17:45 〜 18:00
[HTT30-06] ラジコン電動マルチコプター, SfMを使用した高分解能空撮画像からの水稲モニタリング
キーワード:UAV, SfM, 植生指数, 数値表層モデル, 草丈
1. はじめに
現在,ラジコン電動マルチコプターは,小型化・低価格化に加えて姿勢制御技術も向上し,UAV(Unmanned Aerial Vehicle)としてカメラやセンサーを搭載することにより,低コストで近接リモートセンシングが実施できるようになった。
農作物の生産管理はリモートセンシングの重要な課題の一つであり,多くの研究事例が蓄積されてきた。特に日本の基幹作物である水稲においては, 収量・収穫適期予測や食味判定などが課題であり, 航空機や衛星リモートセンシングを活用した広大な圃場を対象とした観測・予測が行われている。(例えば,脇山ほか,2003;秋山ほか,2006)
本研究では, 水稲の生育モニタリングについてUAVを用いることにより, 高い時間および空間分解能の画像の取得に基づく詳細な生育状況モニタリングを試みた。また, 撮影した複数の画像の解析にSfM ( Structure from Motion ) 技術を併用することで, オルソモザイク画像・DSMを作成し, 水稲の生育モニタリングに活用した。UAVによる観測は, 衛星のような雲による制約が少なく, 風雨がなければいつでも撮影可能であり, 撮影にかかる費用は航空機などに比べると安価であるため, 取得できる情報の品質が良ければ, 日本のような湿潤地域での優位性が高まる。
2. 研究手法
千葉県農林総合研究センターの水稲試験場において, 2014年6月中旬(成長期)から9月初旬(成熟期)にかけて観測を行った。この圃場では2つの水田を48区画に細分し, それぞれの区画で播種・移植時期(全4期), 品種(コシヒカリ, ふさおとめ, ふさこがね), 施肥量を変え, 異なる条件で栽培している。
観測には, 電動マルチコプター(MEDIX社:JABO H601G, DJI社Phantom2), デジタルカメラ(可視画像:RICOH社 GR, GoPro社HERO3. 近赤外画像:BIZWORKS社 Yubaflex)を用いて空撮を行った。
オルソ空中写真および水田圃場のDSM(Digital Surface Model)の作成は, SfMソフトウェアPhotoScan (Agisoft社)を用いて作成した。DSMは水稲の生育に伴い変化するため, 撮影時期ごとのDSMから初期地表面高度(田植え前の地表面)を差し引き, 各区画内の水稲の平均草丈を求めた。
NDVIはYubaflex専用ソフトで解析し, GIS上でオルソ化した後, モザイク画像を作成した。また, ハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン社NH-7)による地上観測値をもとにNDVI値の補正を行った。その後, 水稲部だけのNDVIを得るため, NDVI>0を植生域とし, 水域・土壌を排除した。水稲の生育状況の実測データ(出穂日,草丈,LAIなど)は,千葉県農林総合研究センターの観測値を使用した。
3. 結果・考察
i) NDVI
各区画の水稲のNDVIは共通して,移植期から上昇し,出穂期周辺をピークに成熟期に向けて下降した。
移植期は4期(4/10, 4/23, 5/14, 6/3)となっており,移植した時期が早いものほど先にピークが現れ,その後下降をはじめた。品種の違いによる,生育過程の違いも認められ,出穂前の同時期のNDVIは生育の遅いコシヒカリが一番低くなった。また,同じ移植日・品種のものであっても,施肥量が多い試験区ほど高いNDVIを示した。
このようにNDVI画像から生育条件による圃場内の生育状況の違いが,詳細に観測された。
ii) DSM(水稲の高さ)
出穂前の水稲の実測草丈と,ほぼ同時期の空撮画像から作成したDSMから求めた草丈を比較した結果,誤差数cmレベルで観測できた。このように生育状況を把握する重要な指標である稲の草丈も,空撮した画像から観測できることがわかった。
誤差の原因としては,DSMの精度の問題だけでなく,DSMでは垂れた状態や風で倒れた状態の高さを求めているため厳密には「草高」を計測しているのに対して,実測値では垂れた状態などを,まっすぐに伸ばして計測していることが理由であると考えられる。
ⅲ) NDVIを用いた生育推定(草丈, LAI)
水稲の実測データとNDVIとの相関関係をもとに,NDVIを用いた出穂前における草丈・LAI推定のための回帰モデルを導いた。これらのモデルのRMSEはそれぞれ,0.047m(草丈)0.478m2/ m2(LAI)と推定精度は高く,追肥量などの調整に重要な時期の生育状態計測に適用できる可能性が示唆された。
4. おわりに
約3か月間ほぼ週一回の頻度でUAVによる水稲生育状況モニタリングを行った。データ所得の確実性に加えて,生育条件の異なる区画ごとに生育状況の差が観測結果に現れており,UAVによるモニタリング手法の有効性を示すことができた。
謝辞
本研究では,千葉県農林総合研究センター水稲温暖化対策研究室にデータ提供を頂いたほか圃場利用等様々な面でご協力頂いた。ここに記し,御礼申し上げる。
参考文献
脇山恭行, 井上君夫, 中園江, 2003. 水稲登熟期における衛星データおよびアメダスデータを用いた収量予測法, 農業気象, 59(4), 277-286.
