日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 東アジア‐北西太平洋域高解像度古気候観測網

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 202 (2F)

コンビーナ:*多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、中川 毅(立命館大学)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、山本 正伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、座長:山本 正伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

10:30 〜 10:45

[MIS28-16] 水月湖堆積物中の河川起源砕屑物フラックスを用いた降水量変動復元手法の開発

*鈴木 克明1多田 隆治1長島 佳菜2入野 智久3山田 和芳4中川 毅5小島 秀彰6SG12/06 プロジェクト7 (1.東京大学、2.JAMSTEC、3.北海道大学、4.静岡県 文化・観光部 文化学術局 ふじのくに地球環境史ミュージアム整備課、5.立命館大学、6.若狭三方縄文博物館、7.なし)

キーワード:年縞堆積物, 降水量, 東アジアモンスーン, 台風, 古気候

モンスーンに伴う降雨パターンの変化や台風経路の変動メカニズムを解明するには、これらの降水の影響を強く受ける地域において、長期的な降水量変動を復元することが必要である。しかし、降水量変動を定量的に復元することは一般的に難しい。
河川起源懸濁物フラックスと河川流出量との間には、Rating curveと呼ばれる経験式が存在し、温帯域では河川流出量は降水量を反映する事から、懸濁物フラックスから逆に降水量を定量的に復元することが可能である。従って、集水域から流入する懸濁物を効率的にトラップする湖などの堆積物を用いて懸濁物フラックスが復元出来れば、そこから過去の降水量を復元することが出来る。福井県南部の水月湖は梅雨による夏季モンスーン降水や台風による降水の支配域に位置しており、主たる淡水供給源であるはす川からの粗粒砕屑物は手前の三方湖にトラップされ、懸濁物のみが水月湖に供給され、堆積している。また、水月湖堆積物については、これまでの研究で完新世部分だけでも100を超える14C年代測定が行われ、高い解像度と精度の年代モデルが既に確立しているため、この手法を適用するのに最適な対象である。しかしこの手法を適用するためには、降水量変動と河川起源懸濁物フラックス変動について、水月湖に固有の経験式を確立する必要がある。そこで本研究では、降水量観測記録と比較する事が可能な水月湖表層堆積物を用いて、年代モデル構築及び主要元素組成分析に基づいて河川起源懸濁物フラックス変動の復元を行った。
水月湖には1664年の浦見川開削以降海水が流入し、底層が還元的な環境となっている。そのため、表層堆積物中には年縞が存在する。そこで、この年縞の計数および放射性同位体(210Pb、 137Cs)年代測定により年単位の解像度を持つ年代モデルを過去90年にわたって構築し、更にイベント層(洪水起源と推定されている)と洪水記録の対比に基づいて年代モデルのチューニングを行った。
その結果、1920年以降について、誤差+/-1年以内の、高精度な年代モデルを確立した。この年代モデルに基づいて復元された2~3年解像度の懸濁物フラックスは、この地域で一日当たりの降水量が多く降水日数の多い梅雨季(5~7月)の降水量の2.2乗と良い相関を示した。またイベント層は、日本中部を南から北へ縦断するような経路をとる台風により引き起こされた洪水によって主に堆積することが明らかになった。これらの結果から、水月湖のより深部の堆積物の分析によって、水月湖堆積物中の通常時の砕屑物フラックス変動を復元することで梅雨期の雨量変動を、イベント層の堆積時期及び頻度から、この地域への台風の上陸頻度を復元することが可能であると考えられる。