日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD23] 重力・ジオイド

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:00 102A (1F)

コンビーナ:*西島 潤(九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門)、青山 雄一(国立極地研究所)、座長:西島 潤(九州大学大学院)、宮崎 隆幸(国土交通省国土地理院)

16:30 〜 16:45

[SGD23-02] 重力と地形のアドミッタンスからみた月のリソスフェア

*三枝 優輝1日置 幸介2 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.北海道大学理学研究院自然史科学部門)

キーワード:月, 地形, 重力異常, リソスフェア, 相関, アドミッタンス

地球の衛星である月は、原始地球に火星程度の大きさを持つ巨大隕石が衝突し、その時に生じた破片が集積し冷却することで形成されたと考えられている(ジャイアントインパクト説)。また月は、太陽系の長い歴史を表面に記録し、保存している最も接近しやすい天体なので、太陽系惑星の進化の歴史を解読するための重要な鍵となる。惑星がどのように形成され進化したかを調査することで、その惑星の内部構造、熱エネルギーの収支、冷却時の物質の分化の特徴を理解することができる。
 そのため月の探査は今日までに数多くされてきた。ガリレオ・ガリレイによる光学望遠鏡の発明によって、月表面の地形の凹凸が目視できるようになった。20世紀になると実際に月に探査機を飛ばし、着陸機による観測や軌道からの観測によって月の内部構造さえも把握しようとしている。
 本研究では、共通軌道(極軌道)を描く2つの探査機を月の上空に飛ばし、その2つの探査機の距離を測ることで重力分布や地下構造を推定するGRAIL(Gravity Recovery and Interior Laboratory)ミッションから得られる重力場データと、レーザ高度計を搭載した月探査機Lunar Reconnaissance Orbiter(LRO)から得られた地形データをそれぞれ球関数展開し、それによって求まった係数を比較し、両者の相関の波長依存性に注目した。その結果、低次数では相関が低く観測され、高次数では高く観測された。これは月表面の長波長の地形(大まかな地形)については、月内部の流動性によってアイソスタシーが成り立っているが、短波長の地形(局地的な地形)はリソスフェアによって支えられておりアイソスタシーが成り立っていないことを示している。同時に、重力の観測限界に近い短波長の地形に関しては見かけ上相関が低くなることもわかった。
 月の他に地球や火星などの地球型惑星における重力と地形の相関を比較し、それらの天体における重力異常、アイソスタシー補償の程度やリソスフェアの剛性について議論することも重要である。火星の場合、半径は地球と月の中間程度なので、月に比べて内部の流動性が高く、アイソスタシー補償はより高度に達成されていることが予測される。
 相関の他に、地形がもたらす重力異常を評価する物理量として、両者の振幅比である「アドミッタンス」がある。これは月表面のうち、弾性体として振る舞い、地形の凹凸によってモホ面の凹凸に影響を与えることができる厚さ(本稿ではこれを「リソスフェア厚さ」と呼ぶ)を議論する上で重要な物理量である。
一般に天体の大小は、内部熱源の量に対する表面積の比の大小を意味するため、大きな天体ほど熱流量が大きくリソスフェアも薄い。リソスフェアが薄いと短い波長の地形でもアイソスタシーが成り立つようになる。従って、地球よりも小さな月のリソスフェアの厚さは、地球の数倍厚いことが予測される。しかし、Watts (2001)の理論に基づいてアドミッタンスの波長依存性から得られたリソスフェアの厚さは約14 kmとなり、地球と同程度であることが分かった。これは月の地形が形成された年代が、安定陸塊が形成された先カンブリア時代の中でも40億年前近いはるか昔であることを示唆しているのかもしれない。当時の月はまだ冷え切っておらず、高い熱流量と現在の地球と変わらない薄いリソスフェアが支配していたのだと思われる。
惑星物理学にとって大切なことは、様々な惑星(衛星も含む)と比較し、その類似点や相違点を明らかにしてその原因を議論することである。ここで論じた月や地球の重力と地形のアドミッタンスを、他の地球型惑星のそれと比較することで、それぞれの天体の熱進化の過程を議論することができる。また、月のように太陽系の初期に冷えてしまった天体では、遠い過去のアイソスタシーの状態が化石として保存されている。今後は、天体の大きさだけでなく、地形の主な形成年代も考慮した議論が必要であろう。