日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS21] 大気化学

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 201B (2F)

コンビーナ:*澤 庸介(気象研究所海洋・地球化学研究部)、竹川 暢之(首都大学東京 大学院理工学研究科)、金谷 有剛(独立行政法人海洋研究開発機構地球環境変動領域)、高橋 けんし(京都大学生存圏研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:中山 智喜(名古屋大学 太陽地球環境研究所)

16:51 〜 16:54

[AAS21-P03] レーザー誘起白熱法を用いた鉄含有鉱物粒子の検出・定量法の研究

ポスター講演3分口頭発表枠

*吉田 淳1茂木 信宏1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:エアロゾル, 大気化学

1.はじめに
雪氷面に光吸収性粒子が沈着するとアルベドが低下することが知られている.光吸収性粒子としてはブラックカーボン(BC)が主として挙げられるが,最近の研究では光吸収性鉱物を含むダストもアルベド低下に大きく寄与しており,特にダストに含まれる鉄の含有量に依存することが分かっている[Moosmueller et al. 2012].しかし気候モデルによる定量計算に用いるダストの粒径分布といった光学特性は経験的な値を用いているので計算結果に大きな不確実性が生じているのが現状である.不確実性の解消のためには観測を通してダストの放射理論を厳密に確立させる必要がある.
粒子の放射特性を調べるには粒径分布の情報が重要であり,そのためには従来の粒子集団の質量を測定する方法ではなく,粒子一つ一つを成分判別させた上で物理量を測定する必要がある.現在ではSingle-particle Soot Photometer (SP2) という装置を用いたレーザー誘起白熱法(LII法)によって個々のBCを選択的に定量測定することができている.この方法は粒子をレーザーで加熱させて発生する白熱光を利用した測定方法で,高沸点でかつ白熱性である粒子を選択的に測定することができる.本研究では,室内実験に基づき,自然起源の光吸収性ダストである鉄含有鉱物粒子(火山灰や黄砂)をLII法で定量できることを初めて実証した.

2.レーザー誘起白熱法
本研究で用いたSP2という装置は粒子一つ一つをレーザー光にあてて散乱光や,白熱性の粒子であれば加熱された粒子が発する白熱光を検出する装置である.先行研究より2つの異なる波長帯の検出器で測定された白熱光強度のピーク値の比(color ratio とする)は粒子の沸点に依存し,沸点が高いほどcolor ratioの値は大きくなることが知られている.この性質を利用して沸点の異なる白熱性物質を区別することができる.本研究ではcolor ratio,白熱光強度,散乱光強度(散乱断面積)の測定値を用いて議論する.

3.Color ratioの測定値
図には高沸点でかつ白熱性である鉄・酸化鉄試薬,チタン試薬,fullerene soot (BCの標準物質)のcolor ratioの測定値の確率分布を示している.これら3種のピークは互いに重なり合っておらず,他の主要な白熱性金属鉱物でこの範囲中のcolor ratio 値をとるものは存在しない.したがって,color ratio の値から白熱性物質が鉄・酸化鉄(〜1.5)か純粋なチタン(〜2.2)かBC(〜2.6)かを判別することができる.試薬と同様にアイスランドの雪氷に沈着した有色粒子(P. Dagsson-Waldhauserova氏提供)とタクラマカン砂漠で採取された砂(多田隆治教授提供)を測定するとcolor ratio の値は鉄・酸化鉄とfullerene sootとほとんど等しいピークをとり(図),BCと鉄含有鉱物を含んでいることがLII法で確かめられた.

4.鉄の定量測定
粒子中の鉄の定量のためには,白熱光強度と質量の関係性を明らかにする必要がある.本研究では純粋な鉄試薬の質量と白熱光強度の関係を求めた.この関係を用いることで,白熱光強度の測定値から粒子中の鉄の質量を定量できることが示された.