日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM22] 地形

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 101B (1F)

コンビーナ:*島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、小口 千明(埼玉大学大学院理工学研究科)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)

16:30 〜 16:45

[HGM22-05] 北アルプス南部,上高地岳沢谷底の地形,土砂移動プロセスと梓川への土砂供給

*島津 弘1 (1.立正大学)

キーワード:地形, 谷底, 土砂移動プロセス, 土砂収支, 岳沢, 上高地

北アルプス南部,梓川上流支谷の岳沢は標高3190mの奥穂高岳を流域に持ち,標高1500mの上高地で梓川に流入する最大級の支流である.旧建設省などではその流域起伏と流域面積から梓川への土砂供給源として大きな役割を果たしていると考えている.梓川谷底から岳沢上流部が見渡せるが,岳沢には周囲の斜面から供給された土砂がつくる崖錐と谷底の植生に覆われていない堆積物が確認でき,いかにも本流への土砂供給の影響が大きそうに見える.一方,現地観察では,梓川谷底から見える堆積物と,岳沢下流部で見られる堆積物は明らかに異なっており,両者には不連続があると推定される.そこで,標高2180m以下の範囲で岳沢谷底に見られる堆積物の粒径および形態,谷底勾配を調査し,土砂移動プロセスを検討した.また,その堆積物の下流側末端の様子の観察を行った.
結果は次の通り.谷底はすべて堆積物で覆われており水流はない.植生に覆われず堆積物が露出する範囲は標高1700m付近までである.この区間の平均勾配はおよそ30%である.堆積物の最大粒径(中径)は3m(標高2180m)から0.5m(1850m~1730m)へと下流側へ向かって減少していく.谷底には周囲の堆積物を侵食した跡が見られる.堆積物は岳沢の標高1700m付近で幾筋かに分岐して林に流れ込んで停止している状態が観察できる.この一連の堆積物末端部付近の勾配は急勾配となっている.標高1700mより下流部では周囲の急勾配の小谷から続く崖錐状または土石流ロウブ状堆積物やマトリクスをもたない巨大な岩塊が見られ,岩塊堆積物の下からは伏流していた大量の水が流れ出している.苅谷・松四(2014)も下流部で岳沢を塞ぐように見られる「巨大な舌状地形」を記載している.
以上のことから,現在の岳沢では,上流部に見られる土砂は崖錐および崖錐からつながる堆積地形の末端または谷底堆積物を侵食することによって生産されていること,谷底では土石流による土砂の移動と堆積が繰り返されて下流方向へ運搬されており,ふるい分け作用が働いていること,その土砂堆積物の末端は岳沢下流部までは到達していないことが明らかになった.したがって,現在の地形条件下では,岳沢で生産されている土砂の大部分は岳沢流域内で貯留されており,潜在土砂供給量を流域起伏と流域面積から推定した場合,オーバーエスティメイトとなる.