18:15 〜 19:30
[SMP42-P06] コンドライト隕石へのラマン分光炭質物温度計の適用
キーワード:コンドライト隕石, 炭質物, ラマン分光分析, 熱史
はじめに
炭質物の構造は、過去に受けた最高変成温度を反映するとされており、隕石の熱史解明の手掛かりとしての利用が注目されている。炭質物は地球上の堆積岩や変成岩及び始原的な隕石中に普遍的に存在するため、炭質物を温度計として利用する数多くの研究が報告されている。炭質物の構造は様々な分析法で調べられているが、当研究では非破壊的にその場計測が出来るラマン分光法に着目した。炭質物のラマンスペクトルは1580 cm-1 (G-band)と1355 cm-1 (D1-band)付近に特徴的なピークを持ち、それぞれのピークの面積比や強度比、及び半値幅などは、母岩の受けた最高変成温度 (PMT: peak metamorphic temperature) と相関があることが知られている。地球上の岩石中に含まれる炭質物については、最大5本のピークを用いた詳細な解析が行われており、150~650℃の広い範囲で温度履歴の解析が可能となっている (Kouketsu et al., 2014)。一方で、隕石に含まれる炭質物については、2本のピークによる解析しかなされていない。当研究では、地球上の岩石に含まれる炭質物に適用されている解析手法を参考にして、隕石中の炭質物ラマンスペクトルの詳細な解析を行い、隕石に適用できるラマン分光炭質物温度計の改良を試みた。
Samples and Methods
当研究では炭素質コンドライト隕石、普通コンドライト隕石、 Rコンドライト隕石の20試料に含まれる炭質物についてラマンスペクトルの測定をおこなった。隕石試料のうち、14試料は岩片を、5試料は薄片を、また1試料については化学処理によって抽出された不溶性有機物を分析した。試料表面でのレーザー強度は1~2.5 mWに設定し、10~30秒積算した。一部の試料を除き最低30点以上測定した。得られたスペクトルはベースラインを線形として差し引いた後に4本の偽フォークト関数を用いて回帰分析を行った。ピーク分離によって得られた各ピークパラメーター (面積、強度、中心波数、半値幅) の平均をその試料のデータとした。
結果と考察
各試料について4本のピーク(GL,D1,D3,D4-band)による回帰分析を行った結果、炭質物中の結晶構造の乱れを反映しているとされるD1-bandの半値幅(½D1)とPMTの間に相関が見られた。Huss et al. (2006) などによって変成温度の推察がなされている約120℃から550℃の7つの試料を用いて検量線を作成したところ、両者の間で線形の相関式が得られた。
一方、温度未知の13試料の隕石について上記の温度計を適用してみると、½D1値はある程度の高温に達すると飽和し、それ以上変化しない事が示された。この現象はKouketsu et al. (2014)でも確認されている。今回はAllendeのD1-bandの半値幅(½D1 = 65 cm-1 ; PMT = 550 ℃)を検出下限と見なし、温度計の上限とした。
結論
隕石中の炭質物のラマンスペクトルを4本のピークで分離した結果、D1-bandの半値幅と最高変成温度との間に線形の相関が得られた。両者の関係式を導出し、隕石に適用可能な新しいラマン分光炭質物温度計を作成した。適用可能な温度範囲は約200 ~550℃である。
ピーク解析の最適条件についてはさらなる検討の余地があるが、今後さらに分析試料を増やすことで、200℃以下の低変成領域に拡張できる可能性もある。
炭質物の構造は、過去に受けた最高変成温度を反映するとされており、隕石の熱史解明の手掛かりとしての利用が注目されている。炭質物は地球上の堆積岩や変成岩及び始原的な隕石中に普遍的に存在するため、炭質物を温度計として利用する数多くの研究が報告されている。炭質物の構造は様々な分析法で調べられているが、当研究では非破壊的にその場計測が出来るラマン分光法に着目した。炭質物のラマンスペクトルは1580 cm-1 (G-band)と1355 cm-1 (D1-band)付近に特徴的なピークを持ち、それぞれのピークの面積比や強度比、及び半値幅などは、母岩の受けた最高変成温度 (PMT: peak metamorphic temperature) と相関があることが知られている。地球上の岩石中に含まれる炭質物については、最大5本のピークを用いた詳細な解析が行われており、150~650℃の広い範囲で温度履歴の解析が可能となっている (Kouketsu et al., 2014)。一方で、隕石に含まれる炭質物については、2本のピークによる解析しかなされていない。当研究では、地球上の岩石に含まれる炭質物に適用されている解析手法を参考にして、隕石中の炭質物ラマンスペクトルの詳細な解析を行い、隕石に適用できるラマン分光炭質物温度計の改良を試みた。
Samples and Methods
当研究では炭素質コンドライト隕石、普通コンドライト隕石、 Rコンドライト隕石の20試料に含まれる炭質物についてラマンスペクトルの測定をおこなった。隕石試料のうち、14試料は岩片を、5試料は薄片を、また1試料については化学処理によって抽出された不溶性有機物を分析した。試料表面でのレーザー強度は1~2.5 mWに設定し、10~30秒積算した。一部の試料を除き最低30点以上測定した。得られたスペクトルはベースラインを線形として差し引いた後に4本の偽フォークト関数を用いて回帰分析を行った。ピーク分離によって得られた各ピークパラメーター (面積、強度、中心波数、半値幅) の平均をその試料のデータとした。
結果と考察
各試料について4本のピーク(GL,D1,D3,D4-band)による回帰分析を行った結果、炭質物中の結晶構造の乱れを反映しているとされるD1-bandの半値幅(½D1)とPMTの間に相関が見られた。Huss et al. (2006) などによって変成温度の推察がなされている約120℃から550℃の7つの試料を用いて検量線を作成したところ、両者の間で線形の相関式が得られた。
一方、温度未知の13試料の隕石について上記の温度計を適用してみると、½D1値はある程度の高温に達すると飽和し、それ以上変化しない事が示された。この現象はKouketsu et al. (2014)でも確認されている。今回はAllendeのD1-bandの半値幅(½D1 = 65 cm-1 ; PMT = 550 ℃)を検出下限と見なし、温度計の上限とした。
結論
隕石中の炭質物のラマンスペクトルを4本のピークで分離した結果、D1-bandの半値幅と最高変成温度との間に線形の相関が得られた。両者の関係式を導出し、隕石に適用可能な新しいラマン分光炭質物温度計を作成した。適用可能な温度範囲は約200 ~550℃である。
ピーク解析の最適条件についてはさらなる検討の余地があるが、今後さらに分析試料を増やすことで、200℃以下の低変成領域に拡張できる可能性もある。