日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 201A (2F)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、座長:川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

15:00 〜 15:15

[SCG60-11] 地震波走時トモグラフィから推定された紀伊半島下のスラブ起源流体の特徴

*澁谷 拓郎1平原 和朗2 (1.京大・防災研、2.京大・理)

キーワード:トモグラフィ, レシーバ関数, フィリピン海スラブ, 紀伊半島, スラブ起源流体, 南海トラフ巨大地震

1.はじめに
四国西部から東海中部に至る地域では,沈み込むフィリピン海プレートの深さ30~40 kmにおいて,深部低周波イベントが帯状に分布する(Obara, 2002)。近畿中部から紀伊半島にかけての地域では,前弧側にもかかわらず,温泉ガスの3He/4He比が高く(Sano and Wakita, 1985)、炭酸ガスと塩分に富んだ有馬型温泉水が湧出している(Kazahaya et al., 2011)。これらの事象は,海洋地殻とともに沈み込んだ「水」が,深さ30~40kmで脱水し,深部低周波イベントの発生に関与するとともに,地下浅部まで移動するというプロセスを示唆している。

2.レシーバ関数解析
我々は,紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートとその周辺の構造を推定するため,2004年からアレイ地震観測を行ってきた。約5 km間隔で線状に配置した地震計で記録された遠地地震のレシーバ関数解析によりS波速度不連続面のイメージングを行った。フィリピン海スラブ傾斜方向の4測線とこれらにほぼ直交する2測線について作成したレシーバ関数イメージから大陸モホ面、スラブ上面および海洋モホ面を読み取り、それらの3次元的形状を推定した。この解析で得られた新たな知見は、大陸モホ面が沈み込むフィリピン海スラブの上をせり上がるように南東方向に傾き上がっていることである。

3.地震波走時トモグラフィ
本研究のトモグラフィではFMTOMO(Rawlinson et al., 2006)を改良したプログラムを用いた。波線追跡と理論走時の計算には波面法に基づくrobustな手法(de Kool et al., 2006)が使われている。速度構造モデルに,レシーバ関数解析により推定した大陸モホ面,スラブ上面および海洋モホ面の3次元的形状を組み込んだ。さらに,定常観測点に加えて,アレイを構成する臨時観測点の読み取り値も使用した。臨時観測点の稠密な配置により,高い分解能が得られた。
Figure 1に東経135.7°に沿って潮岬から若狭湾に至る南北断面でのP波速度(Vp)とS波速度(Vs)およびそれらの比(Vp/Vs)の不均質構造を示す。沈み込むスラブの深さ30~40 kmに見られる深部低周波地震(赤丸)の発生域が5 %程度の低速度域になっていることがわかる。上で述べたように、深部低周波地震が発生するスラブ境界面の深さ30~40 kmでは、含水鉱物の脱水により「水」が放出される。この影響で低速度領域が形成されると考えられる。
さらに和歌山県北部(北緯34.0~34.5°)の下部地殻に10 %を超えるような強い低速度領域が大きく広がっている。この直上の上部地殻(深さ5~10 km)では微小地震活動が非常に活発であることが知られている。下部地殻の低速度領域から流体が上昇し、脆性領域である上部地殻において、既存断層面での間隙水圧を上げることにより、地震が発生しやすくなるというメカニズムが考えられる。
この低速度領域では、VpもVsも低速度異常を示すが、Vpの方がその程度が大きいのでVp/Vs比は1.6程度と小さい値となる。これに対し、深部低周波地震発生域周辺の低速度領域では、Vp/Vs比は1.75~1.8程度の大きな値となっている。この2つの低速度領域のVp/Vs比に見られる違いは、流体で満たされた間隙のアスペクト比の違いで説明できるかもしれない(Takei, 2002)。あるいは、和歌山県北部の下部地殻の低速度領域の小さいVp/Vs比は、シリカに飽和した流体の存在を示唆するものかもしれない(Manning, 1996)。

防災科学技術研究所,気象庁,東京大学地震研究所,名古屋大学,京都大学防災研究所の定常観測点の波形データを利用した。