日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS25] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)

18:15 〜 19:30

[HDS25-P04] 赤石山脈・仙丈ケ岳北面で発生した大規模岩石なだれの地形学・地質学的研究

*黒澤 兆1苅谷 愛彦2松四 雄騎3松崎 浩之4 (1.専修大学大学院、2.専修大学、3.京都大学、4.東京大学)

キーワード:岩石なだれ, 岩盤重力変形, 宇宙線生成核種年代法, 完新世

赤石山脈北部・仙丈ヶ岳(標高3033 m)一帯は,四万十帯砂岩・泥岩互層と,甲斐駒ケ岳花崗岩の接触変成を受けたホルンフェルスからなる。仙丈ヶ岳の北面には圏谷や堆石堤が存在し,このうち薮沢圏谷から北流する薮沢では河床標高1500-2000 m付近の両岸に層厚約100 mに達する厚い礫層(薮沢礫層)が存在する。従来,薮沢礫層は最終氷期の融氷流堆積物(式 1974)や,山岳永久凍土の融解に関係した完新世初頭の崩壊堆積物(神澤・平川 2000)とされてきた。しかし薮沢礫層の分布や成因,年代に関する情報は少なく,議論の余地がある。演者らが再調査を行ったところ,薮沢礫層は単なる斜面崩壊の産物ではなく,大規模な岩石なだれに起因するとの結論に達した。その概要は以下のとおりである。
(1)分布:従来考えられていた分布下限より,さらに下流側に遠隔分布する。この事実は体積推算や堆積物の流動性を論じる際に拘束条件を与える。平均層厚を50 mと仮定し,新たに求めた薮沢礫層の推定体積は4.8×107 m3である(従来は1.5×107 m3)。(2)塚状地形・畝状地形:薮沢礫層の表層には,形態は不明瞭ながら高さ5 m前後の塚状・畝状の地形が各所に分布する。それらは一定方向に配列したり,特定の領域に集中する傾向がある。(3)ジグソー・クラック:薮沢礫層は層相や堆積構造に基づき3ユニット(Yl,Ym,Yu)に区分できる。YlとYmは砂岩・泥岩の角礫を主とする礫支持の堆積物で,礫には特徴的にジグソークラックが発達する。また,Ylには巨礫が卓越する。Yuは砂岩の角礫・亜角礫を主とする基質支持の堆積物である。ただし,Yuは薮沢に流入する支谷の出口付近に限定的に分布し,部分的に下位のYlやYmを覆っているとみられる。(4)線状凹地および岩盤の変形:薮沢左岸谷壁上部の通称馬ノ背尾根のうち,幅広の鈍頂尾根部分には,尾根の走向に平行な多数の線状凹地が発達する。ただし鈍頂尾根は馬蹄形の急斜面に切られ,その急斜面の傾斜は馬ノ背尾根付近の砂岩・泥岩層の傾斜に近似する。馬ノ背尾根一帯では基盤岩の一般走向・傾斜が局所的に乱れる。(5)年代:Ylが地表に露出する地点で砂岩礫を採取し,宇宙線生成核種年代(TCN;10Be)を測定した。3点の試料は,10.3-8.4 ka,10.0-8.1 ka,9.4-7.6 kaを示した。
以上のうち(1)や(2),(3)から,薮沢礫層は流れ山や圧縮・引張リッジを形成するような挙動を示して流動・堆積した大規模な岩石なだれ堆積物と判定される。岩石なだれ堆積物はYl,Ymに相当する。その発生域は従来指摘されていた薮沢左岸谷壁上部であることに変わりはないが,(4)からみて,馬ノ背尾根一帯では岩盤の重力変形が進行しており,岩石なだれ発生前には線状凹地が発達した鈍頂尾根が存在していたと考えられる。TCN年代は既往の14C年代(9.6-8.4 ka)と矛盾しないが,いくぶんレンジが広い。複数の堆積ユニットが認定されるという(3)の事実を考慮すると,岩石なだれは完新世初頭から前半の数千年間に何回かに分けて発生したことも疑われる。