日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT31] 環境トレーサビリティー手法の新展開

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)

18:15 〜 19:30

[HTT31-P07] 岩手県大槌町の河川水の水質成分と安定同位体比の分布

*Kicheol SHIN1中野 孝教1森 誠一2池田 浩一3 (1.総合地球環境学研究所、2.岐阜経済大、3.筑波大学)

キーワード:大槌町, 河川水, 地下水, 化学組成, 安定同位体比

岩手県大槌町は2011年3月1日の巨大津波により壊滅的な被害を受けた。この町は大槌湾に面し、大槌川、小鎚川、鵜住居川の三河川が流入している。狭い沿岸平野には良質な地下水が豊富で、生活や日本酒、豆腐、サケ養殖などの産業に利用されてきた。町の復興に向けて、この地下水の賢明な利用が期待されている。地下水の涵養域や流動に関する基盤情報を得るため、三河川の支流および本流の約200地点において採水し、それらの化学組成と安定同位体比を分析した。それらの分布をARC-GISソフトウェアを用いて解析した。
水の水素と酸素の安定同位体比は日本の河川水に見られる一般的な傾向を示し、沿岸からの距離・高度と共に減少するが、重水素過剰値(d値)は山地域に向かって増加している。このことは、山地域では降雪あるいは降水の再蒸発による寄与が大きい可能性を示唆する。ナトリウムやホウ素、マグネシウムの濃度も海岸から山地域に向かって単調に減少しており、海塩粒子の寄与が水蒸気輸送と関連していることを示唆する。
本地域には、白亜紀の花崗岩および古生代の海成堆積岩類が小鎚川・鵜住居川の上流域に分布する。その他の地域はジュラ紀の付加コンプレックスで構成されるが、上流域では玄武岩や超苦鉄質岩、下流域ではチャートが卓越する。ストロンチウムの安定同位体比(87Sr/86Sr)は地質と良い対応があり、花崗岩地域で低く(0.705-0.706)。チャートが存在する中流~下流域で高い(0.709-0.712)。地球化学的分布が似ているSrとCaの割合(Sr/Ca)が花崗岩地域の河川で高い。これらのことはCaとSrが主に流域の岩石の化学風化に由来することを示している。しかし両元素をはじめ、多くの溶存元素の濃度は地質と良い一致を示さないことは、風化過程での元素分別などの他の要因が大きいことを示唆している。
北上地域には金鉱床が多く硫ヒ鉄鉱を伴っているが、本地域の河川水にもヒ素が2mgL-1以上の地点が局所的に分布しており、金鉱床による可能性が高い。いっぽう鉛やカドミウムなどは沿岸域で高いが、濃度は極めて低く、人為影響による可能性は低い。本流河川は上流の影響が強く、支流河川と異なる水質を示す。このことは水質マップの作成においては流域単位が同程度の河川で作成することが望ましいことを示している。沿岸の平野域の地下水は、大槌川、小鎚川、城山の三流域に識別できたが、今回の河川水の水質マップはこの可能性と整合している。とくにSr同位体比は三種類の地下水の識別に有効であり、本沿岸域地下水の涵養域の良いトレーサーとして利用できる。