日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 岩石・鉱物・資源

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 203 (2F)

コンビーナ:*三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、角替 敏昭(筑波大学生命環境系)、藤永 公一郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:角替 敏昭(筑波大学生命環境系)

15:45 〜 16:00

[SCG58-10] 珪線石のAl/Si無秩序化と高温相変化

*伊神 洋平1小木曽 哲2大井 修吾1三宅 亮1 (1.京大・理、2.京大・人環)

キーワード:珪線石, ムライト, Al/Si無秩序化, 放射光X線実験

Al2SiO5多形(藍晶石・紅柱石・珪線石)は、温度・圧力の指標となるため地球科学的に重要な鉱物である。特に珪線石は、様々な熱履歴情報を残し得る鉱物であることが示唆されてきている。例えば、珪線石は高温でAl/SiO4四面体サイトのAl/Siが無秩序化することに伴い、反位相境界(APB)に似た組織の形成や、SiO2に富むメルトを吐き出してAlに富むことなどが実験によって示されている(Holland & Carpenter, 1986)。Miyake et al. (2008) ではNapierの天然珪線石中にAPBとムライト(Al2[Al2+2xSi2-2x]O10-x)の微細な析出物が見られることを報告し、これらは高温を経験した証拠であるとしている。また、Greenwood(1972)などが、Al/Siが完全に無秩序化することで珪線石から対称性が変化した「高温型珪線石」の存在を示唆したり、最近ではFischer et al. (2014)が珪線石ともムライトとも珪線石高温相とも異なる対称性を持つ新たな天然鉱物の発見を報告している。これらの相の存在は、温度圧力条件のさらなる制限に効果を発揮しうるが、安定領域など不明点が多い。また、珪線石との見分けが非常に困難で、他の研究では見過ごされたり、珪線石もしくはムライトとして扱われている可能性が高い。このように、Al2O3-SiO2系における珪線石の高温高圧の相関係は整理されておらず、曖昧な点が多い。そこで本研究では、様々な条件での珪線石加熱実験および高分解能での放射光粉末X線回折実験とTEMによる直接観察を行い、特に珪線石の高温相に着目して詳細な相関係の検討を行った。
出発物質には南極Rundvagshetta産珪線石結晶(Al2.00Si0.99Fe0.01O5)を粉末にして用い、箱型電気炉およびピストンシリンダーにて、1atm-2GPa, 1000-1500℃で1-1751h保持・急冷した46試料を作成した。X線回折実験は、放射光施設PF・BL-4B2の高分解能多連装粉末回折計を用いて室温にて行った。TEMはJEOL JEM-2100Fを用い、各粉末粒子の観察を行った。特に、Al/Siが無秩序化することで消滅するl=奇数反射に着目して観察を行い、また同時にEDS分析も行った。
XRDの結果、多くの試料からムライトの出現が検出された。それに加えて、1GPa, 1300-1400℃で加熱した4試料では、珪線石ともムライトとも異なる第3のピークが検出された。この相は珪線石やムライトと非常に似た結晶構造であり、格子定数は両者の間の値をもつことが分かった。さらに、粉末試料中の各粒子をTEM観察した結果、珪線石ともムライトとも異なる第3の相(以後、「中間相」)の粒子の電子回折像からはl=奇数反射が消滅していることが明らかになった。l=奇数反射は、Al/Si無秩序化に伴い消滅する反射である。また組成分析の結果、「中間相」の組成はムライトほどではないが、珪線石より若干Alに富んでいた。以上より、「中間相」はAl/Siが無秩序化しているが、ムライトのようなSiO2の吐き出しはほとんど不要な構造をとり、約1GPa下の高温で安定領域を持つ可能性が高いことが分かった。ただし、1400℃程度の温度で、アルミニウム排除則を無視したAl:Si=1:1の完全無秩序化が起こっているとは考えにくいため、Greenwood(1972)などが古くから示唆してきた珪線石高温相のような構造ではなく、またムライトとも異なる方法でAl-O-Al結合の不安定を解消していることが予想される。Fischer et al. (2014) で報告された鉱物と同一相である可能性も考えられる。また、Miyake et al. (2008)で見られたNapierの珪線石中のAPBとムライト析出物を持つ珪線石は、高温でわずかにムライトを析出した「中間相」(Al/Siは無秩序配列)が冷却されて珪線石(Al/Siは秩序配列)となったものではないかと考えられる。

引用:
[1]Holland & Carpenter (1986) Nature, 320, 151-153
[2]Miyake et al. (2008) JAMS Annual Meeting Abstract
[3]Greenwood (1972) THE Geological Society of America, 132, 553-571
[4]Fischer et al. (2014) IMA General Meeting Abstract, 21, 335