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★ [MIS28-04] 鹿島沖深度トランセクトコアによる最終氷期以降の水塊構造復元
キーワード:水塊構造, 最終氷期, 底生有孔虫, 北西太平洋
氷期の水塊構造復元は、主に底生有孔虫の炭素安定同位体比に基づいて復元されている。太平洋、特に北太平洋高緯度域では炭酸塩の保存が悪いため大西洋と比べて困難である。Matsumoto et al. (2002, QSR) は限られた底生有孔虫の炭素安定同位体比データをまとめて、最終氷期の太平洋における水塊構造を復元した。その結果、最終氷期の太平洋は水深2000 mを境界として大きく2つの水塊に分かれていたことを示した:上部に栄養塩に乏しくベンチレーションの良い氷期北太平洋中層水、下部に栄養塩豊富でベンチレーションの悪い氷期太平洋深層水。しかし北太平洋の氷期水塊構造復元にはいくつかの問題点がある。 (1) 炭酸塩の保存が悪い上に、天皇海山などでは完新世層準の回収率が悪くコアトップキャリブレーションができない、(2) 海底面に生息する底生有孔虫種(Epifauna)の産出が少ない(特に亜寒帯域)、(3) 代表的なEpifaunaである“Cibicidoides sp.” の分類があいまい(特に亜寒帯域)。海洋の強い流れは表層、深層ともに西側に偏るため、北太平洋の水塊構造を復元するには北西太平洋から適切な海底堆積物試料を採取する必要がある。現在の代表的な海域として天皇海山列北部、シャツキー海台、下北沖、鹿島沖などが挙げられる。この中で、天皇海山列北部は完新世層準の多くが回収されていない上、堆積場が不安定で放射性炭素年代の逆転がしばしば起きている。シャツキー海台は堆積速度が遅い。下北沖は2000 m以深のコアリングポイントに乏しい点と続成の影響により有孔虫の炭素同位体比がしばしば極めて軽い値を示す点に難がある。この中で鹿島沖から採取されたコア試料は、堆積速度が20 cm/kyr以上と速く放射性炭素年代の逆転も起こっていない。また、いくつかの広域テフラの教材も報告されており、地域的な海洋レザバー効果を制約できる可能性がある。加えて、Epifaunaを含む底生有孔虫もほぼ連続的に産出することも確認されている。したがって、鹿島沖において深度トランセクトコア試料を採取することで、最終氷期以降の水塊構造の復元が期待できる。本発表では鹿島沖深度トランセクトコアを用いた水塊構造復元の意義と実現性について議論する予定である。