11:00 〜 11:15
[PPS21-07] レゴリス層を模擬した粉粒体を伝播する衝突励起地震に関する実験的研究
キーワード:衝突, クレーター形成, 衝突励起振動, レゴリス層
はじめに
探査機はやぶさで観測された小惑星イトカワの表面地形のように、小惑星表面はボルダーなどのレゴリス層で覆われていることが明らかになった。レゴリス層で覆われた小惑星の表層地形は、天体衝突のような外的要因によって変化すると考えられている。例えば小惑星エロスに小さなクレーターが少ない理由は、天体衝突による衝撃がエロス全体を揺さぶり、クレーター孔を支えるレゴリス層の構造が崩れるからだと考えられている(Richardson et al.2005)。このように天体衝突によって発生する振動は小惑星の表層地形進化を支配しているが、衝突励起振動に着目した実験的研究は少ない。McGarr et al.1969では、月震計で得られた小天体衝突時の地震波形を解析するため、月表層を模擬した試料への衝突実験を行い、衝突励起振動を実測した。最近では我々が100m/sまでの低速度衝突実験を行い、ガラスビーズ中(バルク密度は1.51g/cm3, 安息角は22°)を伝播する衝突励起振動の減衰過程を調べた(Yasui et al. in prep)。本研究では、よりレゴリス層を模擬した石英砂を標的試料として用い、衝突速度を小惑星帯での平均衝突速度まで拡張し衝突励起振動の計測を行った。
実験方法
衝突実験は、神戸大学の縦型一段式軽ガス銃と宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃を用いて行った。弾丸に直径4.7mmのポリカーボネート球を用いて0.2-6.9km/sの速度、直径3mmのアルミナ、ステンレス、銅球を用いて0.2km/sの速度で衝突させた。標的試料には直径500μm(バルク密度は1.48g/cm3, 安息角は32°)の石英砂を用いた。標的表面に加速度計(日本アビオニクス製SV1113:電荷感度5.47pC/ms-2, 応答周波数:0.5Hz-10kHz)を、衝突点からの位置を変化させて2.5cm埋めて設置した。加速度計の信号はチャージアンプを通した後、A/D変換速度100kHzのデータロガーで記録した。なおチャンバー内は1000Paから10Paで真空引きしている。
実験結果
観測された加速度波形は単一のピークを示す単発波形で、立ち上がり時間は約0.5msであった。得られた加速度波形の解析から次の様なことがわかった。(1)ピークの最大値から最大加速度gmaxを計測し、加速度計までの距離xが大きくなると伴に最大加速度が小さくなり、衝突点からの距離が同じ時には衝突速度が大きくなると伴に最大加速度が大きくなることがわかった。さらに、クレーター半径Rで規格化した距離xと最大加速度の関係から、衝突速度によらず一つの経験式(gmax=156(x/R)-2.98)で表すことができた。最大加速度の減衰率は石英砂では-2.98であるが、ガラスビーズでは-2.4 (Yasui et al.)であり、減衰率は標的物質によって変化することがわかった。(2)加速度が最大になる時間の差を計測することで標的物質中を伝播する振動の速度を計測した。石英砂標的中の伝播速度は衝突速度によらず約56m/sとなり、AEセンサーを用いて計測したS波の速度(約50m/s)と近い値となった。一方、ガラスビーズ標的で計測された速度(106m/s)より遅いことがわかった。(3)加速度波形のピーク値の半値幅を計測することで加速度の持続時間を見積もった。衝突速度によらず約0.8msとなり、これは弾丸の貫入時間とオーダーで一致することがわかった。
これらの結果を用いて、小惑星上の天体衝突により励起された振動でレゴリス層が流動化し、地形が変化する範囲を推定した。仮定として天体重力によらずこの実験で得られた経験式が適用できるとした。衝突条件を、直径10cmの玄武岩質天体が小惑星に2km/sで衝突したとする。レゴリス層が崩壊し地形が変化する条件は、レゴリス層に与えられた加速度が表層での重力加速度より大きくなったときに生じるとする(Richardson et al.2005)。本研究で得られた経験式を用いて振動加速度が各天体の地表面での重力加速度まで減衰するまでの距離x/Rを示す。1999JU3、エロス、地球で計算すると、x/Rがそれぞれ20,11,2.5となり重力の小さな天体の方がより広範囲の地形が変化することが期待される。我々の今後の目標は、このような実験と議論を通してレゴリス層で覆われた小惑星表面地形の衝突進化を明らかにすることである。
