日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL37] プレート収束境界における堆積盆形成テクトニクスの新たな展望

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 103 (1F)

コンビーナ:*伊藤 康人(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻)、高野 修(石油資源開発株式会社技術研究所)、座長:伊藤 康人(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻)、高野 修(石油資源開発株式会社技術研究所)

14:45 〜 15:00

[SGL37-03] 前弧堆積盆の形成と沈み込み帯との関係

*野田 篤1 (1.(独)産業技術総合研究所)

キーワード:前弧海盆, 沈み込み帯, 土砂収支, 付加体, 堆積盆

沈み込み帯の前弧域に発達する前弧堆積盆は,地球表層の物質輸送プロセスの記録を保存している上に,海底資源,防災の観点からも重要な研究対象である.しかし,前弧堆積盆の発達様式,例えば,前弧堆積盆はどのように成長するのか,同時代の付加体の盛衰とどのような関係にあるのか,など十分に理解されていない問題が多く残されている.そこで,本研究では,前弧堆積盆と外側ウェッジ(前縁プリズムと中間プリズム)の地質学的・地形的特徴の観点から前弧堆積盆の発達・埋積過程を理解することを試みた.
前弧堆積盆は,付加体の陸側に形成される堆積盆であり,付加体の海側への成長にともなって堆積中心が海側に移動する堆積盆[1],または外縁隆起帯の隆起にともなって堆積中心が陸側へ移動(堆積盆が陸側へ傾動)する堆積盆[2]として提唱された.しかし,構造侵食が卓越する沈み込み帯には,付加体が存在しないにもかかわらず,正断層による前弧堆積盆が発達すること[3],さらに付加体の成長/衰退や構造侵食の進行には沈み込み帯における土砂収支が重要な役割を果していること[4]が分かってきた.これらのことから,前弧堆積盆の発達様式は沈み込み帯における土砂収支の影響を受けて変化することが予想される.実際,各地の前弧堆積盆の沈降曲線は,その他の構造性堆積盆(前縁堆積盆・横ずれ堆積盆・リフト堆積盆)の沈降曲線よりも多様であり,単一の傾向を示さないことが指摘されている[5].
本研究では,世界各地の沈み込み帯から37の前弧堆積盆を抽出し,音波探査記録をもとに堆積盆と外側ウェッジの地質学的・地形学的特徴を比較した.また,前弧堆積盆の幅 (Wbasin)と厚さ (Tbasin),外側ウェッジの幅 (Wwedge)と角度(外側ウェッジの斜面角α・海洋プレートの沈み込み角β),海溝に直交する方向への海洋プレート沈み込み速度 (Vorth),海溝充填堆積物の厚さ (Ttrench)などを計測し,それぞれの相関を調べた.
その結果,前弧堆積盆を5つの型(圧縮性/引張性付加体型・圧縮性/引張性横ずれ型・非付加体型)に区分した.圧縮性付加体型では,背面衝上断層 (backthrust)や分枝断層 (splay fault)をともなう外縁隆起帯の隆起により,前弧堆積盆は陸側へ傾動し,その堆積中心は陸側へ移動する.堆積盆の発達は,ウェッジの自己相似的成長または内部(底面)摩擦角の増加にともなうウェッジ斜面角αの増加に起因すると推測される.引張性付加体型では,外縁隆起帯が重力によって海側へ移動することにより,前弧堆積盆中に正断層が形成される.デコルマ付近の底面摩擦またはウェッジの内部強度が低く,ウェッジの形状を維持できていないと推測される.非付加体型では,明瞭な外縁隆起帯は存在せず,堆積盆内に正断層が発達してリフト堆積盆に似た埋積様式を示す場合と,堆積盆の海側への傾動にともない堆積中心が海側へ移動する場合とがある.前者は中間プリズム下部における底面侵食,後者は前縁侵食に起因すると考えられ,両者が共存する場合も存在する.横ずれ型は付加体型と非付加体型の中間的な性質を示し,堆積中心は海側へも陸側へでもなく,海溝と平行な方向に移動することがある.さらに,同一の堆積盆であっても,非付加体型から付加体型(または付加体型から非付加体型)への変化を示すことがある.
ウェッジの幅Wwedgeは海溝における土砂収支の目安となるTtrench/Vorthと正の相関を示し,土砂収支がウェッジの成長に重要であることを示唆する.Tbasinは,付加体型ではWbasinと正の相関を示すのに対し,非付加体型ではWbasinに無関係にほぼ一定である.また,付加体型ではWbasin/Tbasin比はWwedgeに関わらずほぼ一定,非付加体型では両者には負の相関がある.また,すべての堆積盆型において,TbasinWwedge及びTtrenchと正の相関を示した.
沈み込み帯における土砂収支の増減が付加体の成長/衰退に影響を与えることにより,前弧堆積盆の型も変化させ,場合によっては堆積盆内に不整合面を形成する可能性も考えられる.例えば,付加体型から非付加体型への変化では,造構侵食による外縁隆起帯の沈降が堆積空間を消失させ,不整合面形成の後に,正断層をともなうWbasin/Tbasin比の大きな堆積盆が形成される.一方,非付加体型から付加体型への変化では,非付加体型前弧堆積盆の一部が隆起して外縁隆起帯となり,その陸側に新しい堆積盆が形成されると考えられる.
[1] Karig, D.E., 1974, Ann Rev Earth Planet Sci 2, 51--75; [2] Seely, D.R., 1979, AAPG Memoir, 29, 245--260; [3] von Huene, R. and Lallemand, S., 1990, GSA Bull, 102, 704--720; [4] Clift, P.D. and Vannucchi, P., 2004, Rev Geophys, 42, RG2001; [5] Xie, X. and Heller, P.L., 2009, GSA Bull, 121, 55--64.