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[SCG56-07] 原子力発電所の「新規制基準」とその適合性審査における火山影響評価の問題点
キーワード:原子力発電所, 火山影響評価, ガイドライン, 適合性審査, 川内原発, 問題点
原子力規制委員会によって制定された「実用発電用原子炉の新規制基準」には火山リスクに関するガイドライン(火山影響評価ガイド)が含まれ、それに従って既存原発の適合性審査が実施されている。しかしながら、同ガイドと適合性審査の中身には、火山学・火山防災上の数多くの欠陥や疑問点がある上に、火山専門家がほとんど不在の場で議論が進められ、危うい結論が出され始めている。ここでは、火山影響評価ガイドならびに九州電力川内原子力発電所(以下、川内原発)の適合性審査書類を題材として、主要な問題点を指摘・整理する。
火山影響評価ガイドの問題点
(1)発生可能性の恣意的基準
同ガイドでは、火砕流などの「設計対応不可能な火山事象」が原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合は、その原発は立地不適とされる。しかしながら、どのような数値基準をもって「十分小さい」と判断するかは明記されておらず、曖昧かつ恣意的な基準となっている。「設計対応不可能な火山事象」が、活断層の変位と同等、もしくはそれ以上の厳しいダメージを原発の重要施設にもたらす可能性があることは明白だから、活断層と同様の数値基準を適用し、12-13万年前以降に「設計対応不可能な火山事象」が達した可能性が否定できない原発を立地不適としなければ辻褄が合わない。
(2)火山学・火山防災の現状との乖離
同ガイドにおいては、火山の時間―積算噴出量階段図(以下、階段図)やモニタリングによって将来の活動可能性を評価することになっているが、それらを用いた予測可能性評価にはさまざまな困難がある。このこと以外にも、川内原発の適合性審査においては火山学や火山防災の視点から大きな疑問を感じる考察や判断が多数なされている(後述)。こうした不合理な楽観的判断を排除できるように、同ガイドは加筆・修正されるべきである。
川内原発の新基準適合性審査の問題点
(1)不適切な発生間隔予測
川内原発の適合性審査書では、階段図を根拠として運用期間中におけるVEI(Volcanic Explosivity Index)7 以上の噴火可能性は十分低いと判断されているが、噴火間隔がたまたま9万年程度に揃うカルデラの組み合わせを恣意的に選んで結論を導いたように見える。
(2)巨大噴火未遂事件の問題
同審査書では、噴火には至ったがVEI7以上にまで発展しなかった噴火、すなわち巨大噴火の未遂事件のことが全く考慮されておらず、結果としてリスクを不当に低く見積もっている。
(3)地域防災計画との連携欠如
川内原発ではVEI6程度の噴火までは起き得るとして対策が進められているが、現行の鹿児島県の地域防災計画はVEI5の噴火しか想定しておらず、両者の間に齟齬がある。
(4)モニタリングによる予測の困難
上記審査書は、単純な隆起速度の観測によってVEI7のカルデラ噴火が予測できると判断しているが、VEI7以上の噴火を機器観測した例は世界の歴史上にないので、楽観的すぎる。さらに、燃料搬出の余裕をもたせて噴火の数年前に予測することは不可能であろう。また、大規模カルデラ噴火の懸念を抱かせる異常が観測された場合、未遂に終わるか否かの見極めは困難であるが、そのつど被災に備えて原子炉から燃料を搬出することは非現実的である。
(5)噴火で被災した原発の被害想定の欠如
モニタリングに失敗して川内原発が火砕流に襲われた場合の被害想定がなされていない点は、火山影響評価ガイドのみならず原子力規制行政上の重大な欠陥である。厚い火砕流堆積物に埋まった原発には手の施しようがなく、長期にわたる放射性物質の大量放出を許すかもしれない。つまり、大規模カルデラ噴火の発生確率がいかに小さくても、その被害の甚大さと深刻さを十分考慮しなければならない。火砕流に埋まった原発がどうなるかを厳密にシミュレーションし、放射性物質の放出量や汚染の広がりを計算した上で、その被害規模と発生確率を掛け算したリスクを計算し、そのリスクが許容できるか否かの社会的合意を得るべきである。
火山専門家の利益相反
