日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 同位体水文学2015

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、高橋 正明(産業技術総合研究所)、鈴木 裕一(立正大学地球環境科学部)、風間 ふたば(山梨大学大学院医学工学総合研究部工学学域社会工学システム系)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、座長:安原 正也(独立行政法人 産業技術総合研究所)、藪崎 志穂(福島大学 共生システム理工学類)

09:30 〜 10:00

[AHW24-02] 大気循環場の変化が引き起こす中部日本における降水同位体比の年々変動

栗田 直幸1、*藤吉 康志2中山 智喜3松見 豊3北川 浩之1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.北海道大学低温科学研究所、3.名古屋大学太陽地球環境研究所)

キーワード:水安定同位体, 東アジアモンスーン, 梅雨前線, 南岸低気圧

近年,レーザー分光法を使った水同位体分析が普及し,降水イベント毎の同位体比変動や水蒸気同位体比の連続データなど,従来よりも高い時間分解能をもったデータが得られるようになってきた.そして,従来の「降水の同位体比は気温や降水量の指標である」という経験則から脱却し,同位体比の変化を規定している「物理プロセス」を明らかにしようとする研究が近年急増している.そこで本研究では,中部日本を対象として,降水同位体比の日々変化,季節変化,そして年々変化を引き起こすkeyとなる因子の特定を行う.まず,名古屋大学にて2013年6月から実施している水蒸気同位体比の連続観測,およびイベント毎の降水同位体比分析結果から日々スケールでの変動特性を明らかにし,これが気団や降水システムの違いといった日々の気象の変化とどのように関連しているか解析を行う.そしてその結果を過去17年間東京で行われた月単位の降水同位体観測データに応用し,短時間変化を引き起こす気象因子の特性変化によって年々の同位体比変化が説明可能であるか検証を行う.
結果は,夏期における日々スケールの降水の同位体比変化は,水蒸気起源の変化,および起源から観測地までの輸送途中にもたらされる降水量に依存していることが明らかとなった.冬期は,低気圧の経路の違いに対応して降水の同位体比が変化することを明らかにした.特に,日本の南岸を通る「南岸低気圧」に伴う降水は,顕著に低い同位体比で特徴づけられた.次に,年々スケールの変化について解析を行ったところ,夏期の季節平均値は降水量変化に依存せず,太平洋気団によってもたらされる降水の寄与率(夏期降水量に対する割合)に依存していることを明らかにした.冬期平均値は,南岸低気圧の経路や発達度と密接に結びついており,日本の南岸からやや離れて進んできた南岸低気圧による降水が多い(少ない)年には同位体比が平年よりも低い(高い)値を示した.これらの結果から,中部日本における降水同位体比の年々変化は,降水量や気温よりも大気循環場の変化に依存していると結論づけることができる.さらに,太平洋気団の活動度,および南岸低気圧の経路や発達度は,夏期・冬期の北東アジアモンスーンの強度に関連しており,その結果,中部日本における降水同位体比の年々変化は,アジアモンスーン指標と有為な相関を示した(夏期:R=0.47,冬期:R=0.42).