17:15 〜 17:30
[PCG30-15] 日本の小天体探査の将来展望:火星衛星の魅力
キーワード:小惑星, 惑星探査, サンプルリターン, フォボス, ダイモス, 前生命環境進化
背景:今後の太陽系探査の大目標は,前生命環境進化の解明に集約される.日本では,月着陸によるその場年代学・原始地殻探査や火星の前生命環境探査などの推進とともに,はやぶさシリーズで継承されたサンプルリターン(SR)技術を活用して,生命起源物質の進化と供給の観点から,小天体探査を進めることが重要である.イトカワ(S型小惑星),1999 JU3(C型小惑星)という地球接近小惑星(NEA)に続いて,より始原的天体からのSRとなると,メインベルトもしくはトロヤ群,彗星などが探査対象として想定される.しかし,これらの天体のSRミッションは日本の打上げ能力および電気推進技術から不可能では無いが,10年程度以上という長いミッション期間を要する.そこで,より短期間のミッションでSRが可能な小天体として,火星の衛星が注目される.また,火星探査後発国の日本にとって,大気/表面観測とも組み合わせられる火星衛星探査をその先の火星本体着陸探査と結びつけて構想していくことは,独自の探査プログラムを組み立てる上で戦略的価値がある.
火星衛星の魅力:火星衛星フォボス・ダイモスは,月を除いて,太陽系でただ2つの地球型惑星の衛星である.共に低アルベドの小型天体でD型/C型小惑星に類似した表面反射スペクトルをもつが,ほぼ火星赤道面内円軌道をとるという特徴がある.成因については,前者の特徴に整合的な始原的小惑星の捕獲(捕獲説)か,後者に調和的な火星周囲の破片円盤からの集積(円盤説,月の巨大衝突説に類似)かで論争が続いている.複数の探査機フライバイ観測はあるが,可視近赤外域で鉱物吸収がほとんど見られず,表面物質は未同定である.ランデヴーや着陸などは行われていない.
もし,火星衛星が捕獲されたのだとすれば,単により始原的というだけではなく,火星の近日点よりも太陽に近づかないため,NEAに比べ太陽加熱の影響がより少ない試料を手にできると期待される.両衛星は密度が低いため,捕獲説が正しいなら,内部にH2O氷を保持している可能性が高い.一方,円盤説の起源なら,揮発性元素の欠乏や内部空隙率の高さなど,その集積過程を明らかにする物証が得られる可能性が高い.比較衛星形成論の観点から,地球―月系の起源と進化を探求する月科学/地球科学コミュニティとの連携の糸口もある.いずれにせよ,火星への生命起源物質供給という観点からきわめて興味深い天体といえる.
火星衛星SRミッション:そこでわれわれは,今後の国際情勢を勘案し,火星衛星のどちらかを選び,ランデヴーによって表層環境や内部構造(帰還試料と組み合わせ岩石/氷質量比が同定可能)を調べる観測をした後に,着陸し,表面物質を採取して地球に持ち帰るSRミッションを提案する.この探査は,(1)衛星の起源と歴史(捕獲説なら太陽系初期進化・生命前駆物質の情報,円盤説なら火星材料物質と集積・変成過程)と(2)火星環境を支配する天体衝突史・大気散逸史の制約を目的とする.
回収試料の酸素同位体比などを火星隕石や将来得られるであろう火星本体のSR物質と比較することで,衛星起源論争に決着がつけられる.また,火星起源物質の年代分析や散逸大気の打ち込みによる元素の同位体測定についても,その場探査では実現できず,回収試料の分析が必須である.衛星は常に同一面を火星に向けているため,対火星表裏の比較や軌道方向に対する前後の比較ができるサンプリングが有効である.氷起源物質のD/H比測定から火星環境進化の初期値が決められる可能性もある.同時に軌道からの火星大気の観測(日変化の理解),地表の熱慣性変動観測等もオプションとして組み合わせる.本探査は,火星衛星を通じて,初期太陽系での物質の分布・移動から,原始惑星誕生過程,ハビタブルな表層環境変動までの長期間の前生命環境進化を実証的に明らかにすることを目指す.
