日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候・生態系変動

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、野木 義史(国立極地研究所)、大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)、座長:菅沼 悠介(国立極地研究所)

09:15 〜 09:30

[MIS21-12] ウェッデル海に産する珪質微化石を用いた中新世-鮮新世の古環境復元

*加藤 悠爾1須藤 斎1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:ウェッデル海, 珪藻, 黄金色藻シスト, 休眠胞子, 海氷

南極海において海氷が生成される際には,海水中の塩分の大半が氷から吐き出されるために低温高塩分の高密度水(ブライン)が作られる.このブラインは海洋循環を駆動する南極底層水のソースとなっている.よって,海氷生成量の増減は南極底層水の生成率を支配しており,間接的に全球の気候変動をも制御している可能性がある.また,ブラインの沈み込みに伴って起こる湧昇により海底から栄養塩に富んだ深層水が供給されるため,海氷形成は珪藻をはじめとする海洋プランクトンの分布にも大きく寄与する.したがって,地質時代に遡って気候・海洋循環の変動を調べるためには,南極海の海氷分布とそれに伴う海流運動の復元を行うことが重要な課題となる.
南極海の堆積物には珪藻化石が豊富に含まれており,これらは重要な年代決定・古環境指標として用いられている.しかし,南極海周辺における珪藻化石を用いた古環境復元の研究のほとんどは,最終氷期などの比較的新しい時代に焦点を当てており,過去の長期間にわたる海氷分布の変遷史を,珪藻化石などの古生物学的データや海流の鉛直・水平方向の運動を含めて復元した研究例はほとんどない.また,南極海などの湧昇流帯によくみられる珪藻のうち,Chaetoceros属は貧栄養環境下において休眠胞子と呼ばれる形態をとって休眠し,再び湧昇が起こって栄養塩と日光が供給されると活動を再開するという生活環を持っている.そのため,珪藻・休眠胞子化石の変動を複数地点・年代間で調査・比較することにより,本海域の湧昇流やその原因となる海氷生成・分布等を復元できる可能性がある.さらに,南極海の堆積物からは,主に淡水域に生息する黄金色藻のシスト化石も産出する場合があり,これらの産出は南極大陸起源の融氷水の存在を示唆すると考えられる.しかし,これらの休眠胞子・黄金色藻シスト化石を古海洋学的視点から研究した例は少ない.これらを踏まえ,本研究では,ウェッデル海で掘削され,長期間(中新統から鮮新統)にわたる珪藻化石記録が残されているODP Site 689 の試料を解析し,当該海域における過去およそ2500 万年間にわたる古海洋環境変遷の推定を行うことを主な目的とする.
珪藻化石の計数(種同定とカウント)は,一試料につき400 殻になるまで行い,珪藻化石を400 殻計数する間に産出したChaetoceros属休眠胞子化石,および黄金色藻のシスト化石の産出数も併せて記録した.サンプリングは1 m ごと(約10-20 万年間隔)に行った.
その結果,約18 Ma に,南極周極流の北縁に多く生息するThalassionema nitzschioides var. parvaの多産出が確認されたことから,当時,南極周極流が現在の位置(南緯約50°)とは大きく異なる場所に分布していた可能性が示唆された.また,海氷形成を示唆する珪藻種群は約13 Ma から産出し始め,約9.5-5 Ma に高い産出量を示した.また,約9.5 Ma には,融氷水の指標となる黄金色藻シストが減少した.このことから,本海域では,約13 Ma から海氷が発達し始め,約9.5 Ma には多年氷が分布するようになったと考えられる.また,約4.8 Ma の休眠胞子・黄金色藻シストの多産出は,大陸起源の融氷水により表層水が押し流され,それを補うようにして湧昇が強化された可能性を示唆している.さらに,約4.8-3 Ma には比較的温暖な環境を示唆する珪藻種群と黄金色藻シストが同時期に多産することから,この時期に南極氷床融解による淡水供給があったことが示唆された.