マブソン青眼)
43点:歓声や春夜を破る無事の声(若木ふじを)
43点:避難所の毛布に眠る赤子かな(條川祐男)
最初の句は津波で亡くなった我が子の夏帽子が花飾りをつけたまま見つかった。自宅近くであろうか、この遺品だけでも親の心情を描くに十分な情感を与えている。
次の句は震災直後の俳句である。3月の中旬、まだ東北では雪が降る。雪の中で、津波に飲まれたであろう自分の母親を探している。地震から時間も経ち、母はもう生きていないかも知れない。しかし、瓦礫を捲りながら、母親の姿を必死に探している。しかし、瓦礫を捲れども捲れども母親の姿は見えない。
次は福島の原発事故による、放射線の話題を伝えている。フランス人の句である。3歳の子が事故により拡散した放射性セシウムのことを口にする。3歳では放射線もセシウムも分らないであろう。テレビや人々の会話を聞いて覚えたのであろう。事故の深刻さに大人が改めて気づいた。
次は、嬉しい句である。瓦礫の中から人が見つかった。まだ生きている。寒い雪のある夜中に、誰かが声を上げた。その声に作業をしていた人々が一斉に歓声をあげた。被災地に灯った、小さな希望を詠んだ。
次は、避難所で過ごす時間も長くなってきて、滞在が大変であることを伝える。毛布が配布され少しは暖かさが得られる。しかし生れたばかりの子供は寒さで可愛そうである。子供はまだ何も言えない。何も知らないで眠っている。親にはどうしてやることも出来ない気持ちが湧いて来る。親の子を思う心が伝わってくる。
6.まとめ
発表された震災に関する俳句を用いてアンケート調査をすることにより、以下の点が明らかになった。
①俳句は多くの人によって理解され、被災地以外の人にも共感を与えることが分った。
②俳句の理解は地域によって異なる可能性があることが分った。
③多くの人々に共感を与えた俳句が見出せた。

謝辞:調査に協力戴いた、蔵前俳句会、ブルーリッジ俳句会、Richard JAMBOR、瀬川紀雄氏に感謝する次第である。