秋山侃,石塚直樹,小川茂男,岡本勝男,斎藤元也,内田諭,2006.農業リモートセンシングハンドブック,システム農学会.
現在,ラジコン電動マルチコプターは,小型化・低価格化に加えて姿勢制御技術も向上し,UAV(Unmanned Aerial Vehicle)としてカメラやセンサーを搭載することにより,低コストで近接リモートセンシングが実施できるようになった。
農作物の生産管理はリモートセンシングの重要な課題の一つであり,多くの研究事例が蓄積されてきた。特に日本の基幹作物である水稲においては, 収量・収穫適期予測や食味判定などが課題であり, 航空機や衛星リモートセンシングを活用した広大な圃場を対象とした観測・予測が行われている。(例えば,脇山ほか,2003;秋山ほか,2006)
本研究では, 水稲の生育モニタリングについてUAVを用いることにより, 高い時間および空間分解能の画像の取得に基づく詳細な生育状況モニタリングを試みた。また, 撮影した複数の画像の解析にSfM ( Structure from Motion ) 技術を併用することで, オルソモザイク画像・DSMを作成し, 水稲の生育モニタリングに活用した。UAVによる観測は, 衛星のような雲による制約が少なく, 風雨がなければいつでも撮影可能であり, 撮影にかかる費用は航空機などに比べると安価であるため, 取得できる情報の品質が良ければ, 日本のような湿潤地域での優位性が高まる。
2. 研究手法
千葉県農林総合研究センターの水稲試験場において, 2014年6月中旬(成長期)から9月初旬(成熟期)にかけて観測を行った。この圃場では2つの水田を48区画に細分し, それぞれの区画で播種・移植時期(全4期), 品種(コシヒカリ, ふさおとめ, ふさこがね), 施肥量を変え, 異なる条件で栽培している。
観測には, 電動マルチコプター(MEDIX社:JABO H601G, DJI社Phantom2), デジタルカメラ(可視画像:RICOH社 GR, GoPro社HERO3. 近赤外画像:BIZWORKS社 Yubaflex)を用いて空撮を行った。
オルソ空中写真および水田圃場のDSM(Digital Surface Model)の作成は, SfMソフトウェアPhotoScan (Agisoft社)を用いて作成した。DSMは水稲の生育に伴い変化するため, 撮影時期ごとのDSMから初期地表面高度(田植え前の地表面)を差し引き, 各区画内の水稲の平均草丈を求めた。
NDVIはYubaflex専用ソフトで解析し, GIS上でオルソ化した後, モザイク画像を作成した。また, ハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン社NH-7)による地上観測値をもとにNDVI値の補正を行った。その後, 水稲部だけのNDVIを得るため, NDVI>0を植生域とし, 水域・土壌を排除した。水稲の生育状況の実測データ(出穂日,草丈,LAIなど)は,千葉県農林総合研究センターの観測値を使用した。
3. 結果・考察
i) NDVI
各区画の水稲のNDVIは共通して,移植期から上昇し,出穂期周辺をピークに成熟期に向けて下降した。
移植期は4期(4/10, 4/23, 5/14, 6/3)となっており,移植した時期が早いものほど先にピークが現れ,その後下降をはじめた。品種の違いによる,生育過程の違いも認められ,出穂前の同時期のNDVIは生育の遅いコシヒカリが一番低くなった。また,同じ移植日・品種のものであっても,施肥量が多い試験区ほど高いNDVIを示した。
このようにNDVI画像から生育条件による圃場内の生育状況の違いが,詳細に観測された。
ii) DSM(水稲の高さ)
出穂前の水稲の実測草丈と,ほぼ同時期の空撮画像から作成したDSMから求めた草丈を比較した結果,誤差数cmレベルで観測できた。このように生育状況を把握する重要な指標である稲の草丈も,空撮した画像から観測できることがわかった。
誤差の原因としては,DSMの精度の問題だけでなく,DSMでは垂れた状態や風で倒れた状態の高さを求めているため厳密には「草高」を計測しているのに対して,実測値では垂れた状態などを,まっすぐに伸ばして計測していることが理由であると考えられる。
ⅲ) NDVIを用いた生育推定(草丈, LAI)
水稲の実測データとNDVIとの相関関係をもとに,NDVIを用いた出穂前における草丈・LAI推定のための回帰モデルを導いた。これらのモデルのRMSEはそれぞれ,0.047m(草丈)0.478m2/ m2(LAI)と推定精度は高く,追肥量などの調整に重要な時期の生育状態計測に適用できる可能性が示唆された。
4. おわりに
約3か月間ほぼ週一回の頻度でUAVによる水稲生育状況モニタリングを行った。データ所得の確実性に加えて,生育条件の異なる区画ごとに生育状況の差が観測結果に現れており,UAVによるモニタリング手法の有効性を示すことができた。
謝辞
本研究では,千葉県農林総合研究センター水稲温暖化対策研究室にデータ提供を頂いたほか圃場利用等様々な面でご協力頂いた。ここに記し,御礼申し上げる。
参考文献
脇山恭行, 井上君夫, 中園江, 2003. 水稲登熟期における衛星データおよびアメダスデータを用いた収量予測法, 農業気象, 59(4), 277-286.
秋山侃,石塚直樹,小川茂男,岡本勝男,斎藤元也,内田諭,2006.農業リモートセンシングハンドブック,システム農学会.