日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:筒井 智樹(秋田大学国際資源学部)、木下 佐和子(東京大学地震研究所)

15:00 〜 15:15

[SVC45-19] 有珠山試掘孔における合成地震反射係数列の検討

*筒井 智樹1大島 弘光2谷瀬 正寿3八幡 正弘4 (1.秋田大学、2.北海道大学、3.応用地質、4.マイジオ)

キーワード:有珠火山, 学術試錐, 物理検層, 合成地震記象, 活動火口近傍

有珠山2000年火口周辺における試錐孔の物理検層記録から得られた合成地震波反射係数列について報告する。本研究は地震学的構造断面と実際の表層構造とを結びつけ、火山の表面活動の場である表層構造を実証的に理解することが目的である。活動火口近傍において地震探査結果と試掘孔との直接対比を行うことは、これまで行われていなかった。
 有珠山2000年火口では2009年から2013年にかけて地震・火山噴火予知研究計画の一環として学術試錐を中心とする調査が行われた。試錐孔は2000年噴火にともなう隆起地帯の中で最大の隆起量を示した場所に設定され深度500mに達した。また、2011年には約10年間の構造変化の検出を目的とする反射法地震探査が試錐地点の周囲で行われている。試錐孔は地震探査測線の北端から約350mの地点に相当する。
 試錐孔では深度90mから500mのすべての深度にわたり物理検層とコアサンプルの取得が行われた。物理検層ではサスペンション検層により弾性波速度(P波速度およびS波速度)が1mごとに計測された。さらに採取されたコアサンプルのうち代表的な岩相について乾燥状態および湿潤状態における弾性波速度および密度の計測が行われた。
 試錐孔における物理検層結果から地震波反射係数列を作成するにあたり、弾性波速度ばかりでなく、密度を与える必要がある。しかしながら今回の検層結果では密度が直接測定で得られていないために、コアサンプル測定値から実験式を定義して検層で得られた各深度における弾性波速度からその深度における密度を推定した。
 検層の対象となった深度は地下水面より下であったが、自然状態の実験式を用いて検層結果から密度を導いた。弾性波速度はP波およびS波の両方とも検層で直接得られた値に10ポイント窓のメディアンフィルターを施したものを各深度における速度の代表値とした。また、地表面におけるP波速度は近傍の地震探査結果を援用し、検層区間が始まる深度までは線形補完を行った。
 上記のようにして得られた弾性波速度および密度を入力テーブルとして0.134~0.422秒の間の0.288秒間の合成地震波反射係数列を1ms間隔で得た。地震反射断面の往復走時0.1~0.4秒の区間の卓越周波数がおおよそ24Hzであることを考慮して、合成地震波反射係数列に12-48Hzのバンドパスフィルターを施したものを試錐孔周辺で行われた地震反射断面との対比に用いた。地震探査帯域の反射係数列中には4つの明瞭な反射イベント、0.161, 0.209, 0.279, 0.307秒.が認められた。
 合成地震波反射係数列で最大振幅を占める往復走時0.27秒に対応する反射は、地震反射断面ではあまり明瞭ではない。むしろその下の往復走時0.307秒に対応する反射は地震反射断面の掘削孔より北側で不明瞭であるが、その反対側で明瞭度を増す。また、往復走時0.209秒付近に対応する反射は、地震反射断面では比較的明瞭に認めることができる。合成地震波反射係数列の往復走時0.16秒に対応する反射イベントは、地震反射断面のほうが明瞭である。
 現時点では合成地震波反射係数列の反射振幅と地震反射断面の反射振幅の傾向が一致していない。合成地震波反射係数列と地震反射断面の傾向の違いの原因を合成地震波反射係数列作成過程に求めるのであれば、密度推定に用いた実験式が適切ではなかった可能性がある。他の密度推定式を用いた場合の合成反射係数列についても検討した。0.279秒の位相を除けば、飽和状態と乾燥状態の両者の合成反射係数列の形状には目立った差異が認められない。したがって、0.27秒イベントに目をつむれば、飽和(あるいは乾燥)状態の実験式を用いた合成反射係数列と反射断面は比較的よく対応する。したがって、本研究で求めた合成地震記録は真実に近いものであると結論する。