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[MIS26-15] タイワンリス (Callosciurus erythraeus) の肝臓における特異的な銅蓄積現象
キーワード:タイワンリス, 銅蓄積, 銅代謝, 種特異性, メタロチオネイン, セルロプラスミン
【目的】銅 (Cu) は必須元素であり,肝臓はCu代謝にとって重要な器官である.Cuの代謝異常障害としてWilson病 (WD) が知られている.WDは肝臓でのATP7B異常のため,血中および胆汁へのCu排泄が阻害される.その結果,血中ではCu欠乏,肝臓ではCu過剰状態となり肝炎・肝癌を発症する.また,ベドリントンテリア (BT) ではATP7Bに異常がないが,COMMD1というATP7Bと協力して胆汁へのCu排泄に関与するタンパク質に異常があるため,肝臓中にCuが蓄積する.
これまで我々は,日本および台湾各地で捕獲した野生のタイワンリスが平均で420 μg/wet gと高濃度のCuを肝臓に蓄積していることを報告し,環境要因でないことを明らかとした.1, 2) 本報では,本種の毒性影響評価に加えて,HPLC-ICP MS法を用いて本種におけるCuの細胞内分布を明らかにし,蓄積過程について検討を行った.
【試料と方法】 2001年から2006年に神奈川県鎌倉市で捕獲したタイワンリス(Callosciurus erythraeus) 37検体より,肝臓,血清および胆汁を採取し分析まで-80℃で保管した.また,肝臓の一部はホルマリンに保存しヘマトキシリン・エオシン (HE) 染色による組織検査を行った.血清中ALT, AST, Cpの酵素活性は吸光光度法を用いて測定した.肝臓は窒素気流下でホモジナイズし,105,000×g、4℃において60分間の超遠心分離により不溶性および可溶性画分に分画した.各画分および血清・胆汁は硝酸-過塩素酸混液による湿式灰化の後,ICP-MS (HP-7500, Agilent, Japan) にてCu,亜鉛およびカドミウム濃度を測定した.また,肝可溶性画分および血清はゲルカラム (Develosil 100Diol-5, 8.0×300 mm,8.0×35 mm ガードカラム付き; Nomura Chemical, Tokyo) と100mM 酢酸アンモニウム緩衝液 (pH 6.5, 25 ℃)を用いたHPLC-ICP MSにより金属タンパク質の分析を行った.
【結果と考察】供試した肝臓中Cu濃度は6.3~1740 μg/g (湿重あたり) であった.HE染色の結果,肝臓では黄褐色の沈着を伴う空砲性変性が認められたが,これらは可逆的な変性であり,黄疸・肝肥大等の肉眼的な解剖学的変化は認められず,肝臓中Cu濃度との関連も認められなかった.さらに,肝障害のマーカーとなる血中AST,ALT活性も肝臓中Cu濃度による増加は認められなかった.これらのことから,本種においては,Cuを無毒化するメカニズムがあることが示唆された.
一般に,肝臓に蓄積したCuは細胞質に局在するタンパク質であるMTに捕捉されることで無毒化されており,LECラットやBTで蓄積したCuはおもにMTに結合した状態で存在している.そこで,本種の肝臓中MTに着目し解析を行った.肝臓中のCu濃度が100 μg/gを越える試料では、60%のCuが不溶性画分に存在した.また,HPLC-ICP MS分析により,肝臓中Cu濃度が高くなるに伴いMTに結合したCu量が増加したが,蓄積したCuはMTよりも可溶性の高分子蛋白質に分布することが分かった.以上の結果から,肝臓に取込まれたCuはまずMTと結合するが肝臓中のCu量が増えるとMTよりも可溶性の高分子量蛋白質や不溶性の画分に多く分布することが明らかとなった.
