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[SGL40-04] 湘南姥島の三崎層中のデュープレックスを含む地質構造とその意義
キーワード:相模湾, 姥島, 三崎層, デュープレックス, スラスト・アンチクライン, 付加体
神奈川県相模湾の茅ヶ崎沖約2 kmにある姥島 (うばじま) 群島は大小30余りの島嶼からなる。その北西にある平島群島は、現在茅ヶ崎魚港の堤防と一部で繋がっている。これらの岩礁は三浦半島葉山から西北西へ連なる岩礁群の一部である。江ノ島はこの岩礁群の中に位置し、大部分が葉山層群であることがわかっている。姥島や平島群島の地質および構造についてはほとんど明らかにされておらず、姥島の層序およびナンノ化石が報告されているだけである(奥村ほか,1978; 相原・野木, 1985; 鈴木・蟹江, 2012)。
筆者らは、この姥島と平島群島の地質調査を数年前からはじめ、姥島群島が付加体に特有のデュープレックスを含んだデコルマンゾーンからなり、スラスト・アンチクラインを伴う構造であることを見出した。要点は以下のようである。
1)平島は江ノ島と極めて類似した凝灰質細粒砂岩からなり葉山層群大山層に対比される。姥島は層厚290 m以上の凝灰質泥質砂岩とスコリア層・軽石層との互層よりなり、烏帽子本島および大平 (おおだいら) の中下部層から産出する放散虫化石はStichocorys delmontensisとS. peregrinaが産出しCyrtocapsella japonica を産出しないことから後期中新世(8.2~9.9 Ma)の年代を示し、三浦層群三崎層に対比される。
2)姥島群島の構造は東部と西部に二分され、東部では概ね、南北性西傾斜を有し、西北西-東南東の軸をもつ背斜構造を呈する。一方、西部は概ね、東西ないし東北東-西南西の走向を有し、北傾斜の構造を示すが、中央部および南部に東西性走向のスラストを持ち、このスラストを境に構造および層序が大きく転位する。
3)特に西部の大平に見られるスラスト南側は、北側よりメインシア部・褶曲部・シア部から構成され、デコルマンゾーンを構成する。このデコルマンゾーンには複数のデュープレックス構造やlayer-parallel faultを伴っている。スラスト北側は、西北西-南南東に軸を持つ背斜構造を呈し、スラストに対して乗り上げ、見かけ状左ずれを示し、複雑な地質構造を形成している。こうした構造はデコルマンゾーンにスラスト・アンチクラインを伴う構造であり、南海トラフ付加体前面などで知られている付加体前縁部の構造 (Kawamura et al., 2009; Michiguchi and Ogawa, 2011) といえる。
4)これらの東西性のスラスト構造やデュープレックスを切断して、北北西-南南東の正断層系が発達する。
5)こうした構造は、以下のような3 stageで形成されたと推定される。
① Stage 1:南北性圧縮応力場のもとで上から下へと底付けが行われ、duplexの変形が進む (fault-bend fold形成期)。
② Stage 2:大規模な褶曲構造とそれに伴うスラスト運動による変形が生じる (fault-propagation fold 形成期)。これにより、西部の大平背斜、東部の平磯背斜、その間の鵜島向斜などが形成される。
③ Stage 3:東西性伸張場で南北性正断層群が形成される。これは伊豆弧衝突による回転後の応力場の変化によるものと推定され、森ほか (2010) が示した相模湾における南北性正断層系に相当する。
6)褶曲した層理面から求められる褶曲軸方位は、地層を水平に戻すと、平均N36゜E (13゜S) となる。よって北東-南西のσ1が与えられるが、隣接する大磯丘陵の55度の時計回り回転 (小山ほか,1986) を考慮して回転を戻すと、南北の圧縮応力場となる。これは南部フォッサマグナ地域の 1Ma以前の応力場 (森ほか,2010, 2012) と調和的である。
今後の課題としては、古地磁気測定による回転角の測定、三浦半島及び房総半島の同様な構造との比較、葉山・三浦層群の西方延長としての本地域の構造の意義などが、残されている。
[文献] Kawamura K. et al., 2009, Geol. Soc. Am. Bull,, 121, 1629-1646;小山真人ほか, 1986, 月刊地球,8,620-625;Michiguchi, Y. & Ogawa, Y., 2011, Modern Approaches in Solid Earth Sciences, 8, 229-246;森 慎一ほか, 2010, 地学雑誌, 119,585-614;森 慎一ほか, 2012, 岩石鉱物科学, 41, 67-86;鈴木 進・蟹江康光, 2012, 神奈川県立博物館調査研究報告, 14, 65-74.
