日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS34] 古気候・古海洋変動

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 301A (3F)

コンビーナ:*山田 和芳(静岡県 文化・観光部 文化学術局 ふじのくに地球環境史ミュージアム整備課)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、北村 晃寿(静岡大学理学部地球科学教室)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、中川 毅(立命館大学)、林田 明(同志社大学理工学部環境システム学科)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

17:21 〜 17:24

[MIS34-P05] アラスカ湾における5万年間の生物源オパール量変化

ポスター講演3分口頭発表枠

*菅 聖一郎1朝日 博史2今野 進3須藤 斎4岡崎 裕典3 (1.九州大学理学部、2.韓国極地研究所、3.九州大学大学院理学研究院、4.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:生物源オパール, アラスカ湾, 最終氷期, IODP

アラスカ湾は珪藻を主とした植物プランクトンの生産量が高い海域である。珪藻は生物源オパールの殻を持っており、化石として海底堆積物中によく保存される。したがって、海底堆積物中の生物源オパールは、過去の珪藻生産の指標となる(e.g. Ragueneau et al., 2000)。本研究では2013年に実施された統合国際深海掘削計画(IODP)第341次航海によりアラスカ湾のサイトU1418(58°46.6′N, 144°29.6′W, 水深3667 m)で掘削された堆積物試料を用いた(Expedition 341 Scientists, 2014)。サイトU1418では5つのHoleにおいて掘削が行われ、有孔虫や珪藻を含む約100万年間分の連続堆積物が回収された。U1418試料の年代モデルは浮遊性有孔虫(Neogloboquadrina pachyderma sinistral)の酸素同位体層序および古地磁気層序・微化石生層序によって構築されている(Asahi et al., 2014)。アラスカ湾沿岸域の堆積速度は極めて速く、サイトU1418の平均堆積速度は~70 cm/kyrであった。本研究では船上分析により比較的珪藻の産出量が高かった上部5万年間(約60 m)の計120試料を用いて、生物源オパール測定を行った。本研究の目的はU1418試料中の生物源オパール変動に基づく過去5万年間の珪藻生産の歴史を明らかにすることである。生物源オパール(重量%)を、弱アルカリ(2 M炭酸ナトリウム)を用いたアルカリ抽出とモリブデンイエロー法による比色定量によって測定した(Mortlock and Froelich, 1989)。生物源オパール(重量%)は堆積物中の相対的な値であり、珪藻以外の成分の希釈の影響を受ける。そこでより正確な珪藻量を求めるため、堆積物の密度(Expedition 341 Scientists, 2014)と堆積速度(Asahi et al., 2014)から生物源オパール沈積流量(g cm-2 kyr-1)を算出した。沈積流量は1,000年1 cm2あたりに堆積した生物源オパール量であり珪藻以外の成分による希釈効果の影響を受けない。本研究の堆積物試料は海洋酸素同位体ステージ(MIS)1-3に対応しており、MIS 2(1.4-2.9万年)は顕著な氷期である。MIS 2と3における生物源オパール沈積流量の平均値はそれぞれ3.60 g cm-2 kyr-1および6.89 g cm-2 kyr-1であり、MIS 2の方が低かった。なおU1418では完新世の層準は、ほとんど回収されなかった。このことは氷期において珪藻の生産量が低下したことを示唆する。現在のアラスカ湾は植物プランクトン生産量を制約する微量元素である鉄が不足している高栄養塩低クロロフィル(HNLC)海域である一方で、氷期には風成塵による海洋への鉄の供給が増加したと考えられてきた(Kohfeld and Harrison, 2001)。しかしながら、本研究ではMIS 2に生物源オパール沈積流量が減少しており、風成塵由来の鉄が氷期のアラスカ湾の珪藻生産を増加させたという説を支持しない結果が得られた。これらの結果から、アラスカ湾ではMIS 2に海氷が被覆しており(de Vernal and Pedersen, 1997)、光環境の制限によって珪藻生産が減少したと考えた。

参考文献
Asahi, H. et al., AGU fall meeting, PP21A-1286, 2014
de Vernal, A. and T.F. Pedersen, Paleoceanography 12, 821-830, 1997
Expedition 341 Scientists, IODP Exp. 341 Preliminary Report, 2014
Kohfeld, K.E. and S.P. Harrison, Earth-Sci. Rev. 54, 81?114, 2001
Mortlock, R.A. and P.N. Froelich, Deep-Sea Res. A, 36, 1415-1426, 1989
Ragueneau, O. et al., Global Planet. Change 26, 317?365, 2000