日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)

18:15 〜 19:30

[SVC46-P02] 鶴見岳山頂熔岩のマグマだまり条件と噴火過程;角閃石斑晶からの制約

長崎 志保1、*石橋 秀巳2竹村 恵二3 (1.静岡大学理学部地球科学科、2.静岡大学大学院理学研究科、3.京都大学大学院理学研究科地球熱学研究施設)

キーワード:角閃石, 鶴見岳, 地質温度計圧力計, マグマだまり

九州北東部の火山フロント上に位置する鶴見火山は,鶴見岳をはじめとする火山群である.鶴見火山地下には,地震空白域が存在していることがOhkura et al. (2002)により報告されており,Furukawa (2009)はこの震源空白域の空間分布から,地下9-11㎞付近に直径1-2㎞程度のマグマだまりがあると推定している.しかしながら,物質科学的観点からは,鶴見岳地下マグマだまりの物理化学状態は制約されていない.本研究で注目した鶴見岳山頂熔岩は,およそ10,500年から7,300年前の間に噴出した,鶴見火山では最も新しい溶岩である(藤沢ほか,2002).この溶岩は安山岩質であり,粗粒な角閃石斑晶を多く含む.近年,珪長質マグマ中で晶出した角閃石の化学組成のみから,その形成温度圧力条件を見積もる方法が提案されている(Ridorfi et al., 2010).そこで本研究では,鶴見岳山頂熔岩に含まれる角閃石斑晶について組織解析と化学分析を行い,その形成したマグマだまりの物理化学的条件を制約するとともに,この溶岩の噴火プロセスについて検討した.
鶴見岳山頂熔岩は,斜長石,角閃石,斜方輝石,単斜輝石,石英,マグネタイト,黒雲母の斑晶をおよそ30vol.%含み,そのうち7 vol.%を角閃石が占める.今回,角閃石斑晶566個について組織観察を行ったが,このうち503個は細粒鉱物集合体へと完全に分解していた.完全には角閃石斑晶62個については,BSE像の画像解析によってその分解度 [=分解部分の面積/角閃石斑晶の面積] を定量したところ,18~98%の範囲をばらついた.
分解していない角閃石部分の化学組成を,東京大学地震研究所のEPMA(JEOL-8800R)によって定量分析した.粒子ごとに数点の分析を行ったが,ほとんどの角閃石斑晶はそれぞれ均質な化学組成を示した.これらの角閃石は,AlT [=酸素23個に対するAlの数]はおよそ1.2と2.1の値を示す2つのグループに分かれた.AlTとSi含有量の間には負の相関がみられ,またSiに富む角閃石ほど分解度が高い傾向が見られた.いずれの角閃石も,Al# [=[6]Al/ AlT]は0.21以下の値を示し,Ridorfi et al.(2010)の角閃石温度圧力計の適用条件を満たした.そこでRidorfi et al.(2010)の温度圧力計を適用したところ,角閃石斑晶は約100~200MPaの圧力範囲を示す低圧グループと,約350~450MPaの圧力範囲を示す高圧グループに分かれた.見積もられた温度範囲は,低圧グループで約820~920℃,高圧グループで約970~1000℃であった.これらの温度圧力条件は,安山岩マグマ内で角閃石が安定な条件と矛盾しない.また,低温の角閃石ほど分解度が高い傾向が見られた.
鶴見岳山頂熔岩中の角閃石斑晶に2つの異なる圧力領域を示すものが含まれていたことは,鶴見火山地下に少なくとも2つのマグマだまりが存在することを示唆する.浅部および深部マグマだまりの深さはそれぞれ約2.5~5kmと約8.5~11kmである.このうち,深部マグマだまりの深さはFurukawa(2009)によって推定された条件と概ね一致する.およそ1万年程度前の噴出物からの制約と現在での観測結果の一致は,このマグマだまりが1万年以上維持されていることを示しているのかもしれない.一方,先行研究では想定されていない浅部マグマだまりについてだが,その深さ範囲はOhkura et al.(2002)によって報告された地震空白域のそれと調和的である.このマグマだまりが現在も維持されているかどうかについては不明であるが,鶴見岳直下の地震空白域の形成に直接的に貢献したのかもしれない.
2つの異なる圧力条件を示す角閃石斑晶の共存に加え,低温の角閃石ほど分解度が大きい事実は,この溶岩がマグマ混合によって形成された(太田ほか1990,1991)ことを考えると理解しやすい.深部マグマだまり由来の高温マグマと浅部マグマだまり由来の低温マグマが混合すると,低圧低温の角閃石ほど熱され分解しやすい一方で,高圧高温の角閃石は冷却されるので分解しにくい. その後,噴火過程での脱ガスにより,高圧高温の角閃石も一部分解する.このために,角閃石の分解度と温度の間に相関が見えたと考えられる.また,低圧の角閃石に分解度の小さいものが見られないことから,マグマ混合後に角閃石の結晶作用はおこっていないと考えられ,このことはマグマ混合後にあまり時間を隔てずに噴火がおこったことを示唆している.