日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 B (地球生命科学) » B-AO 宇宙生物学・生命起源

[B-AO01] Astrobiology: Origins, Evolution, Distribution of Life

2015年5月27日(水) 16:15 〜 18:03 105 (1F)

コンビーナ:*小林 憲正(横浜国立大学大学院工学研究院)、山岸 明彦(東京薬科大学生命科学部)、大石 雅寿(国立天文台天文データセンター)、田近 英一(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

17:51 〜 17:54

[BAO01-P09] 極限環境生命活動評価のための土壌中のアミノ酸分析法の検討

ポスター講演3分口頭発表枠

*石川 優人1宮本 妃菜1金子 竹男1癸生川 陽子1小林 憲正2小川 麻里3Rafael Navarro-Gonzalez4 (1.横浜国立大学、2.横浜国立大学、自然科学研究機構、3.安田女子大学、4.メキシコ国立自治大学)

キーワード:極限環境, アミノ酸, 生物活動, 抽出法, 南極, アタカマ砂漠

近年、地球上の様々な極限環境(人間のよく知る一般的な動植物、微生物の生育環境から逸脱するような環境)にも生物活動が知られるようになった。アミノ酸は主要な生体分子であり、地球上の生物活動の評価にアミノ酸濃度を使用できる可能性が考えられる。
 極限環境土壌試料に含まれるアミノ酸の濃度は一般的な環境中の土壌に含まれるアミノ酸濃度と比較してとても小さいことがわかっている。そこで、極限環境土壌試料のアミノ酸濃度測定を行う際には、より多くのアミノ酸を土壌から抽出できるような操作が求められる。しかし、抽出可能なアミノ酸量が多くても操作過程におけるブランクが大きくては意味がなく、極限環境試料におけるアミノ酸抽出法には抽出量は多いが操作ブランクは小さいものが求められる。
 極限環境試料としてアタカマ砂漠土壌と南極土壌を使用した。アタカマ砂漠土壌は2002年10月に、アタカマ砂漠の西経70°付近において南緯24°~28°の間で採取されたものであり、南極土壌は第49次日本南極地域観測隊によって昭和基地付近で採取されたものである。比較のため、一般的な環境試料として横浜国大キャンパス土壌を使用した。また、操作過程におけるコンタミネーションの評価のために、なにも試料を使わずに試料を使用した時と同じように実験操作を行ったものも用意し、これを操作ブランクとした。
 抽出法として大きくフッ酸分解抽出法と熱水抽出法、塩酸抽出法を使用した。
 フッ酸分解抽出法は、土壌試料約0.1 gを洗浄したテフロン密閉容器にいれ、5 M HF-0.1 M HClを3 mL加えて密閉し、110℃で24時間加熱分解した。これを加熱乾固した後、6 M HCl 1 mLを加えて110℃で24時間酸加水分解を行った。
 熱水抽出法は、土壌試料約0.1 gを洗浄した試験管に入れ、超純水1.5 mLを加えて封緘し、110℃で24時間加熱した。加熱後、12 M HCl 1.5 mL加えて110℃で24時間酸加水分解を行った。
 塩酸抽出法では、土壌試料約0.1 gを試験管に入れ、6 M HCl 3 mL加えて110℃で加熱し、抽出と酸加水分解を同時に行った。
 酸加水分解後はどちらの方法でも遠心乾燥によりHClを除去した。ただし、フッ酸分解抽出法では酸加水分解後に溶液を試験管に移して遠心乾燥を行った。HClが除去できたら試験管に0.1 M HClを加えて残留物を溶解させ、AG-50W-X8で脱塩・分画し、そのアンモニア画分を試験管に移し再び遠心乾燥を行った。遠心乾燥によって溶媒が除去できたら、残留物に超純水を加えて溶解させ,メンブレンフィルターでろ過後,陽イオン交換HPLC-ポストカラム誘導体化-蛍光検出法でアミノ酸を同定、定量した。
 フッ酸分解抽出法と熱水抽出法、塩酸抽出法の結果を比較すると、一般環境試料のように含まれるアミノ酸量が多い試料についてはどちらもほぼ変わらない量のアミノ酸を検出することができた。しかし、極限環境土壌のように含まれるアミノ酸量が少ない試料については検出できたアミノ酸の量に差が生じた。一見するとフッ酸分解抽出法の方が多くのアミノ酸を検出できているように見えるが、ブランクを比較するとフッ酸分解抽出法の方が圧倒的に大きくなっている。つまり、フッ酸分解抽出法によって処理したサンプルで検出できたアミノ酸の少なくない量は試料由来ではないと考えられる。一方、熱水抽出法と塩酸抽出法の場合はブランクの値は小さく、これらの結果についてはほぼ土壌試料由来のアミノ酸のみを検出できていると考えられる。
 以上をまとめると、極限環境試料のように含まれるアミノ酸量が少ない土壌試料のアミノ酸濃度測定を行う際は、試料からのアミノ酸抽出法としてブランクの値が小さい熱水抽出法や塩酸抽出法を用いる方が良いと言える。しかし、これらの抽出法については現在の条件が本当にアミノ酸抽出量の一番高い方法であるとは言い切れないので、さらによい条件を探す必要がある。
 今後の方針として、逆相HPLCを用いたアミノ酸のD/L比測定の手法を検討し、実際に土壌試料中に含まれるアミノ酸のD/L比測定を行うことを考えている。