日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD21] 測地学一般

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 303 (3F)

コンビーナ:*風間 卓仁(京都大学理学研究科)、松尾 功二(国土地理院)、座長:太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、関戸 衛(情報通信研究機構鹿島宇宙技術センター)

11:45 〜 12:00

[SGD21-04] 測距基線沿いの温度場の時空間推定による海底間音測距精度向上の試み

*山本 龍典1木戸 元之2長田 幸仁1 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:海底測地学, 音響測距, 海中温度, 潮汐流, 海底間音響測距

海底間音響測距は,海底の地殻変動を検出する手段として普及しつつある.その原理は,海底の2点に設置したトランスデューサーとトランスポンダー間で音波の送受信を行い,音波の往復にかかった時間に音速を掛けることで,その相対距離をモニタリングするものである.音速は,水温・水圧・塩分の3要素の関数であり,海底では水温の影響を最も受ける.このため,海底での温度場の推定が精度向上の鍵となる.
これまでの研究では,基線両端の温度の平均値をとった一様温度場を仮定し,基線上の温度場の不均質は考慮していなかった.そのため,特に温度が急変する時間帯で、見かけ基線長の時系列変化に所々飛びが見られた.また,実際の基線両端の温度場の時間変化を見ると,一定の時間遅れをもってコヒーレントな挙動を示す場合が多く、半日潮に対応する往復運動が卓越することがわかった.そこで,基線両端の温度変化に温度場の移動モデルを適用して,温度場の時空間変化を推定し,より厳密な音速推定による測位精度向上を試みた.
時間依存する関数で定義される速度に則って温度場が移動しているとき,基線両端で計測された温度データを用いて,線形に内挿及び外挿を施すことのできる式を考えた.この式は,位置xと時刻tに依存する関数として表される.速度の関数は,温度場の変化が潮汐に起因すると仮定し,半日周期の単振動とした.ただし,振幅については場合により異なるので,慎重に検討する必要がある.この式は,温度が時間的・空間的に線形変化していると仮定して近似したものなので,2点で温度の変わり方が若干異なっていても線形近似することができる.このアルゴリズムの検証として、任意の温度場を設定し,そこから基線両端の温度データを抽出,それらを入力として式に代入すると,与えた温度場をよく再現した.また,3点の温度データがあれば,温度場が線形に変化していると仮定することにより,式を2次元空間に拡張できることもわかった.
2007年に熊野海盆で行われた海底間音響測距の試験観測データ[Osada, Y., M. Kido, and H. Fujimoto, Ocean Engineering, 2012] に上記の温度場の時空間推定を適用したところ,見かけ基線長変化の飛びを軽減させることに成功した.潮汐変化を十分に表現できる30分~1時間程度の温度の計測頻度があれば,バッテリー消耗やデータ保存容量のコストの高い音響測距の頻度は必ずしも上げる必要はないため,今後の観測形態に反映することが期待される.
今後の課題として,より多くの時間帯での温度場の移動速度ベクトルの推定方法の検討が挙げられる.現時点では,基線両端の温度変化の時間差などから推定しているが,明瞭な変化がない時間帯は推定不能である.基線沿いに高密度温度観測を行うことが最も有効である.一方で,温度場の移動は必ずしも海水の流れと同義ではないが,流速計の併設,あるいは装置自体の傾きの変化からの流速の推定なども補助的な情報となり得る.また,視点を変えて,JCOPE-T(日本全周部予測情報;提供:海洋研究開発機構)などの高精度な海洋モデルから用いて,ローカルな温度場の変化を推定するのも手段の1つであると考えられる.