日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 105 (1F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)、座長:石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)

09:15 〜 09:35

[U06-02] 太陽地球生命圏相互作用系の統合的研究の重要性

*安成 哲三1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:太陽, 地球, 生命圏, 相互作用, 地球システム, 統合的研究

20世紀の地球科学は、地球を細分化し、それぞれの現象・プロセスに近代物理学・化学の手法と考え方を導入して解明を進めてきた学問分野といえる。そして、それぞれの分野において、新たな現象の発見、解明を含めて、近代的な地球科学諸分野が発展し、それぞれの分野に対応した多くの学会が設立されている。この流れはもちろん、否定すべきものではなく、科学の歴史的発展の一段階として必然の帰結でもある。
 現在、「グローバル」に拡大・発展してきた人類活動は、地球温暖化やオゾンホールに代表されるいわゆる「地球環境問題」を引き起こしてる。しかし同時に、この人類の知的活動の進展により、地球が、太陽エネルギーを受けながら、さまざまな物理・化学プロセスが相互に密接に関連して機能し、進化してきたひとつのシステムであることを再認識させることにもなった。そして、最近の国内外の研究により、人類を含めた生命圏も、このシステムの進化・変化の過程に能動的に働きかけながら、現在の地球をかたちづくってきたことが、明らかになってきた。たとえば、大気のオゾン層は、太陽からの紫外線フィルターとして、生命圏の維持に不可欠な役割を果たしているが、このオゾン層は対流圏からの酸素の絶えざる供給によって維持され、その酸素はもちろん、生命圏の光合成活動により維持されている。オゾン層のもうひとつの重要な機能は、大気成層圏の維持であり、成層圏の存在が、生命にとって不可欠の水物質の保存と水循環を含めた、地球表層と対流圏における閉じた物質循環を保障している。すなわち、オゾン層と生命圏は、相互にその維持を担う共生系を成しつつ形成されてきたことがわかる。一方で、強烈な太陽風エネルギーから生命圏を保護してきたのは、地球磁場の存在です。地球磁場の維持と変化によるオーロラの変動や、その変化機構を担う固体地球内部のダイナミクスも、地球表層の生命圏の進化と決して無縁ではない。現在の地球の生態系も、水・物質循環を介して、気候と共生的関係にあることが、ここ数年の私たちの進めてきたプロジェクトで明らかになりつつある。
このような地球システム全体を、太陽・地球・生命圏相互作用系と捉え、過去から現在に至るこの系の変化のダイナミクスを改めて理解し、未来をも予想することは、物理学・化学の応用問題としての地球科学ではなく、地球という惑星そのものが何であるかを考究する新たな「地球学」の構築をもめざすことでもある。そして、この地球学は、人類を含む生命圏の存続とさらなる発展(進化)が、今後どのようなかたちで有りうるかを考える基礎と契機になりうるであろう。
このような統合的研究の試みは、2003年から5年間にわたり名古屋大学21世紀COEプログラム「太陽・地球・生命圏相互作用系の変動学」として実施され、その成果の更なる発展を期して、統合的研究所の設置が提案された。そのコアとなる活動は、学内の「地球生命圏研究機構(SELIS)」として引き継がれたが、新たな研究所としては時期尚早として見送られた。その後、SELISの統合的研究の必要性は、Future Earthなどの地球環境研の統合化の流れなどからも、さらに高まっているといえる。この度、名古屋大学が、太陽地球環境研究所、地球水循環研究センター、年代測定研究センターを改組・統合してこのSELISの統合的研究を目指した新たな研究所を設立するを決定したのは、このような国際的な動きと要望にまさに合致するものであり、統合的地球システム研究の世界的中核としての役割を担うことを大いに期待するものである。