11:00 〜 11:15
[AHW27-08] ダム下流部における砂の生産-運搬作用の特徴 ―佐久間ダムを有する天竜川を例に―
キーワード:砂礫, 円磨度, 破砕・摩耗作用, ダム, 天竜川流域
はじめに
河川に建設された発電・治水ダムは,水資源だけではなく,上流部で生産された土砂をも堰き止めることから,ダム下流域において土砂供給量が著しく減少し,下流域での河床堆積物の粗粒化や海岸侵食などの社会問題の発生に関与していると考えられている.現在行われている対策としては,例えばダム堆積物の浚渫や排砂バイパスの設置などにより,ダム下流域へと土砂を人為的に運搬する試みがあるが,こうした対策やその効果の検証は土砂,即ち砂礫の“運搬—堆積作用”にのみ注目したものが大半である.発表者らは,ダムを挟んだ上流・下流域に堆積する“礫”および礫から生産されているとされる“砂”の形状(丸み)に注目し,ダム建設に伴う河川下流域における砂の生産—運搬過程の検出を試みた.
地域概要
国内でも最大規模の土砂生産量を誇る天竜川水系には15のダムが設置され(芦田ほか,2008),天竜川の上流部で生産された砂礫(主に花崗岩類)は,日本最大級の貯水容量をもつ佐久間ダムによって完全に堰き止められている.天竜川は佐久間ダムよりも下流で中央構造線を挟み,水窪川(流域の地質は主に結晶片岩)や気田川(同じく,主に堆積岩)を流入させて河口へと注ぐ.なお,水窪川合流部と気田川合流部の間には秋葉ダム,気田川合流部のやや下流側と河口の間には船明ダムが建設されている.
手法
佐久間ダムよりも下流域において,上記2支流および船明ダムより下流側の本流1地点,合計3地点にて砂礫の記載と採取を行なった.礫洲の水際において,まず1 m×1 mの区画を設置し,10 cm間隔で無作為に121個の大~中礫(128~16 mm)について礫種・礫径を調べた.次に隣接する位置に1 m×2 mの区画を設置し,観察される礫種のうち,計測に十分な量を得られた頁岩200個について,Krumbein(1941)による印象図を用いて円磨度を測定した.また,表面礫下の細粒な砕屑物(概ね16 mm以下)をそれぞれの区画から採取し,室内分析を行なった.そのうち,細礫(4~2 mm),極粗粒砂(2~1 mm),粗粒砂(1~0.5 mm)について,首都大学東京地理学教室が所有するデジタルマイクロスコープおよび画像解析粒度分布計を用いて,岩種および円磨度のデータを取得した(1地点あたり各粒径200粒程度).
結果・考察
船明ダム上流域の頁岩粒子と比べて,下流側の頁岩粒子の方が円磨度が低い,即ち,より角張った粒子が多いという結果が得られた.極粗粒砂(2~1 mm)より粗粒な砕屑物は,船明ダムで堰き止められており,下流域でダム建設以前に堆積した礫から新たに生産されていると考えられる.ただし,ダム下流部で観察された粗粒砂(1~0.5 mm)はよく円磨された粒子と亜角状のものが混在していたことから,粗粒砂よりも細粒な砕屑物については,下流部に堆積した礫から生産された粒子に,船明ダムを通過して上流から供給された粒子も含まれている可能性が示された.
参考文献
芦田ほか.2008.『21世紀の河川学』京都大学学術出版会.265pp
Krumbein, W. C. 1941. Journal of Sedimentary Petrology 11: 64-72
河川に建設された発電・治水ダムは,水資源だけではなく,上流部で生産された土砂をも堰き止めることから,ダム下流域において土砂供給量が著しく減少し,下流域での河床堆積物の粗粒化や海岸侵食などの社会問題の発生に関与していると考えられている.現在行われている対策としては,例えばダム堆積物の浚渫や排砂バイパスの設置などにより,ダム下流域へと土砂を人為的に運搬する試みがあるが,こうした対策やその効果の検証は土砂,即ち砂礫の“運搬—堆積作用”にのみ注目したものが大半である.発表者らは,ダムを挟んだ上流・下流域に堆積する“礫”および礫から生産されているとされる“砂”の形状(丸み)に注目し,ダム建設に伴う河川下流域における砂の生産—運搬過程の検出を試みた.
地域概要
国内でも最大規模の土砂生産量を誇る天竜川水系には15のダムが設置され(芦田ほか,2008),天竜川の上流部で生産された砂礫(主に花崗岩類)は,日本最大級の貯水容量をもつ佐久間ダムによって完全に堰き止められている.天竜川は佐久間ダムよりも下流で中央構造線を挟み,水窪川(流域の地質は主に結晶片岩)や気田川(同じく,主に堆積岩)を流入させて河口へと注ぐ.なお,水窪川合流部と気田川合流部の間には秋葉ダム,気田川合流部のやや下流側と河口の間には船明ダムが建設されている.
手法
佐久間ダムよりも下流域において,上記2支流および船明ダムより下流側の本流1地点,合計3地点にて砂礫の記載と採取を行なった.礫洲の水際において,まず1 m×1 mの区画を設置し,10 cm間隔で無作為に121個の大~中礫(128~16 mm)について礫種・礫径を調べた.次に隣接する位置に1 m×2 mの区画を設置し,観察される礫種のうち,計測に十分な量を得られた頁岩200個について,Krumbein(1941)による印象図を用いて円磨度を測定した.また,表面礫下の細粒な砕屑物(概ね16 mm以下)をそれぞれの区画から採取し,室内分析を行なった.そのうち,細礫(4~2 mm),極粗粒砂(2~1 mm),粗粒砂(1~0.5 mm)について,首都大学東京地理学教室が所有するデジタルマイクロスコープおよび画像解析粒度分布計を用いて,岩種および円磨度のデータを取得した(1地点あたり各粒径200粒程度).
結果・考察
船明ダム上流域の頁岩粒子と比べて,下流側の頁岩粒子の方が円磨度が低い,即ち,より角張った粒子が多いという結果が得られた.極粗粒砂(2~1 mm)より粗粒な砕屑物は,船明ダムで堰き止められており,下流域でダム建設以前に堆積した礫から新たに生産されていると考えられる.ただし,ダム下流部で観察された粗粒砂(1~0.5 mm)はよく円磨された粒子と亜角状のものが混在していたことから,粗粒砂よりも細粒な砕屑物については,下流部に堆積した礫から生産された粒子に,船明ダムを通過して上流から供給された粒子も含まれている可能性が示された.
参考文献
芦田ほか.2008.『21世紀の河川学』京都大学学術出版会.265pp
Krumbein, W. C. 1941. Journal of Sedimentary Petrology 11: 64-72