日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM33] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2015年5月26日(火) 11:00 〜 12:45 102A (1F)

コンビーナ:*神田 径(東京工業大学火山流体研究センター)、市來 雅啓(東北大学大学院理学研究科)、座長:畑 真紀(東京大学地震研究所)

12:00 〜 12:15

[SEM33-11] タール火山(フィリピン)における2010-2011年活動に伴う全磁力変化

*笹井 洋一1アラニス ポール・K・B2長尾 年恭1ズロトニキ ジャック3ジョンストン マルコム・J・S4 (1.東海大・海洋研、2.フィリピン火山地震研、3.国立科学研究センター (仏)、4.合衆国地質調査所 (アメリカ合衆国))

キーワード:タール火山, 2010-2011年活動, 全磁力変化, 熱水溜, キュリー点等温面, ピエゾ磁気効果

我々は2005年以来,フィリピン・ルソン島のタール火山において火山活動監視のため,プロトン磁力計による全磁力観測や自然電位の観測を行ってきた.2010年4月にタール火山Volcano島において地震回数が急増して,7月には島の住民が全島避難する事態になった.地震回数には2011年後半までに4回のピークがあり,警戒レベルの判定にPHIVOLCSは苦労した.Volcano島の北側斜面に我々のプロトン磁力計と傾斜計が設置されており,そのデータを用いて一連の活動を説明する力学的モデルを作成した.Volcano島の中央部の地下1kmから4kmに直径3kmの大きな熱水溜があり,その膨張・収縮が全磁力変化に大きく寄与していると判った.この活動は深さ5kmにマグマ貫入と思われる膨張力源が発生し,そこから火山性流体が深さ2.5kmを中心とする熱水溜に供給されて,熱水溜の膨張と周囲への間隙流体圧の増加によって地震活動が励起されたと考えられる.活動に伴い,明瞭な全磁力の減少が観測された.タール火山周辺の伏角は14°と浅く,熱消磁を考えるとその真上では全磁力はかえって増加する.地殻変動と地磁気変化は見事に対応するので,ピエゾ磁気効果が原因と考えられる.我々の力源モデルは回転楕円体(Davis, 1986)であるが,対応するピエゾ磁気モデルは未完成なので茂木モデルで代用する.浅い火山性地殻変動なので,地殻の剛性率を1x103MPaと一桁小さく仮定するが,磁気応力係数は2MPa-1と一桁大きくなると推定され,両者の積で決まるピエゾ磁場の大きさは変らない.キュリー点深度(H)が最も不明なパラメータであるが,タール火山が地溝帯に位置していて地下は高温であることを考慮して多数のモデルを試した結果,H=2.5kmを採用した.深部力源によっては地磁気変化はほとんど生じないが,熱水溜の膨張によって全磁力変化はうまく説明できる.熱水溜の圧力変化は1MPa以下と推定される.このように低圧力での熱水溜の膨張は,火山性流体が非凝縮性であるCO2ガスを大量に含むことで,気液二相状態が生じるためと考えられる.この推測は主火口湖からのCO2放出量の測定結果によって支持される.