日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*桑野 修(独立行政法人海洋研究開発機構)、大内 智博(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)

18:15 〜 19:30

[SCG59-P01] 多孔質石膏標的に対する斜め衝突破壊実験

*松榮 一真1高野 翔太1荒川 政彦1保井 みなみ1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:衝突破壊現象, 斜め衝突, 空隙率

はじめに
 小惑星の多くは,惑星形成過程において,熱進化しつつ成長する天体が,高速度衝突により破壊して形成したと考えられている。天体の衝突破壊は,小惑星を形成を始めとする太陽系天体の形成・進化過程を明らかにする上で重要な物理過程であり,この物理過程は,天体の内部構造に強く依存している.例えば、空隙率が高い物質の場合,衝撃波の減衰率は大きくなり,衝突破壊強度は大きくなる(Arakawa et al., 2002)。天体の空隙率は,衝突破壊を決める重要なパラメータであるが,一方,近年の小惑星探査によって内部に空隙が存在する多孔質小惑星が多く発見されている。多孔質小惑星への衝突現象を理解するために,Okamoto and Arakawa(2009)は,多孔質石膏球への高速度衝突実験を行った。しかし、彼らは正面衝突の実験のみであり,実際の天体衝突において支配的な斜め衝突の実験は行っていない.そこで本研究では,石膏球への高速度斜め衝突実験を行い、Okamoto and Arakawa(2009)と比較し衝突破壊現象における衝突角度依存性について調べた。なお、本研究は第7回惑星科学実験実習の実験テーマである。
実験方法
 衝突実験は、神戸大学の横型二段式軽ガス銃で行った。弾丸は直径4.75mmのポリカーボネート球、標的は直径70mmの石膏球を用いた。石膏の空隙率は61%、引張強度は1.0MPa、バルク音速は1.19km/sである。衝突速度(vi)は4.0km/s、7.0km/sの2種類で行い、衝突角度θは15-90°とした。衝突角度は正面衝突を90°と定義している。衝突の様子を高速ビデオカメラで撮影し、破片速度を計測した。フレームレートは1万-10万コマ/s、シャッタースピードは1/5万-1/50万sとした。また、実験後に標的物質を回収し破片質量を計測した。
実験結果
 衝突によって標的に与えられるエネルギー密度Q(=mpv_2/2Mt)と衝突最大破片の関係をみると、θが90°の正面衝突の結果は先行研究(Okamoto and Arakawa 2009)の結果と一致した。衝突角度依存性についてみると、正面衝突から多少斜め衝突になっても(θが小さくなる),衝突最大破片は,正面衝突の場合と大きく変わることはなかった。一方,v_が4km/sでθが15,30°、v_が7km/sでθが15°の時は、衝突破壊ではなくてクレーターが確認され,衝突最大破片は大きく変化した。回収した衝突破片の累積個数分布も,最大破片の場合と同じで,正面衝突近傍ではθが変化しても有意な差は見られなかった.一方,θ=15、30°(v_=4km/s)、θ=15°(v_=7km/s)では,破片分布は大きく異なることがわかった。
 斜め衝突の場合,衝突破壊に有効な運動エネルギーは,衝突面に垂直な法線速度成分であると考えられる.そこでエネルギー密度に対してQc(=mpv_2sin2θ/2Mt)を用いると、Okamoto and Arakawa 2009の結果と正面衝突付近の結果では,ほぼ一致する。このことから、斜め衝突による衝突破壊では、正面衝突近傍では衝突速度の法線成分が重要であることがわかった。しかしながら,θ=45°(v_=4km/s),θ=30°(v_=7km/s)では,衝突最大破片とQcの傾向が大きく変化し,Qcが小さくなっても最大破片はほとんど変化しなかった。これは斜め衝突時の衝突角度が小さくなると,法線速度成分だけでなく,接線速度成分に起因する剪断応力が衝突破壊に影響するためだと考えられる。