原子力行政の意思決定にかかわる専門家には、透明性・中立性が要求されている。疑いをもたれた者がいくら自分は中立であると主張しても、社会的には公正・中立とみなされない点に、専門家は注意が必要である。火山専門家は利益相反の問題をつよく意識して中立性の確保につとめるとともに、研究によってわかることと原理的に解明困難なことを明確に区別する態度をもって臨むべきである。また、研究費獲得の方便として安易に予知実現の目的を掲げることによって、社会に過度な期待を抱かせてはならない。研究費を獲得したいがゆえに、研究の目的や成果を誇大解釈・誇大宣伝することも利益相反行為である。
参考文献:小山真人(2015)科学,no.2
火山影響評価ガイドの問題点
(1)発生可能性の恣意的基準
同ガイドでは、火砕流などの「設計対応不可能な火山事象」が原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合は、その原発は立地不適とされる。しかしながら、どのような数値基準をもって「十分小さい」と判断するかは明記されておらず、曖昧かつ恣意的な基準となっている。「設計対応不可能な火山事象」が、活断層の変位と同等、もしくはそれ以上の厳しいダメージを原発の重要施設にもたらす可能性があることは明白だから、活断層と同様の数値基準を適用し、12-13万年前以降に「設計対応不可能な火山事象」が達した可能性が否定できない原発を立地不適としなければ辻褄が合わない。
(2)火山学・火山防災の現状との乖離
同ガイドにおいては、火山の時間―積算噴出量階段図(以下、階段図)やモニタリングによって将来の活動可能性を評価することになっているが、それらを用いた予測可能性評価にはさまざまな困難がある。このこと以外にも、川内原発の適合性審査においては火山学や火山防災の視点から大きな疑問を感じる考察や判断が多数なされている(後述)。こうした不合理な楽観的判断を排除できるように、同ガイドは加筆・修正されるべきである。
川内原発の新基準適合性審査の問題点
(1)不適切な発生間隔予測
川内原発の適合性審査書では、階段図を根拠として運用期間中におけるVEI(Volcanic Explosivity Index)7 以上の噴火可能性は十分低いと判断されているが、噴火間隔がたまたま9万年程度に揃うカルデラの組み合わせを恣意的に選んで結論を導いたように見える。
(2)巨大噴火未遂事件の問題
同審査書では、噴火には至ったがVEI7以上にまで発展しなかった噴火、すなわち巨大噴火の未遂事件のことが全く考慮されておらず、結果としてリスクを不当に低く見積もっている。
(3)地域防災計画との連携欠如
川内原発ではVEI6程度の噴火までは起き得るとして対策が進められているが、現行の鹿児島県の地域防災計画はVEI5の噴火しか想定しておらず、両者の間に齟齬がある。
(4)モニタリングによる予測の困難
上記審査書は、単純な隆起速度の観測によってVEI7のカルデラ噴火が予測できると判断しているが、VEI7以上の噴火を機器観測した例は世界の歴史上にないので、楽観的すぎる。さらに、燃料搬出の余裕をもたせて噴火の数年前に予測することは不可能であろう。また、大規模カルデラ噴火の懸念を抱かせる異常が観測された場合、未遂に終わるか否かの見極めは困難であるが、そのつど被災に備えて原子炉から燃料を搬出することは非現実的である。
(5)噴火で被災した原発の被害想定の欠如
モニタリングに失敗して川内原発が火砕流に襲われた場合の被害想定がなされていない点は、火山影響評価ガイドのみならず原子力規制行政上の重大な欠陥である。厚い火砕流堆積物に埋まった原発には手の施しようがなく、長期にわたる放射性物質の大量放出を許すかもしれない。つまり、大規模カルデラ噴火の発生確率がいかに小さくても、その被害の甚大さと深刻さを十分考慮しなければならない。火砕流に埋まった原発がどうなるかを厳密にシミュレーションし、放射性物質の放出量や汚染の広がりを計算した上で、その被害規模と発生確率を掛け算したリスクを計算し、そのリスクが許容できるか否かの社会的合意を得るべきである。
火山専門家の利益相反
原子力行政の意思決定にかかわる専門家には、透明性・中立性が要求されている。疑いをもたれた者がいくら自分は中立であると主張しても、社会的には公正・中立とみなされない点に、専門家は注意が必要である。火山専門家は利益相反の問題をつよく意識して中立性の確保につとめるとともに、研究によってわかることと原理的に解明困難なことを明確に区別する態度をもって臨むべきである。また、研究費獲得の方便として安易に予知実現の目的を掲げることによって、社会に過度な期待を抱かせてはならない。研究費を獲得したいがゆえに、研究の目的や成果を誇大解釈・誇大宣伝することも利益相反行為である。
参考文献:小山真人(2015)科学,no.2