日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 原子力と地球惑星科学

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 101A (1F)

コンビーナ:*笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:笹尾 英嗣(独立行政法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

09:00 〜 09:15

[HCG34-01] 花崗岩の地史を考慮した割れ目形成過程の検討-中部日本土岐花崗岩の事例-

*笹尾 英嗣1石橋 正祐紀1湯口 貴史1 (1.日本原子力研究開発機構東濃地科学センター)

キーワード:割れ目, 土岐花崗岩, 地史

高レベル放射性廃棄物の地層処分においては,花崗岩などの結晶質岩では割れ目が地下水流動や物質移動の経路になることから,その分布を知ることが重要である。しかし,割れ目の分布は岩体内でも不均一であるため,それを把握することは容易ではない。
北欧諸国の花崗岩では日本の花崗岩に比べて割れ目が少ないとされており,花崗岩の地質学的セッティングや形成プロセスの違いによって,割れ目頻度に差が生じる可能性が考えられる。わが国に分布する花崗岩では,規模や形成年代が異なることから,個々の岩体が置かれた地質学的要因に相違があると思われ,割れ目頻度などは岩体ごとに異なる可能性がある。
このような背景のもと,本論では,花崗岩中の割れ目の形成および充填の履歴を花崗岩マグマ定置後の地史を合わせて検討することにより,割れ目の形成と充填の履歴を検討するために重要な地質学的事象を抽出することを目的とした。対象とした花崗岩は中部日本に分布する土岐花崗岩で,日本原子力研究開発機構が岐阜県瑞浪市で建設を進める瑞浪超深地層研究所で得られたデータを活用した。
土岐花崗岩は,岐阜県東濃地方の土岐市から瑞浪市にわたって分布し,地表では東西約12km,南北約14kmの範囲に分布する。土岐花崗岩は白亜紀後期に,美濃帯中古生層および濃飛流紋岩中に貫入した(年代値として以下がある;モナザイトCHIME年代:約68Ma,Suzuki and Adachi, 1998,全岩Rb-Sr年代:約72Ma,Shibata and Ishihara, 1979)。土岐花崗岩は中新統瑞浪層群と中新~更新統東海層群に不整合で覆われる。瑞浪層群の基底部の年代は約20Maとされており(笹尾ほか,2006),この時期までに花崗岩は地表に露出した。
土岐花崗岩の冷却年代として,角閃石K-Ar年代74.3±3.7Ma,黒雲母K-Ar年代80~60Ma,ジルコンFT年代80~50Maが得られている(Yuguchi et al., 2011)。このことから,土岐花崗岩は250℃程度までは,最長でも2000万年の間に急速に冷却され,その後,約5000~3000万年をかけて地表に露出したと考えられる。
瑞浪超深地層研究所周辺の土岐花崗岩では,低角度傾斜(水平面に対して30°未満の傾斜角)の割れ目の分布密度が高い上部割れ目帯と,割れ目密度が低い下部割れ目低密度帯が認められる。
上部割れ目帯では, 20Ma以前の露出時に除荷で形成とされたと考えられる低角度傾斜の割れ目と,高角度傾斜(水平面に対して60°以上の傾斜角)の割れ目が認められる。下部割れ目低密度帯では高角度傾斜の割れ目のみが分布する。割れ目頻度は瑞浪超深地層研究所の換気立坑では,深度約460mを境に,上部で多く,下部で少ない。
割れ目充填物として,熱水性と推定される緑泥石,雲母粘土鉱物,方解石,および天水起源と推定される方解石が認められた(石橋ほか,2014)。
瑞浪超深地層研究所の深度300mおよび深度500mの水平坑道床面から1~2mの高さに設定したスキャンラインに交差する割れ目では,充填物を介在する割れ目が大半であり,その割合は深度300mでは94%,深度500mでは86%であった。割れ目充填物としては,方解石と絹雲母または緑泥石からなるものが最も多く,絹雲母または緑泥石からなるものと,方解石のみからなるものはほぼ同数である。
割れ目は脆性領域で形成されるため,300~400℃以下の温度領域で形成される。このため,割れ目を充填する鉱物は花崗岩がその温度以下に冷却された以降に形成された。
熱水起源と考えられる方解石は,割れ目周辺母岩中の斜長石の絹雲母化に伴い産出することから,割れ目への熱水の浸透に伴い割れ目周辺母岩の斜長石中のCa成分が溶け出して形成されたと推察されている(石橋ほか,2014)。また,緑泥石の形成温度は一般に200~300℃程度とされており(Yuguchi et al., in press),熱水性の鉱物はこの温度領域で形成されたと考えられる。東濃地域では大規模な熱水活動は知られておらず,この熱水は花崗岩冷却過程で形成される熱水による変質であると考えることが可能である。
天水起源と考えられる方解石は,天水が地下へ浸透する過程で形成され,その時期としては瑞浪層群堆積時から現在までの期間であると考えられる。
以上のことから,割れ目の形成および熱水性鉱物による割れ目の充填は,マグマ冷却過程で生じるものであると考えられる。したがって,岩体スケールでの割れ目の形成過程を知るためには,マグマ冷却過程についての理解が必要である。また,天水起源の方解石の形成については,花崗岩露出後の地史についての考察が必要である。

文献
石橋ほか, 2014, 応用地質, 55, 156-165.
笹尾ほか, 2006, 地雑, 112, 459-468.
Shibata and Ishihara, 1979, Geochem. Jour., 13, 113-119.
Suzuki and Adachi, 1998, Jour. Metamorphic Geol., 16, 23-37.
Yuguchi et al., 2011, Contrib. Mineral. Petrol., 162, 1063-1077.
Yuguchi et al., in press, Amer. Mineral.