日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC12] Multidisciplinary volcano monitoring

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、マウリツィオ リペペ(フィレンツェ大学地球科学科)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、座長:青木 陽介(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)

16:15 〜 16:30

[SVC12-08] 干渉SAR時系列解析により検出された弥陀ヶ原火山・地獄谷の膨張性地殻変動

*小林 知勝1Ramon F. Hanssen2 (1.国土交通省国土地理院、2.デルフト工科大学)

キーワード:弥陀ヶ原火山, 干渉SAR時系列解析, 地殻変動

はじめに: 弥陀ヶ原火山は,富山県の立山に位置する活火山である.山頂部に近い室堂平地域の地獄谷では,以前から活発な熱・噴気活動が存在しているが,近年,地獄谷の熱活動が活発化している.地獄谷では江戸時代に噴火活動が発生しているほか,複数の水蒸気爆発の堆積物が知られており,今後,水蒸気爆発の発生に至ることが懸念されている.一般的に,水蒸気爆発は,地下の熱水システムへの熱供給を通して起こると考えられているが,これに伴い地盤の膨張が進行することが期待される.地殻変動は,地下の圧力状況を知る有効な情報であり,活動の評価指標として重要な観測量であるが,これまで室堂平周辺で行なわれたGPS 基線長解析からは,有意な地殻変動は検出されていない.従って,仮に変動があるとしても,地獄谷およびその周辺の狭い領域で小規模で進行していると推察される.地殻変動の有無や進行状況を把握するには,高い計測精度と空間分解能を持った干渉SAR時系列解析が有効と考えられる.

解析手法: 解析には,弥陀ヶ原火山を撮像したALOS/PALSARのSARデータを使用した.立山は1年間の多くを雪に閉ざされた場所であり,非積雪期である7月から10月の限られた期間のデータのみが利用可能である.その結果,解析に利用できた画像データは,2007年9月から2010年10月までの12枚であった.地殻変動解析にはPSI法を適用した.ただし,解析領域は山間部のため,PS点の密度が低いことが予想される.そこで本解析では,PS点に加えて,Phase Liking法により位相を最適化させたDS点も加えて使用した.PS点においては,分散指標を利用したPS候補点の取得方法は,画像数が少ない場合は精度が良くないため,単一のSLC画像からPS候補点を抽出するSCR法も用いた.一方,Phase Linking法による解析では,まず初めに,2標本KS検定を用いて統計的に同質のピクセルを抽出してマルチルック処理を行った後,Phase Linking処理を実施した.最終的に利用する計測点の選択には,Saptio-temporal consistency法による位相評価指標を用いた.本解析では10mmを閾値とした.結果的に,解析領域の全画素720,000点中,PS点は7094点,最適化されたDS点は82,138点が抽出された.

解析結果: 解析の結果,地熱活動の活発な地獄谷の領域で,膨張性地殻変動が検出された.地殻変動は,鍛冶屋地獄等,現在活発な噴気・熱水活動が地表で見られる領域とほぼ一致しており,その値は最大約4㎝/yrに達する.変位の時系列データは,ほぼ直線状に推移しており,非定常な変動は有意には見られない.このことから,最低でも2010年までは,ほぼ一定速度で時間的に安定した変動をしていたようである.変動域は局所的でおおよそ数百mの広がりにとどまり,その広がりから,変動をもたらす力源はごく浅部にあることが示唆される.シル状の矩形クラック1枚の開口を仮定して,Simulated Annealing法によりモデリングを行ったところ,深さ100mでの開口クラックが最適解として求められた.さらに詳しいモデルを得るために,深さ100mの位置に,100×100mサイズの矩形パッチで構成される開口シルを仮定し,開口分布をインヴァージョンにより求めところ,主な開口は鍛冶屋地獄周辺直下の局所的な広がりにとどまり,最大約10cm/yrの開口速度が見積もられた.

謝辞:本研究はJSPS科研費25350494の助成を受けたものです.