18:15 〜 19:30
[HQR23-P03] 泥炭層の強熱減量を用いた石狩低地の古洪水復元
キーワード:古洪水, 泥炭層, 氾濫原, 完新世
これまでの古洪水復元の研究では,slackwater depositsを用いて大規模な洪水が生じた時期を明らかにし,気候変動との関係について議論してきたものが多くみられる(Huang et al., 2013など).一方,頻繁に生じる氾濫によって形成される氾濫堆積物を用いて古洪水を復元し,リージョナルな気候変動との関係について議論した例は少ない.これは,氾濫堆積物を用いた古洪水復元が一般的に難しいためであると考えられる.例えば,数百年スケールでの氾濫堆積速度の変化を放射性炭素年代測定によって詳細に捉えることは難しい.
泥炭層中に含まれる土砂の相対的な量は,氾濫による土砂の堆積速度を反映していると考えられる.細粒な土砂の堆積速度は主に湛水時間を反映する.したがって,泥炭層の強熱減量(Loss on Ignition: LOI)を用いることで,小規模な氾濫の頻度を長期間にわたって復元できる可能性がある.
本研究は約5000年前以降に泥炭層が形成され始めた石狩低地を対象として,泥炭層のLOI測定および種子分析をおこない,LOIが氾濫頻度の変化の指標として用いることができるかを検討し,北海道周辺の気候変動を明らかにすることを目的とする.
表層の深度約3~5 mで泥炭層がみられ,その下位には青灰色で塊状の粘土層がみられる場合が多い.粘土層中では植物片を含まない場合が多い.泥炭層のLOIは,その変化のパターンと位置にもとづき,3種類に大別できる.パターン1では,LOIは約3,600 cal BP以前に増減を繰り返しながら増加し,約3,600 cal BPに50%以上で比較的安定した後,ゆるやかに低下している.パターン1は主に石狩川河道付近に位置する地点において見られる.パターン2では泥炭層の堆積後にはLOIの増減傾向はあまりみられず,約20~80%の間を振幅するという特徴を示す.パターン2は主に石狩川からやや離れており,支流から近い地点においてみられる.パターン3では泥炭層の堆積開始後,LOIが比較的急速に増加し,約70%以上を安定して保っている.パターン3は主に低地の東側でみられる.パターン1のP43およびパターン2のP40のどちらにおいても,強熱減量が低い部分においてスゲ属や富栄養を好むシロネ属などが産出し,強熱減量が高い部分では貧栄養を好むヤチヤナギなどが産出する.
泥炭層のLOIの変化に影響を与える要因は,氾濫堆積速度および有機物堆積速度である.氾濫堆積速度を支配するのは洪水時の湛水時間や土砂の濃度である.有機物堆積速度は植物種の違いや気温変化にともなう生産速度の変化の影響を受ける可能性がある.しかし,種実分析の結果から,強熱減量の変化が栄養状態の変化と一致することが明らかとなった.泥炭地における栄養状態は洪水頻度を反映する.したがって,石狩川本流における氾濫堆積速度は氾濫頻度を強く反映すると推定される.つまり,石狩低地における泥炭層のLOIの変化は氾濫頻度の指標となる.
石狩川本流の近くに位置し,より詳細に年代測定をおこなったパターン1のP16,P18,P21,H1においては,氾濫頻度は約5,200~3,600 cal BPに低下し,約3,600 cal BP以降次第に増加したと推定される.とくに,約3,600 cal BPにはLOIが80~90%を示すことから,石狩川本流沿いではほとんど夏季に洪水が生じていなかった可能性が高い.また,約1,500 cal BP以降には氾濫頻度が高い時期と低い時期とを繰り返すようになった.石狩川本流の氾濫は梅雨前線や秋雨前線に対して台風が接近する際に生じることから,パターン1のLOIの変化は台風の発生頻度を反映していると解釈される.この復元された台風の発生頻度の変化は,水月湖における大規模洪水イベントの発生頻度の傾向(Schlolaut et al., 2014)と概ね一致する.
泥炭層中に含まれる土砂の相対的な量は,氾濫による土砂の堆積速度を反映していると考えられる.細粒な土砂の堆積速度は主に湛水時間を反映する.したがって,泥炭層の強熱減量(Loss on Ignition: LOI)を用いることで,小規模な氾濫の頻度を長期間にわたって復元できる可能性がある.
本研究は約5000年前以降に泥炭層が形成され始めた石狩低地を対象として,泥炭層のLOI測定および種子分析をおこない,LOIが氾濫頻度の変化の指標として用いることができるかを検討し,北海道周辺の気候変動を明らかにすることを目的とする.
表層の深度約3~5 mで泥炭層がみられ,その下位には青灰色で塊状の粘土層がみられる場合が多い.粘土層中では植物片を含まない場合が多い.泥炭層のLOIは,その変化のパターンと位置にもとづき,3種類に大別できる.パターン1では,LOIは約3,600 cal BP以前に増減を繰り返しながら増加し,約3,600 cal BPに50%以上で比較的安定した後,ゆるやかに低下している.パターン1は主に石狩川河道付近に位置する地点において見られる.パターン2では泥炭層の堆積後にはLOIの増減傾向はあまりみられず,約20~80%の間を振幅するという特徴を示す.パターン2は主に石狩川からやや離れており,支流から近い地点においてみられる.パターン3では泥炭層の堆積開始後,LOIが比較的急速に増加し,約70%以上を安定して保っている.パターン3は主に低地の東側でみられる.パターン1のP43およびパターン2のP40のどちらにおいても,強熱減量が低い部分においてスゲ属や富栄養を好むシロネ属などが産出し,強熱減量が高い部分では貧栄養を好むヤチヤナギなどが産出する.
泥炭層のLOIの変化に影響を与える要因は,氾濫堆積速度および有機物堆積速度である.氾濫堆積速度を支配するのは洪水時の湛水時間や土砂の濃度である.有機物堆積速度は植物種の違いや気温変化にともなう生産速度の変化の影響を受ける可能性がある.しかし,種実分析の結果から,強熱減量の変化が栄養状態の変化と一致することが明らかとなった.泥炭地における栄養状態は洪水頻度を反映する.したがって,石狩川本流における氾濫堆積速度は氾濫頻度を強く反映すると推定される.つまり,石狩低地における泥炭層のLOIの変化は氾濫頻度の指標となる.
石狩川本流の近くに位置し,より詳細に年代測定をおこなったパターン1のP16,P18,P21,H1においては,氾濫頻度は約5,200~3,600 cal BPに低下し,約3,600 cal BP以降次第に増加したと推定される.とくに,約3,600 cal BPにはLOIが80~90%を示すことから,石狩川本流沿いではほとんど夏季に洪水が生じていなかった可能性が高い.また,約1,500 cal BP以降には氾濫頻度が高い時期と低い時期とを繰り返すようになった.石狩川本流の氾濫は梅雨前線や秋雨前線に対して台風が接近する際に生じることから,パターン1のLOIの変化は台風の発生頻度を反映していると解釈される.この復元された台風の発生頻度の変化は,水月湖における大規模洪水イベントの発生頻度の傾向(Schlolaut et al., 2014)と概ね一致する.