探査機はやぶさで観測された小惑星イトカワの表面地形のように、小惑星表面はボルダーなどのレゴリス層で覆われていることが明らかになった。レゴリス層で覆われた小惑星の表層地形は、天体衝突のような外的要因によって変化すると考えられている。例えば小惑星エロスに小さなクレーターが少ない理由は、天体衝突による衝撃がエロス全体を揺さぶり、クレーター孔を支えるレゴリス層の構造が崩れるからだと考えられている(Richardson et al.2005)。このように天体衝突によって発生する振動は小惑星の表層地形進化を支配しているが、衝突励起振動に着目した実験的研究は少ない。McGarr et al.1969では、月震計で得られた小天体衝突時の地震波形を解析するため、月表層を模擬した試料への衝突実験を行い、衝突励起振動を実測した。最近では我々が100m/sまでの低速度衝突実験を行い、ガラスビーズ中(バルク密度は1.51g/cm3, 安息角は22°)を伝播する衝突励起振動の減衰過程を調べた(Yasui et al. in prep)。本研究では、よりレゴリス層を模擬した石英砂を標的試料として用い、衝突速度を小惑星帯での平均衝突速度まで拡張し衝突励起振動の計測を行った。
実験方法
衝突実験は、神戸大学の縦型一段式軽ガス銃と宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃を用いて行った。弾丸に直径4.7mmのポリカーボネート球を用いて0.2-6.9km/sの速度、直径3mmのアルミナ、ステンレス、銅球を用いて0.2km/sの速度で衝突させた。標的試料には直径500μm(バルク密度は1.48g/cm3, 安息角は32°)の石英砂を用いた。標的表面に加速度計(日本アビオニクス製SV1113:電荷感度5.47pC/ms-2, 応答周波数:0.5Hz-10kHz)を、衝突点からの位置を変化させて2.5cm埋めて設置した。加速度計の信号はチャージアンプを通した後、A/D変換速度100kHzのデータロガーで記録した。なおチャンバー内は1000Paから10Paで真空引きしている。
実験結果
観測された加速度波形は単一のピークを示す単発波形で、立ち上がり時間は約0.5msであった。得られた加速度波形の解析から次の様なことがわかった。(1)ピークの最大値から最大加速度gmaxを計測し、加速度計までの距離xが大きくなると伴に最大加速度が小さくなり、衝突点からの距離が同じ時には衝突速度が大きくなると伴に最大加速度が大きくなることがわかった。さらに、クレーター半径Rで規格化した距離xと最大加速度の関係から、衝突速度によらず一つの経験式(gmax=156(x/R)-2.98)で表すことができた。最大加速度の減衰率は石英砂では-2.98であるが、ガラスビーズでは-2.4 (Yasui et al.)であり、減衰率は標的物質によって変化することがわかった。(2)加速度が最大になる時間の差を計測することで標的物質中を伝播する振動の速度を計測した。石英砂標的中の伝播速度は衝突速度によらず約56m/sとなり、AEセンサーを用いて計測したS波の速度(約50m/s)と近い値となった。一方、ガラスビーズ標的で計測された速度(106m/s)より遅いことがわかった。(3)加速度波形のピーク値の半値幅を計測することで加速度の持続時間を見積もった。衝突速度によらず約0.8msとなり、これは弾丸の貫入時間とオーダーで一致することがわかった。
これらの結果を用いて、小惑星上の天体衝突により励起された振動でレゴリス層が流動化し、地形が変化する範囲を推定した。仮定として天体重力によらずこの実験で得られた経験式が適用できるとした。衝突条件を、直径10cmの玄武岩質天体が小惑星に2km/sで衝突したとする。レゴリス層が崩壊し地形が変化する条件は、レゴリス層に与えられた加速度が表層での重力加速度より大きくなったときに生じるとする(Richardson et al.2005)。本研究で得られた経験式を用いて振動加速度が各天体の地表面での重力加速度まで減衰するまでの距離x/Rを示す。1999JU3、エロス、地球で計算すると、x/Rがそれぞれ20,11,2.5となり重力の小さな天体の方がより広範囲の地形が変化することが期待される。我々の今後の目標は、このような実験と議論を通してレゴリス層で覆われた小惑星表面地形の衝突進化を明らかにすることである。