日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 301B (3F)

コンビーナ:*中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、座長:小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)

15:30 〜 15:45

[AHW27-20] 旭川氾濫原における活発かつ部分的な河川-地下水交流とその物質循環への影響

*丸山 豊1小野寺 真一1齋藤 光代2北岡 豪一3 (1.広島大学大学院総合科学研究科、2.岡山大学大学院環境生命科学研究科、3.岡山理科大学)

本研究は,河川氾濫原における河川水と地下水の交流現象に注目し,沿岸生態系にとって重要な河川の栄養塩生成に対するこれらの効果を定量的に明らかにしたものである。具体的には,瀬戸内海に流入し中国地方の代表的な河川である岡山県の旭川に注目し,その下流部に位置する氾濫原を試験地として研究を行った。調査は卒業論文から含めて3年間行い,幅約1 kmの氾濫原のうち河道から500mの範囲に分布する井戸や天然の池で水温,水質をモニターした。水質については,栄養塩類を含む一般水質と水の酸素安定同位体比の分析を行った。また,計測された変動を熱輸送モデルおよび物質輸送モデルによって解析し地下水フラックスを算出した。結果は以下の通りである。
1)河川-地下水交流場における池や井戸の水温と酸素安定同位体比は,河川の変動に比べて位相の遅れと変動幅の減衰傾向を示した。この特徴を,河川水が旧河道のような帯水層中の極めて透水性の高い部分を経由して池まで輸送されてきたと仮定し熱もしくは物質の輸送モデルで解析した結果,そこを経由した地下水フラックスはそれぞれの解析でほぼ一致し,数m/dayに達することが明らかになった。また,温度から見積もられた結果は3年間の年々変動が2.9~6.5 m/dであり,同位体から見積もられた結果は季節変動が3.3~6.7 m/dであることを示した。
2)河川-地下水交流場における地下水面図,水質分布および水温変動特性から,対象とした氾濫原は4領域の極めて透水性の高い部分(地層)に区分された。河道側から順にA~D帯と定義し,A~C帯までは各幅が100m~200m程度で,D帯の幅が山地斜面末端までの500m程度であった。各滞留時間は,流動距離を考慮して30日~90日程度であると見積もられた。
3)最後に,A~C帯における,より下流側に位置する池出口(下流部)の栄養塩濃度(溶存硝酸性窒素及び無機リン)と河川水との比較を行った結果,硝酸性窒素では減衰傾向を,無機リンでは上昇傾向が確認された。これらの濃度変化分と地下水フラックス(池の断面流量)の積から,交流場での栄養塩変化量を見積もった。その結果,幅500mの氾濫原における交流量(=河川伏流量=地下水フラックス)は河川流量の6%程度で,硝酸性窒素減衰量は河川流出量の2%,リン酸増加量は7%に及んだ。流域全体では交流場となりうる氾濫原は50程度あることから,河川-地下水交流由来の栄養塩供給が河川の栄養塩にとって重要であることが確認できた。従来の研究がより滞留時間の短い河道から数10m程度で評価していたのに対して,本論文は数100m程度の範囲で評価した点で新規性が高い。