17:18 〜 17:21
[SIT05-P02] 国際深海科学掘削計画第351次研究航海で得られたコア試料の岩石記載と地球物理学データのまとめ
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:国際深海科学掘削計画, 伊豆―小笠原―マリアナ弧, 九州パラオ海嶺, 奄美三角海盆, 島弧の発達
はじめに:
国際深海掘削科学計画第351次研究航海(2014年6~7月に実施)では,伊豆―小笠原―マリアナ(IBM)弧の古島弧である九州パラオ海嶺の西側に位置する奄美三角海盆海域のU1438地点の掘削が行われた.回収された1611mのコアのうち,上位1461mは堆積物であり,残り150mは基盤の海洋地殻である.本講演では,回収されたコアの岩石学的記載と岩石物性測定結果のまとめを報告する.これらのデータより,IBM弧における沈み込みの開始過程と,それに続くIBM弧の発達史に関して,解像度の高い情報が得られると期待される.
U1438地点のコアの岩石学的記載:
U1438地点から回収されたコアは,半遠洋性の堆積物, タービダイトおよび火成岩の基盤岩から構成されている.岩石学的記載に基づき,回収されたコアは5つのユニットに区分された.最上位のユニットI(厚さ160.3 m)は, おそらく琉球弧や九州弧の爆発的火山活動に由来すると考えられる火山灰の層を幾重にも挟む半遠洋性堆積物から成る.ユニットII(厚さ139.4 m)とユニットIII(厚さ1046.4 m)はタービダイトから成り,IBM弧のマグマ活動史を記録している.微化石を用いた生層序や古地磁気を用いた年代モデルに基づくと,ユニットIIの堆積した地質年代は漸新世,ユニットIIIが堆積した地質年代は漸新世から始新世に至ると推定される.ユニットIIIはユニットIIよりも粗粒であり,粗粒な砕屑物のユニットが5つ認められる.ユニットIV(厚さ99.7 m)は,凝灰岩質の砂岩に挟まれた珪長質な遠洋性堆積物から成り,始新世の早期(約5000万年前)に堆積したと推定される.火成岩の基盤岩(ユニット1,長さ150m)は海底下1461mに出現する.基盤岩の放射年代は決定されていないが,微化石を用いた生層序から約5000万年かそれよりも古いと推定される.ユニット1は玄武岩の溶岩流から成っており,溶岩流の大部分は高MgO(≥8 wt.%),低TiO2(0.6-1.1 wt.%)のソレアイト質玄武岩である.溶岩流の大部分は無斑晶質であるが,いくつかの溶岩流にはクロムスピネル,カンラン石,斜長石,単斜輝石の斑晶が含まれる.石基組織は完晶質から隠微晶質,ガラス質まで多様である.
U1438地点のコア及び孔内の岩石物性:
本研究航海では,コアのP波速度,密度,空隙率,熱伝導率,磁化率といった岩石物性の測定も行われた.その目的は,コアを岩石学的に記載しユニット区分するための判断材料とするためである.また,地震学的研究によって事前に得られている海底下の地震波速度構造から岩相を解釈するするために,岩石物性データを活用するためである.堆積物層であるユニットI(最上位)からユニットIV(下位)にかけては,全体として,堆積物の圧密に伴う空隙率の減少とP波速度の増加が認められる.ユニットIII上部のP波速度や磁化率の変動は,泥岩に対する砂岩・礫岩の比と相関している.すなわち,比較的速いP波速度は高密度の火山砕屑物が入った泥岩層に対応し,比較的遅いP波速度は火山砕屑物が入っていない泥岩層に対応する.ユニットIVの自然ガンマ線量に顕著なスパイクが認められるが,これはおそらく,コア試料中のU,Th,Kの濃度が高いためである.
ピストン式採泥器(APCT-3)を用いて,海底面から海底下83.2 mまでの深度の間で孔内温度を7点測定し, 77.6 K/kmという線形の地温勾配が得られた.孔壁の熱伝導率がほぼ一定の値(0.952 W/mK)を示すことも考慮すると,地温勾配は堆積物の圧密や熱水循環といった局所的なプロセスによって乱されていないと考えられる.これらの観察事実と測定によって得られた物性値から,U1438地点における地殻熱流量は73.7 mW/m2と求まり,リソスフェアの年代が4000-6000万年程度であることが示唆される.この年代は,上述した生層序や古地磁気を用いた年代モデルに基づき推定された基盤岩の年代(約5000万年かそれよりも古い)と矛盾しない.
