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[MIS24-P06] 最上トラフで採取されたHR14-RC1408コア試料に含まれる浮遊性・底生有孔虫殻の安定同位体組成変動と堆積年代
キーワード:日本海, 浮遊性有孔虫, 底生有孔虫, 酸素同位体, 炭素同位体, ガスハイドレート
日本海は周囲を浅い海峡で囲まれていることから、第四紀後半には汎世界的な海水準変動の影響によって、劇的な海洋環境の変化を受けている。例えば最終氷期極相期(Last Glacial Maximum, LGM)には、海水準の低下によって日本海がほぼ閉塞され、表層水の低塩分化による鉛直循環の停止と底層の強還元環境化が起こったと推定されている。現在の日本海は対馬暖流(Tsushima Warm Current, TWC)の流入と、対馬暖流を起源とする日本海独自の底層水(日本海固有水; Japan Sea Proper Water, JSPW)の存在が特徴的であるが、過去の海水準変動は、対馬海峡を通る海流の強弱や日本海固有水の形成などにも影響を及ぼしてきたと考えられる。
有孔虫は、水塊の変化を反映して群集が変化し、また殻の炭酸カルシウム中に当時の海水組成の情報を記録していることから、海洋環境の復元に有効である。これまで、日本海における有孔虫殻の同位体比に関する研究は数多く行われてきたが(Oba et al, 1991; Crusius et al., 1999; Domitsu and Oda, 2006; Lee, 2007; Kido et al., 2007など)、最終氷期以降の変動に焦点を当てた研究事例が多く、10万年以上の長期にわたって底生・浮遊性有孔虫の双方を対象に研究を行った事例はあまりない。また近年の調査により、日本海東縁の上越沖や最上トラフなどに表層型ガスハイドレートが分布していることが次第に明らかになってきたが(松本ほか, 2009など)、過去の海水準変動がハイドレートの分布にどのような影響を及ぼし、ハイドレートの分解活動が海洋環境の変化にどのように影響を与えてきたのかなどについては、まだ明らかになっていない。そこで、2014年の白嶺HR14航海において最上トラフで採取された1コア(RC1408:水深約830m、掘削長48m)を用いて、浮遊性・底生有孔虫殻の安定同位体組成変動からみた堆積年代と海洋環境変動について推定を行った。
HR14-RC1408コアから、乾燥重量10-30 g程度の試料を深度30-70 cm間隔で採取し、凍結乾燥後に水洗した残さに含まれる有孔虫の拾い出しを行った。拾い出しにあたっては、幼体の影響を避けるためふるいを用いて150 μm以上の大きさの個体のみを選別した。これらの個体から殻表面および内部の不純物を除去したうえで、90℃のリン酸と反応させ、高知大学海洋コア総合研究センターの安定同位体比質量分析計IsoPrime(GV instruments社製)を用いて、単一種の浮遊性・底生有孔虫殻の同位体組成を測定した。
有孔虫の同位体組成および群集の特徴は上越沖のMD179-3312 コア(Ishihama et al., 2014)とも良く対比され、その変動から海洋同位体ステージ(MIS)1-9に相当すると推定することができた。これは14C年代およびテフラから得られた年代値や、TL層準、珪藻群集解析結果とも調和的である。MIS 1, 5e, 9の温暖期のピークに相当すると考えられる層準では、対馬暖流の流入を示唆する温暖種のGlobigerinoides ruberや Neogloboquadrina incompta(dextral)、Globigerina bulloides (thin-walled form)が産出するとともに、浮遊性有孔虫殻のδ18O値が減少し、底生有孔虫殻のδ18O値およびδ13C値がやや減少している。これらの3層準では、現在と同様の高海水準期であり、対馬海峡を通って対馬暖流が流入していたと推定できる。MIS 2およびMIS 6の氷期極相期と推定される層準では、浮遊性有孔虫殻のδ18O値がΔ= -3‰ほど減少するが、これは従来の研究と整合的な結果であり、表層水の低塩分化による影響をあらわすと解釈できる。MIS 4-5eおよびMIS 6-8周辺の層準では、G.bulloidesが貧産となる層準があるが、これらは過去のデータとも整合的であり(Kido et al., 2007; Khim et al., 2007; Ishihama et al., 2014)、何らかの表層環境の変動を表していると考えられ、今後対比のための補助データとなり得る可能性がある。今後、メタン湧出域に特徴的とされているRutherfordoides cornuta(秋元ほか, 1996)が確認された層準(大井ほか, 2015)周辺について、更に詳しく分析を進める予定である。