高次元の国際協力ミッション:フォボスは国際的に見れば探査計画が複数あり注目度は高い.ロシア・欧州共同でのPhootprint計画がExoMars後継のSR探査候補として,NASA Discoveryミッションに提案予定のPADME計画がフライバイ探査としてある.日本が今から参入することの意義に疑問があるかも知れないが,火星には衛星が2つあることが別の展望をもたらしてくれる.ダイモスはフライバイ観測も少なく未知な点が多いため,例えば欧州がフォボスSRを日本がダイモスSRを行うといった高次元の協力関係を築くことで,2衛星の比較学を通じて,衛星の成因と火星圏環境進化の両目的に対してモデル制約力を飛躍的に高めることができる.また,火星衛星は将来の有人探査においても前哨基地として注目されており,そうした計画に対しても貴重な科学情報をもたらすと期待される.
火星衛星の魅力:火星衛星フォボス・ダイモスは,月を除いて,太陽系でただ2つの地球型惑星の衛星である.共に低アルベドの小型天体でD型/C型小惑星に類似した表面反射スペクトルをもつが,ほぼ火星赤道面内円軌道をとるという特徴がある.成因については,前者の特徴に整合的な始原的小惑星の捕獲(捕獲説)か,後者に調和的な火星周囲の破片円盤からの集積(円盤説,月の巨大衝突説に類似)かで論争が続いている.複数の探査機フライバイ観測はあるが,可視近赤外域で鉱物吸収がほとんど見られず,表面物質は未同定である.ランデヴーや着陸などは行われていない.
もし,火星衛星が捕獲されたのだとすれば,単により始原的というだけではなく,火星の近日点よりも太陽に近づかないため,NEAに比べ太陽加熱の影響がより少ない試料を手にできると期待される.両衛星は密度が低いため,捕獲説が正しいなら,内部にH2O氷を保持している可能性が高い.一方,円盤説の起源なら,揮発性元素の欠乏や内部空隙率の高さなど,その集積過程を明らかにする物証が得られる可能性が高い.比較衛星形成論の観点から,地球―月系の起源と進化を探求する月科学/地球科学コミュニティとの連携の糸口もある.いずれにせよ,火星への生命起源物質供給という観点からきわめて興味深い天体といえる.
火星衛星SRミッション:そこでわれわれは,今後の国際情勢を勘案し,火星衛星のどちらかを選び,ランデヴーによって表層環境や内部構造(帰還試料と組み合わせ岩石/氷質量比が同定可能)を調べる観測をした後に,着陸し,表面物質を採取して地球に持ち帰るSRミッションを提案する.この探査は,(1)衛星の起源と歴史(捕獲説なら太陽系初期進化・生命前駆物質の情報,円盤説なら火星材料物質と集積・変成過程)と(2)火星環境を支配する天体衝突史・大気散逸史の制約を目的とする.
回収試料の酸素同位体比などを火星隕石や将来得られるであろう火星本体のSR物質と比較することで,衛星起源論争に決着がつけられる.また,火星起源物質の年代分析や散逸大気の打ち込みによる元素の同位体測定についても,その場探査では実現できず,回収試料の分析が必須である.衛星は常に同一面を火星に向けているため,対火星表裏の比較や軌道方向に対する前後の比較ができるサンプリングが有効である.氷起源物質のD/H比測定から火星環境進化の初期値が決められる可能性もある.同時に軌道からの火星大気の観測(日変化の理解),地表の熱慣性変動観測等もオプションとして組み合わせる.本探査は,火星衛星を通じて,初期太陽系での物質の分布・移動から,原始惑星誕生過程,ハビタブルな表層環境変動までの長期間の前生命環境進化を実証的に明らかにすることを目指す.
高次元の国際協力ミッション:フォボスは国際的に見れば探査計画が複数あり注目度は高い.ロシア・欧州共同でのPhootprint計画がExoMars後継のSR探査候補として,NASA Discoveryミッションに提案予定のPADME計画がフライバイ探査としてある.日本が今から参入することの意義に疑問があるかも知れないが,火星には衛星が2つあることが別の展望をもたらしてくれる.ダイモスはフライバイ観測も少なく未知な点が多いため,例えば欧州がフォボスSRを日本がダイモスSRを行うといった高次元の協力関係を築くことで,2衛星の比較学を通じて,衛星の成因と火星圏環境進化の両目的に対してモデル制約力を飛躍的に高めることができる.また,火星衛星は将来の有人探査においても前哨基地として注目されており,そうした計画に対しても貴重な科学情報をもたらすと期待される.