17:00 〜 17:15
[SIT05-04] 高温沈み込み帯における初期島弧火成活動の進化過程
キーワード:初期島弧火成活動, 高温沈み込み帯, 無人岩, オマーンオフィオライト
東ヨーロッパから中央アジアにかけて断続的に分布するテーティスオフィオライト帯は、いずれも基底部に沈み込んだスラブ起源と考えられている変成岩を伴い、マントル―斑レイ岩―岩脈群―溶岩層からなるオフィオライトナップで構成されることが知られている。溶岩類には共通して無人岩が含まれることや、層序が伊豆小笠原マリアナ弧と類似することから、オフィオライトの起源として前弧域が提案されている(e.g. Dilek and Furnes, 2009)。しかし、中東のオマーンオフィオライトでは、100 Ma頃に高速拡大海嶺から沈み込み帯への転換によって、無人岩を含む島弧火成活動が起こった(Ishikawa et al., 2002)。放散虫化石年代から、この島弧火成活動は拡大軸火成活動後200万年以内に終息し(Agui et al., 2014)、その後1000万年以上かかってアラビア半島に衝上した。本講演では、オマーンの無人岩の産状、岩石学的・地球化学的特徴から、短命に終わったオマーンの沈み込み帯モデルを考察する。
層厚約1100 mの島弧火山噴出物(V2火山岩類)は下位の海嶺溶岩層(V1層)を覆い,斜長石,斜方輝石,単斜輝石とかんらん石を含む島弧ソレアイト質溶岩(LV2)を主体とし(Kusano et al., 2014),局所的に降下火砕物を産する.島弧火山噴出物層の上部にはかんらん石,斜方輝石と単斜輝石斑晶を含む無人岩(UV2)を伴う.無人岩は海嶺系および島弧ソレアイト溶岩に貫入する複数の岩脈群から供給され,枕状溶岩,シート溶岩や降下火砕物をなす.火山岩組成は海嶺期から島弧火成活動期を通じて次第に枯渇していくが,新鮮な火山ガラス中のLIL 元素などの沈み込み由来成分は次第に富む傾向を示す.また,これらのHf・Nd同位体組成は,無人岩マグマ生成には遠洋性堆積物メルトが関与している可能性を示唆する.島弧火山岩類を生成したソースマントルの部分溶融度を重希土類元素とHFS元素組成を用いたマスバランス計算から求めたところ,島弧ソレアイト・無人岩とも海嶺下の溶け残りマントルの再溶融で説明可能であることがわかった。これは、島弧ソレアイトと無人岩は古島弧のウェッジマントル内でほぼ同時期に生成され、付加したスラブ成分組成の違いにより異なるマグマを生じた可能性を示唆する。一方、Cr スピネル中のガラス包有物から最も初生的と考えられるメルト組成(MgO 16 wt%; H2O 2.0 wt%)を見出し,マントルかんらん岩と共存可能な温度圧力をPutirka(2008)の地質温度圧力計で推定したところ,1320 ℃,0.5 GPa であった.これは海嶺下マントルと同程度のマントルポテンシャル温度であり,上述した無人岩マグマが拡大軸下の高温の解け残りマントルのフラックス融解で生じたという検討と調和的である.また,基底変成岩が記録する沈み込んだスラブの最高変成温度圧力は>800 ℃,~1 GPa であり,島弧火山岩類の生成に関与した流体と平衡であったことから(Ishikawa et al., 2005, Searle and Cox, 2002),火山フロント直下のスラブ深度は50-70 km であったと推定される.島弧活動期を通じてマグマが枯渇していき,火成活動が短期間で終息することは,ウェッジマントルが発達せず上盤側が冷却してしまったことを示唆する.島弧火成活動終息後の90 Ma 頃活動したプレート内玄武岩(V3)マグマは,沈み込んだ低角スラブのデラミネーションが誘発したことで説明される.
層厚約1100 mの島弧火山噴出物(V2火山岩類)は下位の海嶺溶岩層(V1層)を覆い,斜長石,斜方輝石,単斜輝石とかんらん石を含む島弧ソレアイト質溶岩(LV2)を主体とし(Kusano et al., 2014),局所的に降下火砕物を産する.島弧火山噴出物層の上部にはかんらん石,斜方輝石と単斜輝石斑晶を含む無人岩(UV2)を伴う.無人岩は海嶺系および島弧ソレアイト溶岩に貫入する複数の岩脈群から供給され,枕状溶岩,シート溶岩や降下火砕物をなす.火山岩組成は海嶺期から島弧火成活動期を通じて次第に枯渇していくが,新鮮な火山ガラス中のLIL 元素などの沈み込み由来成分は次第に富む傾向を示す.また,これらのHf・Nd同位体組成は,無人岩マグマ生成には遠洋性堆積物メルトが関与している可能性を示唆する.島弧火山岩類を生成したソースマントルの部分溶融度を重希土類元素とHFS元素組成を用いたマスバランス計算から求めたところ,島弧ソレアイト・無人岩とも海嶺下の溶け残りマントルの再溶融で説明可能であることがわかった。これは、島弧ソレアイトと無人岩は古島弧のウェッジマントル内でほぼ同時期に生成され、付加したスラブ成分組成の違いにより異なるマグマを生じた可能性を示唆する。一方、Cr スピネル中のガラス包有物から最も初生的と考えられるメルト組成(MgO 16 wt%; H2O 2.0 wt%)を見出し,マントルかんらん岩と共存可能な温度圧力をPutirka(2008)の地質温度圧力計で推定したところ,1320 ℃,0.5 GPa であった.これは海嶺下マントルと同程度のマントルポテンシャル温度であり,上述した無人岩マグマが拡大軸下の高温の解け残りマントルのフラックス融解で生じたという検討と調和的である.また,基底変成岩が記録する沈み込んだスラブの最高変成温度圧力は>800 ℃,~1 GPa であり,島弧火山岩類の生成に関与した流体と平衡であったことから(Ishikawa et al., 2005, Searle and Cox, 2002),火山フロント直下のスラブ深度は50-70 km であったと推定される.島弧活動期を通じてマグマが枯渇していき,火成活動が短期間で終息することは,ウェッジマントルが発達せず上盤側が冷却してしまったことを示唆する.島弧火成活動終息後の90 Ma 頃活動したプレート内玄武岩(V3)マグマは,沈み込んだ低角スラブのデラミネーションが誘発したことで説明される.