日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT54] 合成開口レーダー

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 201A (2F)

コンビーナ:*山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、小林 知勝(国土交通省国土地理院)、宮城 洋介(防災科学技術研究所)、座長:山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、小林 知勝(国土交通省国土地理院)

09:15 〜 09:30

[STT54-09] Phase Linkingを利用した干渉SAR時系列解析の計測点密度向上 -非都市域の地殻変動観測の高度化に向けて-

*小林 知勝1Sami Samiei-Esfahany2Ramon F. Hanssen2 (1.国土交通省国土地理院、2.デルフト工科大学)

キーワード:Phase Linking, Distributed scatterers, 干渉SAR時系列解析, PSI解析

はじめに: PSI(Persistent Scatterer Interferometry)解析は,時間的に散乱特性の変化が小さく位相が安定しているPSと呼ばれる点のみを利用することで,高い計測精度で地表変位の時間変化を推定する手法である.しかしながら,PS 点は人工構造物等が密に分布する都市部等では多く抽出できるが,それ以外の山間部等では数が少なくなり計測点密度の劣化が生じる.非都市域で計測点密度を向上させるには,Distributed Scatterers(DS)点の利用が不可欠である.しかしDS点の位相は誤差が大きく,PSのような高精度での計測は一般的に困難である.

Phase Linking法: 近年Phase Linkingと呼ばれる新たなアルゴリズムが開発された(Monti-Gaurenieri et al., 2008).この方法は,DS点の位相の時系列データを,全干渉画像のコヒーレンスを基に最適化することにより,PS点と同等の精度で位相計測を実現するものである.この操作は位相連続化前に行われ,複素円周正規分布の下で最尤法によりラップ状態の位相が得られる.最適化された位相はPSと同等に扱うことができ,PSI解析にそのまま利用可能となる.全干渉画像の位相をつなぎ合わせる操作に相当することからPhase Linkingと呼ばれる.DS点を利用して高い計測精度の観測を実施する方法としてSBAS法があるが,本手法は,位相連続化前に位相を最適化する点,短基線長ペアの限られた情報ではなく全干渉画像の情報を利用する点で優れている.

シミュレーションデータを用いたテスト: 本手法の効果及び開発した計算コードの動作確認のため,シミュレーションデータを用いたテストを実施した.50x50ピクセルサイズの24枚のSLCデータセットを2種類作成した.それぞれ,干渉性ノイズを表現するコヒーレンス行列として,時間とともに干渉性が低下するもの及び季節変動するものを用いた.また,地殻変動に相当する時間発展する位相を組み込んだ.マルチルック処理(5x5)のみを施してもコヒーレンスの高いペア以外地殻変動に相当する位相分布は認識できないが,Phase Linking処理を施すことにより,全干渉画像で真の地殻変動と同じ位相分布を再現することができた.最適化された位相の標準偏差は,理論的に求まる標準偏差の下限(Cramér-Rao bound)に近く,最大0.1-0.2radの誤差で位相は求まった.マルチルック処理では最大1.5radの差があり,Phase LinkingによりDS点から適切に位相を最適化できていることを確認できた.

実データへの適用: 本手法を立山・弥陀ヶ原火山を撮像したALOS/PALSARデータに適用した.この領域は草原や森林が広がり多くのPS点の取得は期待できない場所である.非積雪期のデータのみを選択すると利用できる画像は12枚であった.比較のため,標準的なPSI解析も実施した.一般に,分散指標を利用したPS候補点の取得方法は,画像数が少ない場合は精度が良くないことが知られているため,ここでは単一のSLC画像からPS候補点を抽出するSCR法も用いた.一方,Phase Linking法による解析では,まず初めに,2標本KS検定を用いて統計的に同質のピクセルを抽出してマルチルック処理を行った後(Ferretti et al., 2011),Phase Linking処理を実施した.同じ条件で両手法の結果を比較するため,Sptio-temporal consistency (Hanssen et al., 2008)による位相評価指標を用いて最終的に利用する計測点を選択した.解析の結果,PSI解析では最終的に全画素720,000点中7094点の計測点が残ったが,Phase Linkingではその約10倍となる82,138点が得られた.この解析では,地獄谷と呼ばれる地熱活動の活発な領域で進行する膨張性地殻変動が検出されたが,観測点密度の増加により,変動域の広がりをよく把握することができる.Phase Linkingを利用したDS点の位相最適化処理により,山間部における地殻変動観測の向上が期待される.

謝辞:「だいち」のデータは,国土地理院とJAXAの「陸域観測技術衛星を用いた地理空間情報の整備及び高度利用に関する協定書」に基づき、国土地理院がJAXA から購入したものである.データの著作権はJAXA、METIにある.