日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 106 (1F)

コンビーナ:*桑野 修(独立行政法人海洋研究開発機構)、大内 智博(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、座長:石橋 秀巳(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、桑野 修(独立行政法人海洋研究開発機構)

09:00 〜 09:15

[SCG59-06] Roweの法則を基にした摩擦の不安定性に関する統一的理解

*平田 萌々子1武藤 潤1長濱 裕幸1 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻)

キーワード:摩擦の不安定性, 模擬断層ガウジ, 摩擦実験, ガス圧試験機, Roweのエネルギー比最小の法則

1. はじめに
摩擦の不安定性に関して,すべり速度・状態依存摩擦則(摩擦の速度応答性)や断層ガウジ層内に発達する剪断組織に着目した研究が多く行われてきた (e.g., Dieterich, 1979; Byerlee et al., 1978).また,Ikari et al. (2011)では摩擦の速度応答性が剪断組織の発達に伴い遷移するといったことが示唆された.ただし摩擦の速度応答性と剪断組織発達の関係の理論背景は明らかにされていない.その理論背景を理解するためには,従来定性的に議論されてきた剪断組織発達を含む断層ガウジの変形過程を定量的に評価する必要がある.そこで,本研究では粒状体の変形過程をエネルギーの観点から定量的に記述したRoweのエネルギー比最小の法則(Rowe, 1962)に着目する.さらに,ガス圧試験機を用いた模擬断層ガウジの摩擦実験を行い,理論の適応性を検討する.以上から,摩擦の不安定性また粒状体の変形過程を解析力学および熱力学の観点から定量的に議論することを目的とする.
2. 理論背景
ブロックスライダーなどの系の安定性は減衰の非線形効果によって支配される (e.g., Thompson, 1982).すなわち安定すべりは系が減衰を受けた結果である.一方,負の減衰すなわち自励振動が発生するとき,不安定すべりがもたらされる.こうした振る舞いは減衰係数によって決定され,減衰係数が正のとき系は安定的に振る舞う.さらに,系の運動方程式より,変位は減衰係数によってコントロールされることは明らかである.減衰係数は,系に作用する摩擦力に由来する.つまり,減衰係数の正負は摩擦力の向きを意味している.ここで,摩擦の速度応答性は,摩擦係数に由来するものであることから,接線方向の力(摩擦力)と垂直方向の力の比で表現されると考えた.従って,摩擦の速度応答性が減衰係数と密接に関連することは明白である.さらに,新関・佐武(1981)およびLandau and Lifshitz (1976)より,系に蓄積されるエネルギーとエネルギー比(系に供給されるエネルギーと外部に対して消費されるエネルギーの比)との関係性が得られた.これらの結果より,エネルギー比と系の安定性との関連付けを行うことが可能となり,エネルギー比が取りうる値が明らかとなった.エネルギー比が1より大きな値となるとき,系は安定的な挙動を示し,エネルギー比が0以上1未満であるとき系は不安定的な挙動を示す.
3. 摩擦実験
本研究では,ガス圧試験機を用いた模擬断層ガウジ(石英)の摩擦実験を12回実施した.封圧は140-180 MPaである.試料には直径20 mm,長さ40 mmの円柱状斑れい岩を長軸から50度の方向でプレカットし,石英ガウジを0.1もしくは0.2 g封入したものである.歪速度は一定(10-3/s)である.最大及び最小圧縮軸方向のガウジのエネルギー(応力×歪速度)を測定するためにガウジ直上に歪ゲージを3枚設置した.所定の封圧に到達した後,載荷と載荷停止を繰り返し行った.載荷停止は差応力が190, 450, 640, 800 MPaに達した時点で実施した.4回載荷・載荷停止を反復させた後は歪ゲージが切れる,もしくは不安定すべりが発生するまで載荷した.歪ゲージが切れた場合には新たに歪ゲージを設置し直し,再度同様の操作を行った.
4. 実験結果及び議論
摩擦実験の結果,試料が外部に対して成すエネルギーは外部から供給されるエネルギーと線形関係にあることが分かった.すなわちガウジのエネルギー比は一定値をとる.これはRoweの法則と整合する.つまり,模擬断層ガウジはRoweの法則に従って変形が進行することが明らかとなった.ただし,より詳細にみると各応力状態に応じてエネルギー比の変化が認められた.これは各応力状態における粒子配列を反映するものと考えられる.なぜならば,エネルギー比は内部摩擦角の関数としても表現されるからである.熱力学の観点よりエネルギー比の変化は減衰係数の変化を意味している.さらに上述の通り,摩擦の速度応答性は減衰係数の変化と密接に関連する.すなわち,歪の局所化による組織発達がエネルギー比の変化をもたらし,最終的に摩擦の不安定性が変化することが明らかとなった.
5. 結論
理論的・実験的に摩擦の不安定性を検討した.その結果,これまで関係性が示唆されたもののその理論背景が明らかにされていなかった摩擦の速度応答性と剪断組織発達との関係性について, Roweの法則を基にして減衰係数を仲介することでその物理的またエネルギー論的背景を明らかにすることができた.