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[MAG38-19] 2011年の海域モニタリングで採取された予備海水試料中に含まれる放射性セシウム濃度の測定
キーワード:福島第一原子力発電所事故, 放射性セシウム, 海域モニタリング
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所(FNPP1)事故により、破損した原子炉から放射性セシウムを含む放射性物質が環境中に放出された。これまでの研究により、放出された放射性セシウムの多くの部分が北太平洋に移行したことが推定されている。しかし、その移行過程及び移行した総量の推定はまだ十分に明らかになっていない。文部科学省は、FNPP1から約30~50km離れた沖合海域において、事故直後の2011年3月23日から空間線量、大気ダスト及び海水中の放射性物質の濃度測定を開始した(「海域モニタリング」)。それら放射性物質(放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素)の測定結果は、すでに文部科学省より公表されている(2013年4月以降は原子力規制委員会のHPにて公開)。しかし、事故発生に即応するための緊急性の高い「海域モニタリング」によって得られたデータは、放出された放射性物質の海洋環境中での拡散過程を議論するためには、決して十分とは言えない。放射性セシウムについては、2011年7月まで簡易的な方法(直接測定法)による測定しか実施されていない。そのため、その海水中の濃度が急速に低下した2011年5月から7月にかけては、ほとんどのデータが「検出下限値以下」と報告されており、その期間中のFNPP1から約200km圏内の沖合・外洋域における放射性セシウムの分布詳細は明らかになっていない。2011年度の沖合・外洋域における「海域モニタリング」は、その一部が(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査船航海によって実施された。同航海における海水試料の採取時、不測の事態に備えるために予備の試料も合わせて採取された。我々はこの「予備海水試料」をJAMSTECより譲り受け、その中に含まれている放射性セシウムを高感度な濃縮法によって測定し、これまでデータの空白時期であった2011年5月から7月における放射性セシウム(134Csと137Cs)の分布を明らかにしたので報告する。「予備海水試料」は、JAMSTECの調査船による7回の観測航海で採取された(YK11-E02、NT11-E01、YK11-E03、NT11-E02、MR11-E02、YK11-E05、KR11-E04)。採取にはニスキン採水器が使用され、「予備海水試料」は各10、もしくは20リットル採取された。それらのうち、4航海分(YK11-E02、NT11-E01、MR11-E02、KR11-E04)の試料について、蒸発及びリンモリブデン酸アンモニウム法によって濃縮し、JAMSTECむつ研究所及び金沢大学低レベル放射能実験施設の極低バックグランドGe半導体検出器を用いて放射性セシウム濃度を測定した。濃縮前処理と測定を通じて得られた分析の不確かさは、約8%であった。5月上旬、FNPP1からの汚染水の直接流入(4月上旬)に由来すると考えられる高濃度(500 Bq/m3以上)の134Csを含む表面海水は、福島県及び宮城県南部の沖合約50km圏内で観測された。これは、FNPP1近傍に放出された134Csが南北に卓越する福島県沖の沿岸流に沿って拡がったものと考えられる。一方、FNPP1から約100km沖合の北緯37.5度/東経142度付近の1観測点でも高濃度の134Csが観測されており、中規模渦に起因する表面海流によって134Csが帯状に東に拡がったことが暗示された。6月上旬には、福島県沖50km圏内で134C濃度は低下した一方、高濃度水は仙台湾から鹿島灘南部にまで南北に拡がった。さらに北緯36.5~37度では、すぐ南を東進する黒潮続流と並行するように、約200km沖合(東経142.5度付近)まで134Cs高濃度水が帯状に東に拡がっていた。6月に観測されたこの東・南部への大きな拡大は、5月末まで茨城県沖に存在していた暖水渦構造が解消されたことによる影響が推察される。7月上旬になると、FNPP1の近傍海域を除くと、高濃度(500 Bq/m3以上)の134Csは仙台湾と鹿島灘南部の表面水でのみ観測された。これは、この時期までに汚染水由来134Csを含む表面水の主要部分が200km圏外に移行したことを暗示している。講演では、鉛直積算量から推定される汚染水由来放射性セシウムの総量についても考察する。本研究は、JSPS科研費 24110005の助成を受けた。