日本地球惑星科学連合2015年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)

18:15 〜 19:30

[SCG64-P02] 浅海熱水における水酸化鉄マウンドの構造と形成史:鹿児島県薩摩硫黄島長浜湾の例

*倉冨 隆1清川 昌一1池原 実2後藤 秀作3星野 辰彦4池上 郁彦1蓑和 雄人1 (1.九州大学、2.海洋コア総合研究センター、3.産総研地質調査総合センター、4.海洋研究開発機構)

キーワード:鉄酸化バクテリア, 熱水, 酸化鉄, 薩摩硫黄島, 生物鉱化作用

薩摩硫黄島は九州より南へ約38 kmに存在する鬼界カルデラの北西端に位置する火山島である.島内南西部に位置する長浜湾の海底下からは熱水(pH = 5.5, 55-60 ℃, Si: 51.74 ppm, Fe: 191.00 ppm)が湧出し(四ヶ浦・田崎, 2001),FeとSiに富む水酸化鉄マウンドが観察される.長浜湾内では水酸化鉄が約33 cm/yr(Kiyokawa et al., 2012)の沈殿速度で堆積している.
水酸化鉄マウンドは音響探査の結果から20年間で水深2-3mに32.68m2の範囲に7.798m3の大きさのものが椀状に複数連なっており,現在も成長を続けている.コアサンプルCT像からマウンドは黒色のHard層,褐色のSoft層から構成され,2層は十数回繰り返す.マウンド内部は3~4 cm程度の凸状構造の集合体で形成し,Soft層はHard層の殻によって覆われる.Soft層内部は直径約1 mmの多量の空洞が複雑に通る.各層ともに紐状の構造を持ち,Soft層からHard層に褐色粒子(約20 μm)の数が増加する.H層の紐状構造は直径約1~2 μmの粒子が連結した桿菌状の構造をなす.一方,Soft層は表面には直径約0.5 μm未満の粒子が付着した紐状の構造が観察される.この紐状の構造はHelical,Ribbon,Twistedの3タイプに分類できる. Hard層(Si: 26.8 %, Fe: 56.0 %)はFerrihydrite、Opal-Aで,またSoft層(Si: 36.5 %, Fe: 43.5 %)はFerrihydrite,Opal-A,Quartz,Cristobalite,Tridimiteで構成される.DNA分析よりマウンド内部にはZeta-proteobacteriaに属する鉄酸化バクテリアであるMariprofundus ferrooxydansが卓越した生物環境であることを示した.一方,浮遊物水酸化鉄粒子は直径0.5 μm未満の微小粒子の凝集物であり,マウンドの主構成物である紐状の形態は確認されなかった.
長浜湾におけるマウンドの形成過程 ①無機的及び生物的な反応によってSoft層形成される.Soft層内部で観察された紐状の構造は鉄酸化バクテリアが形成したストークである.②鉄酸化バクテリアのストークの周囲に水酸化鉄が吸着することでHard層が形成された.鉄酸化バクテリアはHard層の様な熱水と海水が混合する酸化還元の境界部を好んで生息する(Chan et al., 2011).③Hard層の内側では熱水活動が継続しており,成長を続けた結果としてHard層の線構造が形成される.このプロセス十数回繰り返されることでマウンドを形成し、内部に熱水の通り道である空洞を持った凸状の集合体が形成される.
このマウンドは年間1.2cm以上の形成速度で成長することが明らかになった.速い成長速度は鉄酸化バクテリアの活動で形成されたストークに水酸化鉄が吸着したことが要因である.本地域の水酸化鉄マウンド(2.474*106 kg(Fe)/m.y./m2)の鉄供給速度はハマスレー鉄鉱層(2.51*105 kg(Fe)/m.y./m2)の十倍近くに相当する. Joffre層(360m/2m.y.)を形成するためには長浜湾水酸化鉄マウンドが6.0*108倍存在する必要がある.縞状鉄鉱層のような大規模な鉄酸化堆積物を形成するためには、無機的・生物的反応の組み合わせが重要である.