国際深海掘削科学計画第351次研究航海(2014年6~7月に実施)では,伊豆―小笠原―マリアナ(IBM)弧の古島弧である九州パラオ海嶺の西側に位置する奄美三角海盆海域のU1438地点の掘削が行われた.回収された1611mのコアのうち,上位1461mは堆積物であり,残り150mは基盤の海洋地殻である.本講演では,回収されたコアの岩石学的記載と岩石物性測定結果のまとめを報告する.これらのデータより,IBM弧における沈み込みの開始過程と,それに続くIBM弧の発達史に関して,解像度の高い情報が得られると期待される.
U1438地点のコアの岩石学的記載:
U1438地点から回収されたコアは,半遠洋性の堆積物, タービダイトおよび火成岩の基盤岩から構成されている.岩石学的記載に基づき,回収されたコアは5つのユニットに区分された.最上位のユニットI(厚さ160.3 m)は, おそらく琉球弧や九州弧の爆発的火山活動に由来すると考えられる火山灰の層を幾重にも挟む半遠洋性堆積物から成る.ユニットII(厚さ139.4 m)とユニットIII(厚さ1046.4 m)はタービダイトから成り,IBM弧のマグマ活動史を記録している.微化石を用いた生層序や古地磁気を用いた年代モデルに基づくと,ユニットIIの堆積した地質年代は漸新世,ユニットIIIが堆積した地質年代は漸新世から始新世に至ると推定される.ユニットIIIはユニットIIよりも粗粒であり,粗粒な砕屑物のユニットが5つ認められる.ユニットIV(厚さ99.7 m)は,凝灰岩質の砂岩に挟まれた珪長質な遠洋性堆積物から成り,始新世の早期(約5000万年前)に堆積したと推定される.火成岩の基盤岩(ユニット1,長さ150m)は海底下1461mに出現する.基盤岩の放射年代は決定されていないが,微化石を用いた生層序から約5000万年かそれよりも古いと推定される.ユニット1は玄武岩の溶岩流から成っており,溶岩流の大部分は高MgO(≥8 wt.%),低TiO2(0.6-1.1 wt.%)のソレアイト質玄武岩である.溶岩流の大部分は無斑晶質であるが,いくつかの溶岩流にはクロムスピネル,カンラン石,斜長石,単斜輝石の斑晶が含まれる.石基組織は完晶質から隠微晶質,ガラス質まで多様である.
U1438地点のコア及び孔内の岩石物性:
本研究航海では,コアのP波速度,密度,空隙率,熱伝導率,磁化率といった岩石物性の測定も行われた.その目的は,コアを岩石学的に記載しユニット区分するための判断材料とするためである.また,地震学的研究によって事前に得られている海底下の地震波速度構造から岩相を解釈するするために,岩石物性データを活用するためである.堆積物層であるユニットI(最上位)からユニットIV(下位)にかけては,全体として,堆積物の圧密に伴う空隙率の減少とP波速度の増加が認められる.ユニットIII上部のP波速度や磁化率の変動は,泥岩に対する砂岩・礫岩の比と相関している.すなわち,比較的速いP波速度は高密度の火山砕屑物が入った泥岩層に対応し,比較的遅いP波速度は火山砕屑物が入っていない泥岩層に対応する.ユニットIVの自然ガンマ線量に顕著なスパイクが認められるが,これはおそらく,コア試料中のU,Th,Kの濃度が高いためである.
ピストン式採泥器(APCT-3)を用いて,海底面から海底下83.2 mまでの深度の間で孔内温度を7点測定し, 77.6 K/kmという線形の地温勾配が得られた.孔壁の熱伝導率がほぼ一定の値(0.952 W/mK)を示すことも考慮すると,地温勾配は堆積物の圧密や熱水循環といった局所的なプロセスによって乱されていないと考えられる.これらの観察事実と測定によって得られた物性値から,U1438地点における地殻熱流量は73.7 mW/m2と求まり,リソスフェアの年代が4000-6000万年程度であることが示唆される.この年代は,上述した生層序や古地磁気を用いた年代モデルに基づき推定された基盤岩の年代(約5000万年かそれよりも古い)と矛盾しない.