筆者らは、この姥島と平島群島の地質調査を数年前からはじめ、姥島群島が付加体に特有のデュープレックスを含んだデコルマンゾーンからなり、スラスト・アンチクラインを伴う構造であることを見出した。要点は以下のようである。
1)平島は江ノ島と極めて類似した凝灰質細粒砂岩からなり葉山層群大山層に対比される。姥島は層厚290 m以上の凝灰質泥質砂岩とスコリア層・軽石層との互層よりなり、烏帽子本島および大平 (おおだいら) の中下部層から産出する放散虫化石はStichocorys delmontensisとS. peregrinaが産出しCyrtocapsella japonica を産出しないことから後期中新世(8.2~9.9 Ma)の年代を示し、三浦層群三崎層に対比される。
2)姥島群島の構造は東部と西部に二分され、東部では概ね、南北性西傾斜を有し、西北西-東南東の軸をもつ背斜構造を呈する。一方、西部は概ね、東西ないし東北東-西南西の走向を有し、北傾斜の構造を示すが、中央部および南部に東西性走向のスラストを持ち、このスラストを境に構造および層序が大きく転位する。
3)特に西部の大平に見られるスラスト南側は、北側よりメインシア部・褶曲部・シア部から構成され、デコルマンゾーンを構成する。このデコルマンゾーンには複数のデュープレックス構造やlayer-parallel faultを伴っている。スラスト北側は、西北西-南南東に軸を持つ背斜構造を呈し、スラストに対して乗り上げ、見かけ状左ずれを示し、複雑な地質構造を形成している。こうした構造はデコルマンゾーンにスラスト・アンチクラインを伴う構造であり、南海トラフ付加体前面などで知られている付加体前縁部の構造 (Kawamura et al., 2009; Michiguchi and Ogawa, 2011) といえる。
4)これらの東西性のスラスト構造やデュープレックスを切断して、北北西-南南東の正断層系が発達する。
5)こうした構造は、以下のような3 stageで形成されたと推定される。
① Stage 1:南北性圧縮応力場のもとで上から下へと底付けが行われ、duplexの変形が進む (fault-bend fold形成期)。
② Stage 2:大規模な褶曲構造とそれに伴うスラスト運動による変形が生じる (fault-propagation fold 形成期)。これにより、西部の大平背斜、東部の平磯背斜、その間の鵜島向斜などが形成される。
③ Stage 3:東西性伸張場で南北性正断層群が形成される。これは伊豆弧衝突による回転後の応力場の変化によるものと推定され、森ほか (2010) が示した相模湾における南北性正断層系に相当する。
6)褶曲した層理面から求められる褶曲軸方位は、地層を水平に戻すと、平均N36゜E (13゜S) となる。よって北東-南西のσ1が与えられるが、隣接する大磯丘陵の55度の時計回り回転 (小山ほか,1986) を考慮して回転を戻すと、南北の圧縮応力場となる。これは南部フォッサマグナ地域の 1Ma以前の応力場 (森ほか,2010, 2012) と調和的である。
今後の課題としては、古地磁気測定による回転角の測定、三浦半島及び房総半島の同様な構造との比較、葉山・三浦層群の西方延長としての本地域の構造の意義などが、残されている。
[文献] Kawamura K. et al., 2009, Geol. Soc. Am. Bull,, 121, 1629-1646;小山真人ほか, 1986, 月刊地球,8,620-625;Michiguchi, Y. & Ogawa, Y., 2011, Modern Approaches in Solid Earth Sciences, 8, 229-246;森 慎一ほか, 2010, 地学雑誌, 119,585-614;森 慎一ほか, 2012, 岩石鉱物科学, 41, 67-86;鈴木 進・蟹江康光, 2012, 神奈川県立博物館調査研究報告, 14, 65-74.