日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

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[U-05] Future Earth - 持続可能な地球へ向けた統合的研究

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 103 (1F)

コンビーナ:*氷見山 幸夫(北海道教育大学教育学部)、中島 映至(東京大学大気海洋研究所)、谷口 真人(総合地球環境学研究所)、大谷 栄治(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:佐竹 健治(東京大学地震研究所)、氷見山 幸夫(北海道教育大学教育学部)

10:05 〜 10:25

[U05-03] 気候変動リスク連鎖の構造と全体像の可視化

*横畠 徳太1仁科 一哉1高橋 潔1江守 正多1田中 克政1木口 雅司2井芹 慶彦3本田 靖4岡田 将司5眞崎 良光1山本 彬友2重光 雅仁6吉森 正和6末吉 哲雄7岩瀬 健太8花崎 直太1伊藤 昭彦1櫻井 玄5飯泉 仁之直5西森 基貴5沖 大幹2 (1.国立環境研究所、2.東京大学、3.東京工業大学、4.筑波大学、5.農業環境技術研究所、6.北海道大学、7.国立極地研究所、8.野村総合研究所)

キーワード:気候変動, リスク管理, 複数部門, 影響評価

気候変動が人間や生態系に及ぼす影響の性質は様々である。人間や生態系にとって好ましくない悪影響(被害)をもたらす一方で、時期や場所によっては、好影響(利益)をもたらすこともある。人間社会が気候変動に対応していくためには、気候変動によって生じるリスク(もたらされる被害や利益)を網羅的に明らかにすることが重要である。気候変動によって生じるリスクは様々な部門にわたり、その時空間スケールも様々である。そして、あるリスクが、別のリスクを引き起こすといった形で、様々なリスクが密接に関係している。このリスクの「連鎖」は、ある部門に閉じることなく、部門を超えて、複数のリスクが関係している。

これまでの研究では、ある特定の国において生じる気候変動リスクについては、様々な形でまとめられてきた(例えば 英国気候変動リスク評価 2012など)。また、気候変動によって生じると考えられるリスクについての最新の知見は、IPCC第二作業部会第5次評価報告書(IPCC WG2 AR5)にまとめられているが、基本的には部門ごとにまとめられており、様々な部門にわたるリスクの全体像や、異なる部門のリスクの間の関係性が、必ずしも簡潔にまとまっているとは言えない。
そこで私たちは、気候変動が引き起こすリスクを、リスク間の因果関係までを含め、網羅的に明らかにすることを目的とした研究を行った。研究プロジェクトICA-RUS (Integrated Climate Risk Assessment ? Risks, Uncertainty, Society [1]) に参画する様々な分野の専門家が文献調査を行うことにより、気候変動リスクの網羅的な一覧表と、リスク間の因果関係を記述したデータベースを作成した。これを可視的に表現することにより、気候変動対策に役立てることが大きな目標である。

まず、気候変化によって人間社会や生態系において生じる被害や利益を、考えられる限り全ての部門において記述した一覧表を作成した。この一覧表は、気候・水資源・エネルギー・食料・健康・安全・産業・社会・生態系の部門の専門家が、IPCC第5次評価報告書などの文献調査をもとに、将来起こりえる変化を網羅的に記述したものである(「リスク項目」)。さらに、同様の文献調査に基づき、リスク項目の間の因果関係を網羅的に記述したリストを作成した(「リスク因果関係」)。そして、「リスク因果関係」で作成した様々な部門の間のリスクの連鎖を、複雑ネットワークを図化するネットワークグラフ理論(Fruchtman & Reingold アルゴリズム)を用いて、「ネットワークダイアグラム」として可視化した。

得られたネットワークダイアグラムを調べたところ、気候変動リスクの連鎖には特徴的な構造があり、気候システムの変化が自然システム(水資源や穀物など)社会システム(需要・供給・価格など)・人間システム(健康・生命・財産など)・生態系(動物・植物など)の間で、相互作用を及ぼしていることが分かった(下図)。発表では、気候変動リスクの全体像と、気候リスクに関する包括的な情報の有用性について議論を行う。

[1] http://www.nies.go.jp/ica-rus/index.html