肝臓からのCu排泄経路である血清および胆汁中Cu濃度を測定したところ,血清中セルロプラスミン (Cp) へ活性は低いもののCpへのCu供給は行われていた.さらに,胆汁へのCu排泄も行われていることも確認された.以上のことから,タイワンリスではLECラットやBTとは異なる蓄積機構が存在すると考えられ,蓄積したCuは細胞質のMT以外の成分に結合することが明らかとなった.
【引用文献】
1. Suzuki et al., Chemosphere, 64, 1296-1310 (2006).
2. Suzuki et al., Chemosphere, 68, 1270-1279 (2007).
これまで我々は,日本および台湾各地で捕獲した野生のタイワンリスが平均で420 μg/wet gと高濃度のCuを肝臓に蓄積していることを報告し,環境要因でないことを明らかとした.1, 2) 本報では,本種の毒性影響評価に加えて,HPLC-ICP MS法を用いて本種におけるCuの細胞内分布を明らかにし,蓄積過程について検討を行った.
【試料と方法】 2001年から2006年に神奈川県鎌倉市で捕獲したタイワンリス(Callosciurus erythraeus) 37検体より,肝臓,血清および胆汁を採取し分析まで-80℃で保管した.また,肝臓の一部はホルマリンに保存しヘマトキシリン・エオシン (HE) 染色による組織検査を行った.血清中ALT, AST, Cpの酵素活性は吸光光度法を用いて測定した.肝臓は窒素気流下でホモジナイズし,105,000×g、4℃において60分間の超遠心分離により不溶性および可溶性画分に分画した.各画分および血清・胆汁は硝酸-過塩素酸混液による湿式灰化の後,ICP-MS (HP-7500, Agilent, Japan) にてCu,亜鉛およびカドミウム濃度を測定した.また,肝可溶性画分および血清はゲルカラム (Develosil 100Diol-5, 8.0×300 mm,8.0×35 mm ガードカラム付き; Nomura Chemical, Tokyo) と100mM 酢酸アンモニウム緩衝液 (pH 6.5, 25 ℃)を用いたHPLC-ICP MSにより金属タンパク質の分析を行った.
【結果と考察】供試した肝臓中Cu濃度は6.3~1740 μg/g (湿重あたり) であった.HE染色の結果,肝臓では黄褐色の沈着を伴う空砲性変性が認められたが,これらは可逆的な変性であり,黄疸・肝肥大等の肉眼的な解剖学的変化は認められず,肝臓中Cu濃度との関連も認められなかった.さらに,肝障害のマーカーとなる血中AST,ALT活性も肝臓中Cu濃度による増加は認められなかった.これらのことから,本種においては,Cuを無毒化するメカニズムがあることが示唆された.
一般に,肝臓に蓄積したCuは細胞質に局在するタンパク質であるMTに捕捉されることで無毒化されており,LECラットやBTで蓄積したCuはおもにMTに結合した状態で存在している.そこで,本種の肝臓中MTに着目し解析を行った.肝臓中のCu濃度が100 μg/gを越える試料では、60%のCuが不溶性画分に存在した.また,HPLC-ICP MS分析により,肝臓中Cu濃度が高くなるに伴いMTに結合したCu量が増加したが,蓄積したCuはMTよりも可溶性の高分子蛋白質に分布することが分かった.以上の結果から,肝臓に取込まれたCuはまずMTと結合するが肝臓中のCu量が増えるとMTよりも可溶性の高分子量蛋白質や不溶性の画分に多く分布することが明らかとなった.
肝臓からのCu排泄経路である血清および胆汁中Cu濃度を測定したところ,血清中セルロプラスミン (Cp) へ活性は低いもののCpへのCu供給は行われていた.さらに,胆汁へのCu排泄も行われていることも確認された.以上のことから,タイワンリスではLECラットやBTとは異なる蓄積機構が存在すると考えられ,蓄積したCuは細胞質のMT以外の成分に結合することが明らかとなった.
【引用文献】
1. Suzuki et al., Chemosphere, 64, 1296-1310 (2006).
2. Suzuki et al., Chemosphere, 68, 1270-1279 (2007).