日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 105 (1F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)、座長:石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)

09:55 〜 10:15

[U06-04] 海洋表層・大気下層間の物質循環リンケージ

*植松 光夫1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:生物地球化学, 大気海洋物質循環, 海洋生物起源物質, 大気人為起源物質, 海洋生態系, IGBP/SOLAS

人間活動による放出物質の増加や地球温暖化は、海洋へ運び込まれる陸上の物質の量を変化させ、海洋生物の種類や量など生態系に影響を与える。それによって、海洋生物が取り込む炭素や窒素、同時に海洋生物から放出される微量気体の量などが変化する。海洋生物起源の気体が大気中へ放出されて、粒子(エアロゾル)になると、太陽光を反射したり雲の性質や量を変えたりすると考えられている。海洋生物を通して大気と海洋の間に存在する境界領域でのシームレスな相互作用(リンケージ)を明らかにする研究成果を紹介する。
 これらの一連の研究は大気化学、海洋気象学、海洋化学、海洋生物学、海洋物理学などの多岐にわたる分野の研究者が海洋大気境界層(海面から高度約2 kmまで)から境界面を挟んだ海洋表層(有光層約200 m以浅)を研究対象域として絞り込み、共通した研究課題に研究船での共同観測、地上大気観測および衛星観測の手法を用いて取り組んだ。
 北太平洋中高緯度海域では大気からの自然現象による鉄供給量が、海洋の生物生産変動に大きく関与していることを黄砂の現場観測により、確かめることができた。また、火山灰中の鉄の供給により海域の生物生産が高まったことや、海洋生物による微量気体の生成量の増加が認められた。海洋上での揮発性有機物の測定や有機エアロゾルの化学組成分析から、海水から放出された気体が海洋大気中で粒子化され、エアロゾルの増加を導くことが見出された。特に2008年のハワイ島・キラウエア火山の噴火は、北太平洋中央部でのエアロゾルの増加をもたらし、雲粒径の減少と雲被覆率を高め、洋上で負の放射強制力を強め、海水表面水温の低下を引き起こし、海洋生態系への間接的影響が存在する可能性を観測とモデルにより明らかにした。このように地球表面の70%を覆う海洋大気中のエアロゾル生成消滅過程の直接的な計測手法の開発により、大気海洋間の諸過程の重要な知見を得ることができた。
 一方、北太平洋亜熱帯海域では地球温暖化により、海洋の表面水の成層化が強化され、窒素固定を行うプランクトンの増加を引き起こすが、大気からの物質の供給が極めて重要であり、プランクトン消長の制限因子になることを明らかにした。それに加えて、低気圧の通過や台風の発生と移動など気象現象による湧昇が生物生産を高めているという観測事例を基に、船上での台風模擬実験を実施した。その結果、大型の珪藻類が増加し、深海への炭素輸送が促進される可能性を見出し、モデルによる定量化に成功した。これらのことは、気候変化に伴った海洋構造の変化が海洋生態系とそれに連動する海洋大気への生物起源気体の放出や炭素循環への海洋生物による寄与を示唆している。
 こういった海洋生物起源気体が、赤道海域では対流圏上層部、さらに成層圏へも輸送されている可能性があり、成層圏大気試料を船上から放球した大気球により試料採取することに成功している。