日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT52] 空中からの地球計測とモニタリング

2015年5月27日(水) 09:00 〜 10:45 102B (1F)

コンビーナ:*楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(理学))、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、小山 崇夫(東京大学地震研究所)、座長:楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(理学))、小山 崇夫(東京大学地震研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)

09:15 〜 09:30

[STT52-02] ヘリコプターによるFALCON AGG(空中重力偏差法)地熱調査について

*千葉 昭彦1Carlos Cevallos2久谷 公一3桑村 純一4 (1.住鉱資源開発株式会社、2.CGG Aviation、3.独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、4.株式会社フグロジャパン)

キーワード:空中重力偏差法探査, 地熱探査, くじゅう地域

豪州やカナダを中心に金属鉱床探査や石油探査へ空中重力探査が適用されている。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が九州のくじゅう、霧島地域での地熱調査においてヘリコプターを用いた偏差法による空中重力探査を適用したのでその手法とくじゅう地域の結果の概要を紹介する。
空中重力探査には地表重力探査と同様に重力加速度を測定するものと重力加速度の空間的な変化の割合(重力偏差)を計測するものがあり、今回適用したFALCONTMAGGは後者に属する。米海軍によって開発され、現在はCGG社が実施する空中重力探査システムであり、ヘリコプターによる重力偏差法探査を行うことができる唯一の空中重力探査システムでもある。重力偏差分布は重力異常分布に比べて細かな地質構造を捉えることができることに加えて、ヘリコプターで低空を密な測線間隔でデータを取得できるので空中重力探査の中でも最も詳細な探査を行うことができる。
 FALCONでは2組計8個の加速度計を水平な円盤に載せて航空機に搭載し、飛行中に円盤を回転させて重力加速度の水平微分を計測する。同時にGPSで航空機の位置を計測するとともにレーザースキャナーで近傍の地形の形状を計測し、地形補正、タイライン補正およびマイクロレベリング等の補正を行った後、調査範囲の水平微分2成分GNEおよびGUVの平面分布を求める。この水平微分それぞれの平面分布を2次元フーリエ変換した波数領域で重力偏差テンソルや重力異常を求める。これをフーリエ変換法とよび、地下構造の表現に適した重力鉛直勾配GDDと重力値gDの分布を探査結果としている。また、計測した空間領域での水平微分GNEおよびGUV分布をもたらす等価ソースの平面分布を逆解析で求め、等価ソースで生じるGDDとgDの分布を順解析で求める等価ソース法も適用している。
 JOGMECは、国内における地熱探査での空中重力偏差法適用の第1段階として、既存の地熱発電所があり、既存資料も少なくない九州地方のくじゅう地域と霧島地域で調査をおこなった。両地域とも250mの測線間隔で南北方向に対地高度120m以下の地形に沿った平滑曲線飛行でデータを取得した。八丁原地熱発電所と大岳地熱発電所周辺は、精査地域として測線間隔125mで測定を行い、図に示すような調査結果が得られた。鉛直重力偏差図では、本地域の地質構造の卓越方向であるNW-SE方向とそれに交差するE-W方向の構造を認めることができる。本調査では重力ポテンシャルの形状を表すシェイプ・インデックスを重力偏差テンソルから求めている。シェイプ・インデックス図では、鉛直重力偏差図より地質境界を明確に捉えることができた。また、道路や小径に沿って数100m以上の間隔で測定を行った地表重力探査の重力異常分布を空中重力偏差法の飛行曲面に上方接続したものと、空中重力偏差法による重力異常図を比較した所、ほぼ同様な傾向を示すことと、空中重力偏差法の方がより細かい構造を捉えていることが確認された。
 空中重力偏差法は、地形や植生のために地上の重力探査では近づけないような地域も含め、広範囲の探査対象地域を効率的に細かく調査できるため、細かな構造を捉えることができる。また、地表の重力探査で広範囲を探査する場合には、複数の機関や複数の年で実施された調査を編集することが多く、調査間のデータに不均質が認められることがあるが、空中重力偏差では均質に取得したデータを均質に処理するため、データの信頼性も高い。ただし、空中探査であるため測定精度には限界があり、狭い範囲の精査は地表重力探査で実施すべきであろう。また、重力偏差は深部の地質構造に起因する長波長成分が欠如しているので、今回の探査対象としている地熱貯留層には適している可能性がある。今後、日本国内においても、地熱探査だけでなく、従来から重力探査が適用されてきた断層調査等へも重力偏差法が有力な探査手法として普及していくと期待される。