日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月28日(木) 16:15 〜 18:00 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:石川 直史(海上保安庁海洋情報部)、生田 領野(静岡大学理学部)

16:45 〜 17:00

[SCG64-39] GPS-A観測で得られたフィリピン海プレート最北部の海底の動き

*渡邉 俊一1石川 直史1横田 裕輔1 (1.海上保安庁海洋情報部)

キーワード:GPS-音響測距海底地殻変動観測, フィリピン海プレート, 相模トラフ, ブロック運動

フィリピン海プレートは,その北縁部の相模トラフにおいて,北アメリカプレートの下に沈み込んでいる。このプレート境界では,1923年の大正関東地震(M7.9)や1703年の元禄関東地震(M7.9-8.2)といった被害地震が繰り返し発生している。また,その西側,相模湾の西縁には伊豆マクロプレート(IM)とフィリピン海プレートとの境界があると考えられている(e.g. Sagiya, 1999)。さらに,太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込む伊豆-小笠原海溝の背弧では,リフティングの存在が示唆されている(Taylor et al., 1991)。このような複雑な地質背景を持つフィリピン海プレート及びその周辺のプレートの動きを,Nishimura (2011) は2007年から2009年までに得られた測地学データを基に,複数のブロック運動とブロック境界におけるすべり遅れによって定量的に表現した。しかしながら,フィリピン海プレートには陸地が少なく,特にプレートやブロックの境界付近において,測地学的な観測は少ない。そこで,海上保安庁では,フィリピン海プレートの最北部,相模湾から房総半島沖にかけての海域における海底の動きを直接測定することを目的として,測量船を用いたGPS-音響測距結合方式(GPS-A)による海底地殻変動観測を繰り返し実施してきた。
フィリピン海プレート上に設置した GPS-A 観測点は,房総半島野島崎の南方沖約 50 km の地点に設置した「房総沖1」観測点と,相模湾内に設置した「相模湾」観測点である。Nishimura (2011) が用いたブロックモデルによると,「房総沖1」は相模トラフ近傍のフィリピン海プレート側,伊豆前弧ブロック(IA)上に設置されており,相模トラフにおいて沈み込む IA の速度を検出するのに適している。一方の「相模湾」は, IM-IA 境界近傍の IA 上に位置している。この観測点近傍の断層では,伊豆半島東方沖地震(M6.7,1980年)といった地震が発生している。そのため「相模湾」で得られる変位は,それらの断層のカップリングによる影響を受けると考えられる。
「房総沖1」及び「相模湾」はいずれも IA 上に位置しているため,剛体的にふるまう IA に対する変位を求めた。まず,「房総沖1」における2011年東北沖地震(M9.0)以前の結果(2007.09-2010.10)からは,有意な変位が見られなかった。このことは,「房総沖1」付近の海域の動きが,Nishimura (2011) で求められた IA のブロック運動と整合的であることを示している。「房総沖1」における地震後の結果(2011.04-2013.11)についても有意な変位は見られなかったが,地震前と地震後の時系列とを比較すると,東方向に 4-5 cm の変位が検出された。これは,東北沖地震時のコサイスミック変位を捉えたものと考えられる。次に,「相模湾」における東北沖地震前の結果(2003.01-2011.03)からは,「相模湾」が南南東方向に 1-2 cm/y の速度で動いていることが示された。また,東北沖地震時には,約 10 cm の東方向の変位が検出された。地震後の観測(2011.05-2014.06)からは,変位速度の東方向の成分が大きくなっていたが,これは東北沖地震の余効変動による影響と考えられる。
ここで,Nishimura (2011) のモデルに立ち返ると,IM-IA 境界では,IM が IA に対して南方向に動いており,その境界断層はカップリングしているという結果が得られている。このモデルから推定される「相模湾」での変位は,本研究で得られた東北沖地震前の「相模湾」の変位と整合的であった。「房総沖1」の観測結果もこのモデルと整合的であり,我々が今回示した海底測地観測結果は,Nishimura (2011) のモデルが海底観測点近傍においても有効であることを示している。
本発表では,「房総沖1」及び「相模湾」だけでなく,その他近隣の海底観測点の成果についても報告し,得られた結果について議論する。