日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 304 (3F)

コンビーナ:*小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、座長:小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

11:25 〜 11:50

[SVC46-15] 1次元火道流・3次元火山噴煙統合モデルを用いた爆発的噴火の推移予測

*小屋口 剛博1鈴木 雄治郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:火道流, 火山噴煙, 数値モデル, 噴火推移予測

爆発的噴火において,地球物理学的観測や地質学的・岩石学的データに基づいて噴火推移を予測することは可能か?本研究では,この問いに答えるため,1次元定常火道流モデルと3次元非定常火山噴煙モデルを連結した「統合モデル」を用いてシミュレーション解析を進めている.本発表では,統合モデルを用いた爆発的噴火の推移予測の理論的枠組み,及び,そこから見えてくる噴火推移予測に向けた課題について議論する.
爆発的噴火においては,一般に,火道上端付近でマグマの上昇速度が音速に達している.この場合,マグマ溜りから噴煙までのマグマの運動は,大局的に(1)マグマ溜りから音速に達するレベル(ここでは,そのレベルを「火口底」と定義する)までの上昇過程,(2)火口における膨張・圧縮過程,(3)大気中での噴煙運動,という3つの領域に分割できる.1次元定常火道流モデルによると,(1)の領域の流れ(例えば,流量)は,マグマ溜りの圧力,マグマ溜りから火口底までの長さ,火道径,マグマの含水量,粘性等に依存する(Koyaguchi, 2005).(2)の火口における膨張・圧縮過程については,火口形状のパラメータ(火口底の深さおよび火口上端下端の断面積比)を与えることによって,火口上端における噴出物の圧力と速度を流量の関数として求めることができる(Koyaguchi et al. 2010).1次元定常噴煙柱モデル(例えばWoods, 1988)によると,(3)の噴煙運動において,圧力が大気圧と平衡に達した後の噴煙ダイナミックス(噴煙柱崩壊や噴煙規模)は,主に,噴出率,マグマの温度(熱容量)・含水量,大気圧と平衡に達した時点での上昇速度,大気との混合効率で決まる.ただし,大気圧に達するまでの膨張・圧縮過程は,3次元火山噴煙モデル(例えばSuzuki et al. 2005)で直接計算する必要がある.以上の議論から,爆発的噴火の推移は,マグマの性質やマグマ溜りの圧力に加えて,火道や火口の形状の影響を含めた膨張・圧縮過程に支配されることが示される.
爆発的噴火の推移に対する火道・火口の形状の影響を評価するために,本研究では,火口形状と噴出圧力・噴出速度を関係付ける近似解析解を導出するとともに,大気圧と異なる圧力で噴出した噴煙の膨張・圧縮過程が噴煙の内部構造やダイナミックスに与える影響について3次元噴煙モデルを用いて系統的に調べた.火口上端から火砕物と火山ガスの混合物が大気圧と異なる圧力で噴出した場合,噴煙軸部の流れが垂直衝撃波によって減速し,周縁部に鞘状高速流が発達するという特徴的な構造を形成する.大気圧と平衡に達した時点での噴煙の上向きの平均運動量流束は,これらの低速部と高速部のそれぞれの速度及びその断面積比から計算され,その値は1次元定常膨張・圧縮モデル(Woods and Bower, 1995)の予測値と概ね一致する.従って,3次元噴煙モデルによる計算結果は,噴煙柱崩壊や噴煙規模などの噴煙全体の大局的振る舞いについては,1次元定常膨張・圧縮モデルと1次元定常噴煙柱モデルを組み合わせた場合の計算結果(Koyaguchi et al., 2010)と定性的に一致する.一方,低速軸部と高速周縁部よりなる噴煙内部の不均質構造は,部分崩壊による火砕流発生や噴煙柱の振動現象など,1次元定常噴煙柱モデルでは表現されない現象をもたらす.これらの噴煙ダイナミックスの特徴は,火口形状と火口底の流量に関するパラメータ空間上のレジームマップとして整理することができる.
実際の噴火においては,噴火の経過とともにマグマ溜りの圧力と火道・火口の形状が同時に変化する.また,地殻変動・噴煙の高度等の観測量,火砕堆積物の地質学的データ,噴出物の岩石学データに基づいて,マグマ溜りの圧力,マグマの性質,噴出率,火道・火口の形状などに関するパラメータが,誤差を含んだ状態で推定される.誤差を含む観測データに基づいて爆発的噴火の推移予測を行うためには,マグマ溜りの圧力変化と火道・火口の形状変化の典型的シナリオに対する噴煙ダイナミックスの推移について,上記レジームマップ上で整理分類し,観測データから確実に読み取れる情報を予め把握しておく必要がある.