日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] ジオパーク

2015年5月25日(月) 14:15 〜 16:00 101B (1F)

コンビーナ:*尾方 隆幸(琉球大学教育学部)、渡辺 真人(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、有馬 貴之(帝京大学 経済学部 観光経営学科)、平松 良浩(金沢大学理工研究域自然システム学系)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会)、藁谷 哲也(日本大学大学院理工学研究科)、植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、座長:尾方 隆幸(琉球大学教育学部)、平松 良浩(金沢大学理工研究域自然システム学系)

15:30 〜 15:45

[MIS23-06] 東松島市野蒜地区に見る東日本大震災の科学と防災を学ぶためのジオ資源

*谷口 宏充1南三陸海岸 ジオパーク準備委員会1 (1.東北大学)

キーワード:東松島市, 野蒜地区, 東日本大震災, 津波, 防災教育, ジオパーク

東日本大震災から約4年が経過した。しかし現在でも身近にいる被災者は多くの面で困難な状況にあり、とりわけ財政を含めた将来が見通せないことに苦しんでいる。私たちは大震災による災害遺産を含め、地域にあるジオ資源を活用したジオパークを作り、科学教育や防災教育、更には観光を目的としたジオツアーを実施して、被災地域の活性化を図ろうとしている。
本講演では宮城県東松島市野蒜地区を例にして、ここにあるジオ資源(ただし今回は津波に関係することにのみ焦点を絞る)とそれらが物語るジオストーリを紹介する。

東松島市と東日本大震災
 東松島市は松島湾を取り囲む五つの自治体の一つである。同市では東日本大震災によって全住民の約3%、1,134人の犠牲者が生まれ、また全世帯の約73%、11,054棟が家屋被害を受けた。被災とその後の過程で、数多くの災害遺構、遺物、地形や体験談などの“災害遺産”が残されたが、その後、消えていったものが多い。これらを整理し、各遺産が物語る科学や防災にかかわる知見と教訓を読み解き、後世に残すことは極めて重要である。何故なら、東松島市民や宮城県民ばかりでなく、これから巨大地震・津波を経験するかも知れない関東、西日本や日本海側の人々にとって、実物を前にし、整理された知見や教訓などを学べる数少ない機会を与えうるからである。
東松島市は仙台からも近く、そこに3.11ばかりでなく様々な時代の災害遺産がある。もし十分な受け入れ態勢と、内容を吟味した学習体制を整えることができるなら、国内外の教育ツアーなどビジターズ産業を通して、復興とその後の地域振興にとって大変に得ることが多いものと期待される。

東松島市のジオ資源
東松島市は平地を多島海の松島湾と海岸平野が発達する石巻湾とが囲み、北西からは小高い松島丘陵が海に向かって突き出た地形をしている。丘陵は中新世の海の中に堆積した火山灰、軽石や砂などからなる堆積岩、平地は1万年前よりは新しい完新世の砂層、浜堤や埋め立て地などからなる。両湾を境する野蒜一帯は、海流によって運ばれてきた砂が堆積して形成された最も新しい土地である。ここは高度が低く平坦という特徴を生かし塩田や水田として使われてきた。しかしこのことが3.11津波の際、大きな被害をもたらす一つの原因になった。
多くの島々によって守られ波の穏やかな松島湾では、縄文の昔から人々が居住し、魚貝をとり豊かで平和な生活を送っていたものと考えられている。しかし意外なことに東松島市とその近くの陸地には旭山撓曲、須江断層や利府-長町断層などの活断層が、沖には日本海溝があり、時には大地震や津波が生活を脅かす危険が潜む土地でもあった。あの美しく平和な松島湾が背後の利府-長町断層による大地震と大規模地滑りによって生まれた、という仮説を提案する研究者さえいる。2003年7月26日に旧鳴瀬町や旧矢本町を一日の内に3度も襲った、震度6弱を越える直下型地震が、そして2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震がそれらの最近の代表的な例である。同様の災害は3.11ばかりでなく、少なくとも6000年昔の縄文時代の津波、869年の貞観津波、1611年の慶長三陸地震津波、1960年のチリ地震津波などによるものが地層中に、遺跡として、伝承として、文書として東松島には保存されている。

東松島市野蒜地区の3.11被災遺産
東松島市は松島湾を取り囲む5つの自治体の中で、津波による被害が例外的に大きかった自治体であり、その中でも野蒜地区は最も被害が大きかった地域である。その結果、野蒜には3.11津波に関連する数多くの遺構、遺物、地形や体験などが残された。本研究では、それらが消え去る前に、簡単であっても記録にとどめ、今後の科学教育や防災教育に役立てようとしている。この地区で将来の学習のために残す価値があると判断した14ヶ所について記載を行った。講演ではそれらを紹介すると同時に、野蒜全体をまとめうるジオストーリ例を紹介する。話しの中心は、何故ここが大きな津波災害をこうむったのか、それを減じるにはどうすれば良かったのかと言う点である。