本研究は「経済産業省メタンハイドレート開発促進事業」の一環として実施されたものである。また同位体組成の測定は、高知大学海洋コア総合研究センター共同利用研究(採択番号14A010, 14B008)のサポートにより遂行された。
有孔虫は、水塊の変化を反映して群集が変化し、また殻の炭酸カルシウム中に当時の海水組成の情報を記録していることから、海洋環境の復元に有効である。これまで、日本海における有孔虫殻の同位体比に関する研究は数多く行われてきたが(Oba et al, 1991; Crusius et al., 1999; Domitsu and Oda, 2006; Lee, 2007; Kido et al., 2007など)、最終氷期以降の変動に焦点を当てた研究事例が多く、10万年以上の長期にわたって底生・浮遊性有孔虫の双方を対象に研究を行った事例はあまりない。また近年の調査により、日本海東縁の上越沖や最上トラフなどに表層型ガスハイドレートが分布していることが次第に明らかになってきたが(松本ほか, 2009など)、過去の海水準変動がハイドレートの分布にどのような影響を及ぼし、ハイドレートの分解活動が海洋環境の変化にどのように影響を与えてきたのかなどについては、まだ明らかになっていない。そこで、2014年の白嶺HR14航海において最上トラフで採取された1コア(RC1408:水深約830m、掘削長48m)を用いて、浮遊性・底生有孔虫殻の安定同位体組成変動からみた堆積年代と海洋環境変動について推定を行った。
HR14-RC1408コアから、乾燥重量10-30 g程度の試料を深度30-70 cm間隔で採取し、凍結乾燥後に水洗した残さに含まれる有孔虫の拾い出しを行った。拾い出しにあたっては、幼体の影響を避けるためふるいを用いて150 μm以上の大きさの個体のみを選別した。これらの個体から殻表面および内部の不純物を除去したうえで、90℃のリン酸と反応させ、高知大学海洋コア総合研究センターの安定同位体比質量分析計IsoPrime(GV instruments社製)を用いて、単一種の浮遊性・底生有孔虫殻の同位体組成を測定した。
有孔虫の同位体組成および群集の特徴は上越沖のMD179-3312 コア(Ishihama et al., 2014)とも良く対比され、その変動から海洋同位体ステージ(MIS)1-9に相当すると推定することができた。これは14C年代およびテフラから得られた年代値や、TL層準、珪藻群集解析結果とも調和的である。MIS 1, 5e, 9の温暖期のピークに相当すると考えられる層準では、対馬暖流の流入を示唆する温暖種のGlobigerinoides ruberや Neogloboquadrina incompta(dextral)、Globigerina bulloides (thin-walled form)が産出するとともに、浮遊性有孔虫殻のδ18O値が減少し、底生有孔虫殻のδ18O値およびδ13C値がやや減少している。これらの3層準では、現在と同様の高海水準期であり、対馬海峡を通って対馬暖流が流入していたと推定できる。MIS 2およびMIS 6の氷期極相期と推定される層準では、浮遊性有孔虫殻のδ18O値がΔ= -3‰ほど減少するが、これは従来の研究と整合的な結果であり、表層水の低塩分化による影響をあらわすと解釈できる。MIS 4-5eおよびMIS 6-8周辺の層準では、G.bulloidesが貧産となる層準があるが、これらは過去のデータとも整合的であり(Kido et al., 2007; Khim et al., 2007; Ishihama et al., 2014)、何らかの表層環境の変動を表していると考えられ、今後対比のための補助データとなり得る可能性がある。今後、メタン湧出域に特徴的とされているRutherfordoides cornuta(秋元ほか, 1996)が確認された層準(大井ほか, 2015)周辺について、更に詳しく分析を進める予定である。
本研究は「経済産業省メタンハイドレート開発促進事業」の一環として実施されたものである。また同位体組成の測定は、高知大学海洋コア総合研究センター共同利用研究(採択番号14A010, 14B008)のサポートにより遂行された。