日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS35] この星は、なぜ地球なのか? -水の役割-

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)、巽 好幸(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、大槻 圭史(神戸大学大学院理学研究科)、中川 貴司(海洋研究開発機構数理科学・先端技術研究分野)、片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

18:15 〜 19:30

[MIS35-P02] 小天体表面の含水率: 相互衝突の効果

*中村 昭子1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:衝突, 脱水, エジェクタ, 破片, 空隙率, 小天体

太陽系小天体は,雪線以遠から地球をはじめとする地球型惑星に水を運んだと考えられる.これら太陽系小天体はその形成と進化の過程において互いに衝突を繰り返した.その結果,小天体表面にはクレーターが穿たれ,あるいは,衝突により飛散した破片が再集積した小惑星イトカワのようなラブルパイル天体が形成され,また,軌道要素の似た小惑星グループである小惑星族が形成された.
水の運搬を担った役割に着目し,太陽系初期から現在に至る小天体の進化を明らかにしようとするとき,無水・含水小天体の現在の軌道分布やサイズ分布が重要な手がかりとなる.天体の表面の水和物や水氷は,可視・赤外スペクトル観測により検知される.
本発表では,小天体表面の含水率と衝突過程の関係について考察する.小天体表面の水和物や水氷はなんらかの過程で失われたとしても内部には残っている可能性がある.表層の水和物・水氷を失わせる過程の候補として,天体表面への衝突による脱水過程が挙げられる.逆に,衝突とは別の脱水過程により表面がドライになったとしても,衝突による浸食により含水物質が表面に表れるかもしれない.一方,衝突は無水の天体に含水天体物質をもたらした可能性もある.
衝突による含水鉱物の脱水率は,試料をカプセルに封入して衝撃を加え,衝撃を加えたあとの試料を分析する回収実験や,含水鉱物から放出されたガスを分析する実験により研究されている(e.g., Sekine et al., 2015).それらによれば,脱水率は最大衝撃圧だけでなく試料の空隙率による.また,含水炭素質コンドライトへの衝撃圧縮実験では,隕石組織が細かく粉砕されることが観察され,細粒の岩片が水蒸気により含水小惑星から爆発的に放出される可能性が指摘されている(Tomeoka et al., 2003).我々は,無水と含水の試料として,かんらん岩と蛇紋岩ブロック,空隙を含むものとして,石膏と焼石膏標的を準備し,これらに小惑星帯の平均衝突速度である5 km/s 程度に加速した弾丸を衝突させる実験を行った.その結果,密な標的であるかんらん岩と蛇紋岩では,衝突破片の放出パターン(速度場)には違いは見られなかった.焼石膏標的の場合も岩石標的と同様のコーン状の破片放出パターンが見られたのに対し,石膏では水蒸気雲が半球状に拡がるパターンが見られた.脱水と粉砕と破片の放出が,衝突角度と標的空隙率や含水率によってどのように変化するかはまだわかっていない.
他方,小天体表面に他天体物質が衝突でもたらされることは,探査機Dawnにより小惑星Vesta上に炭素質コンドライト物質が見つかったことでも示されている.我々は,岩石や隕石,および多孔質セラミック弾丸を,さまざまな標的に衝突させて,弾丸の破壊の程度や標的への潜りこみ深さを調べる衝突実験を行っている.小天体表面のレゴリスを模した砂標的への衝突では,弾丸岩石物質が砂と混じりあい固化することがわかった.また,空隙を多く含む弾丸の場合は,空隙をつぶすミクロな破壊が卓越することで弾丸全体の破壊に至らずに大きな塊が生き残り,そのためより深くまで潜りこみうることを示した.衝突体に揮発性物質を含む場合についても,プラスチック弾丸の結果にもとづいて議論する.