日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT53] 地震観測・処理システム

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 202 (2F)

コンビーナ:*中村 洋光(防災科学技術研究所)、座長:木村 武志(防災科学技術研究所)、松岡 英俊(気象庁地震火山部)

17:15 〜 17:30

[STT53-05] レーザひずみ偏差計の開発―温度変化によるノイズの除去

*出口 雄大1新谷 昌人1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:ひずみ計, レーザ干渉計

観測の報告の無い継続時間200秒~1日のスロー地震を検知することを目指し、機器を開発している。観測の障害となるのは機器のノイズだけではなく、背景地面振動の影響もあると知られている。背景地面振動について、愛知県の犬山観測点と岐阜県の神岡観測点のレーザひずみ計のデータを比較し、また地震計とひずみ計のデータを比較すると、励起源は数百km以上の大きな空間スケールを持つと推測された。一方、スロー地震は数km~数十km程度の震源域のものを、震源距離数十km程度で観測することを想定している。そこで空間スケールの短い現象を強調するとスロー地震が観測できるようになると考えられる。
 地面の変位の空間二階微分を直接測定できる機器を開発している。これをひずみ偏差計と呼んでいる。空間微分は空間スケールの小さい現象を強調するので、ひずみ偏差計によってスロー地震が観測できるようになると見積もっている。この機器は対称型レーザ干渉計を用いる。対称型レーザ干渉計のメリットとして、ひずみ偏差の測定に必要な長さの差を直接測定できること、およびレーザ光の波長不安定性によるノイズなどの同相ノイズが除去されることが挙げられる。
 対称型干渉計のノイズについて実験室で測定した。真空中に入れ光路差が0.5mm以下になるようにして行った。このノイズは温度変化によって光学素子等が熱膨張・熱収縮することによって生じていることが判明した。対称型干渉計の温度係数は4.1×10-7[m/K]であった。次に、観測所の気温変化のスペクトルを推定した。犬山観測坑の石英管ひずみ計の伸縮は全て観測坑の気温変化によって生じていると仮定した場合、気温変化のスペクトルがf=3.2×10-5[Hz]で4.5×10-4[K2/Hz]と得られた。測定値には地面の伸縮やセンサのノイズが加わるため実際の気温変化はこの値以下であろう。継続時間1万秒のスロー地震(fc=3.2×10-5[Hz])を震源距離50kmの所に置いたひずみ偏差計で検知するには、ノイズレベルを、1.4×10-25 [/m2Hz]まで減らさなければならない。ひずみ偏差計の基線長を15mとして、実験室で計測された温度係数を持つ対称型干渉計を用いたとすると、光学定盤・光学素子の温度変化を気温変化の1/90以下に抑えなければならない。これは真空容器を地面と熱結合し、全体を断熱材で覆うことにより達成できると見積もっている。以前の研究では高真空・放射遮蔽・熱伝導率の低い支柱により真空容器から光学定盤への伝熱を低減することを考えていたが、これは必要ではなく、定盤の熱容量を大きくすることに困難もあった。
 温度変化によるノイズの他に、レーザ光強度の揺らぎのノイズ、光センサ回路中の半固定抵抗の電流雑音と温度係数によるノイズ、ADC内部ノイズ、光軸ずれノイズが問題となった。ADCノイズ以外については、光強度をモニタするセンサを導入し、半固定抵抗を固定抵抗に置き換え、レーザのビームをレンズで絞ることにより解決した。
 今後の計画として、断熱材で空気から真空容器への伝熱をどの程度減らせるのかを、実験室および鋸山観測坑で実験を行う。また、鋸山観測坑ではひずみ偏差計の形にしたときにどのようなノイズが生じるのかを測定する。また、犬山観測坑に基線長15m程度のひずみ偏差計を建設して、局所的な不均質性の影響の程度を測定する予定である。